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いきなりボス部屋(後編)


  ◆ ◆ ◆



「…こ、ここ、降参、しても……良い、ですか……?」


「…しまった。

 言われてみればこの部屋、どこにも逃げ道が無い!?

 ……次からは非常口も用意しておくか……」


「………」


「…ああ! すみません、お帰り頂いても結構ですよ?

 帰りも同じ入り口になっちゃいますけど、外で待ってる人たちには中の様子はまだ言わないで下さいね?

 楽しみが減っちゃうので」


「え、あっ、はい」


「それと蘇生は、入り口横の落とし物センターになります。

 …それからこれ、おみやげにどうぞ。

 うちで採れた、採れたてです」


「…魔氷?

 …あ、ありがとうございます!?」




  ◆ ◆ ◆



 結局、この日の収益は銀貨58枚(=58名蘇生、みんな即金払い)だった。


 …これが毎日続いたら、おれと町長さんが頭を抱える事態になりそうだ。

 多すぎる。

 月額ならまだしも、たぶん一日に(かせ)ぐような金額じゃない。

 ちょっと、なにか対策を考えなければならないかもしれない。


 それと、ここで初めて大銀貨(=銀貨十枚分)の存在を知った。

 ふつうの銀貨のことは小銀貨とも呼ぶらしい。


 冒険者たちが気をきかせて自分たちで「おつり」を調整してくれたようだが、次からはこちらで小銭も用意できるように町長さんと相談しなければならない。

 やっぱり初回は分からないことだらけだった。


 途中で棄権(きけん)した者たちも三名いた。


 彼らには開店初日の参加記念品として魔氷をおみやげに渡して帰ってもらった。

 魔氷を街でいくらで買い取るかは町長さんに任せている。

 やっぱりうちのダンジョン経営は、町長さん頼りの部分が大きい。



 アテナもここに呼んで、おれたち三人で反省会を実施した。


 …アテナはそのまま上の隠し部屋の方に行ってしまったけれど、モルフェと二人で感想を言い合う。


「こっちの世界の魔法は少し怖かったけど、モルフェが言っていた通りどうにかなったな」


「うん、『言った通り』とは少し違うね?」


 この世界ではすべての物質に魔力が宿(やど)っている。

 それは魔術が使えないおれも同じで、むしろ一般人よりもおれの魔力量は多いらしい。


 魔力量は、そのまま魔法に対する抵抗力にもなる。

 心頭滅却(しんとうめっきゃく)すれば火もまた(すず)し、が文字通りに適用されてしまう恐ろしい世界だった。


 だから牽制(けんせい)くらいの魔法なら、気合いで殴ればおれにもかき消すことができた。

 モルフェに教えてもらった通りだった。


「違う、違うよアルジィ。

 そうじゃない、そんなこと言ってなかったから!

 それにあれ、牽制じゃなくて、いくつか本気のやつもあったから!」


 …本気のやつも、気合い一発でどうにかできる場合もあるらしい。


「…つまり、あれよりももっと長い詠唱の魔術だったら、その分、威力も上がるってことか?」


「そうだよ!? だから絶対に長い詠唱なんてさせたらだめだからね!」


 一応、それ対策も考えていた。

 長杖を投げつけて阻止する、である。


「そんなの、対策とは言わないからね?」

「あ、はい」


 モルフェさんがおれに厳しい。

 この木の(ぼう)については、さりげなくボス部屋の(すみ)っこにいくつか予備を置いて投げ放題にしておいた……けど、今回は一本だけで十分だった。


「ところで、あの必殺技を叫ぶやつは何? ヤル気スイッチ?」

「なに、ヤル気スイッチって?」


 いちいち技の名前を教えてくれるから、後半になるころには同じ技を使ってくるやつらの動きが先に読めてしまった。

 だけど、あれにも意味があるらしい。


「えっとね、アルジィに分かりやすく言うと、あれも魔法の一種なんだよ」


 火とか石とかを詠唱で飛ばして来るやつに限らず、剣での直接攻撃も、おれにとっては魔法と考えた方が正しいらしい。


 こっちの世界ではすべての物に魔力があって、何かをやれば自然と魔力がこもるのだとか。


 剣術も、もちろん力や技は重要だけど、それとは別枠(べつわく)で振り下ろした剣に不思議な力が宿ることで威力が増したりするらしい。

 使い手の魔力を消費しながらその不思議パワーが宿っていく。だから魔法だ。


「アルジィが相手の剣を木の棒で受け止めるのだって、魔法じゃないの? 冒険者たちが驚いてたよ?」

「あれは技だ」


 例えるなら、スポーツ選手がボールを体で受け止めるのと同じ感じ?

