いきなりボス部屋(前編)
うちのダンジョンが発見されてしまい、いよいよ冒険者たちがやって来るという今日この頃。
本格的に攻略を開始されてしまう前に、おれは先に試しておきたかった作戦を実行に移した。
ダンジョンの入り口から入ってすぐに、大扉。
扉の上には重々しい雰囲気で、こう書いた──
この扉をくぐる者、一切の希望を捨てよ
※お一人様ずつご入場ください
※団体の方は、1チームごとにご入場ください
※体調に不安のあるかたは無理をなさらず、
日をあらためて挑戦してください
──…そんな「ボス部屋」である。
入り口から徒歩五秒でボスと対決だ。
…むかし、RPGとかやっていて「強い奴がいるなら、カッコつけて最後に登場せずに最初からそいつが戦えよ?」って不思議に思ったことは無いか?
おれはある。
だから今