 飛んでくるボールにあわせて当たる瞬間に体を引くから、ボールが取れる。

 そうしなければボールが体ではね返るか、当たったところが怪我(けが)してしまう。


「…というより、飛んで来た何かを受け取る時、人はほぼ無意識に色々やる。

 軌道(きどう)を予測して、それに合わせて体を動かして、衝撃を吸収しながら受け止める。すべて無意識で一瞬のうちに。

 練習すれば、もっと上手くなる。

 それを棒でやるだけだ」


「だけ、って」


 木の棒を選んだのは、おれが一番使いやすい武器だからだ。

 加減がしやすく、ある程度()()()()、力を加えるとちゃんと折れる、そんな木の棒が一番安心できる。


頑丈(がんじょう)すぎる武器だと、武器ごと押し切られた時に逃げられなかったりして、かえって危ない場合がある。

 鉄は強いけど、取り扱いの難易度が上がる……というのは好みの問題だと思うけど、おれの場合は木の棒くらいがちょうど良い」


「そ、そうなんだ」

「………」


 いつの間にかモルフェの(となり)にアテナも増えていた。

 武器の話だと興味があるのか?


 ちょうど良い、ここから先は三人でやる必要がある。



「…というわけで」


「「?」」


「二人の得意な武器は、何?」

「えっ」

「?」



「魔術も使って良いよ? 最初は手加減して欲しいけど」




 いつかやらなくちゃいけないと思っていた「おれたちの訓練」。

 それをこの日から開始した。

 営業時間終了後に、大きな問題でも発生しない限りは毎日、訓練を実施する予定である。



 全身包帯姿のモルフェは、予想以上に強かった。

 少し運動させたらすぐ休憩(きゅうけい)、くらいに思っていたら……ちっとも怪我人なんかじゃなかった。


 基本的に素手で戦うスタイルらしい。

 おれも本当はそうだから、おれの訓練相手としてとても助かる。


 なんて思っていたら、この包帯、さらに無詠唱で魔術(?)までぶっ放して来た。

 …もう、こいつがボスキャラで良いんじゃないのか? と思ってしまった。



 だがそれよりも(さら)に予想外の伏兵(ふくへい)がいた。

 アテナである。


 たぶん祖父(クソジジイ)と良い勝負ができそうなくらい、実はヤベェ女の子だった……

 …あのクソ神が祖父(クソジジイ)の力をおれに継承してなかったら、おれは秒でアテナの双剣やら刀やらの色んな武器でみじん切りにされていたことだろう。



 …いや、ほんと、危なかった。

 一歩間違えていたら、おしまいだった。



 もし「先に」この二人と戦っていたなら。

 冒険者たちよりも前にモルフェとアテナと戦っていたら?

 自信を無くしたおれは、ダンジョンマスターなんてやって無かった。


 いきなりボス部屋どころじゃねぇ。

 開店前から閉店して、そのまま冒険者なんかには絶対に見つからない土地を求めて、今頃は旅に出ていたことだろう……戦う順番を間違えなくて、本当に良かった……



「…でも、二人がいてくれて助かった。幸運だ。

 二人に(きた)えてもらったら、そんじょそこらの冒険者相手ならまったく問題なく戦えそうなことが分かった!

 良いぞ、これは良い! 最高の結果だ!!」


「……(おに)

「………」


 二人はうつぶせのままだった。

 首だけこちらに向けたモルフェが、(うら)めしそうに言ってきた。


「…ボクはアルジィのことが(きら)いになりそうだよ」


「そうか? おれはモルフェもアテナも、ますます好きになったぞ!」

「…ぜんぜんうれしくないよ」

「………」


 アテナはうつぶせのまま、ぴくりとも動かなかった……


「………あのー? アテナ、さん?

 大丈夫……ですか?

 …でも、ほら? おれたちだって、ちゃんと練習しておかないと、いつか負けちゃうと思って、ね……?」


「………」


 無言のアテナの代わりにモルフェが答えた。


「大丈夫だよアルジィ。

 たぶんアテナちゃんは、(くや)しいような、うれしいような、複雑な気持ちになってるだけだから」


「そ、そう? なら、いいのかな……?」


 床と対話中ではなく、(おのれ)と対話中なら、まぁ、いいのかな……?


「ボクはアルジィのことがキライになりそうだよ」


 とてもご立腹のモルフェだが、それでもおれの訓練に良く付き合ってくれた。


「…ご、ごめんね?

 もちろん、加減はしたつもりだけど。

 あんまり手を抜いて練習すると、実戦の時に役に立たないから、ね…?」


 冒険者たちが使ってこなかった魔法の数々をモルフェがあえて見せてくれたのは、おれを(きた)えるためなのだろうとすぐに分かった。


「……ボクはアルジィのことがキライになりそうだよ」

「ほんと、ゴメンね!? この埋め合わせは必ずするから! でも練習には付き合ってね、二人とも!?」

「………」



 …今後の訓練は二人の機嫌(きげん)に合わせるとして、この日おれは最高のパートナーを得たことは間違い無かった。




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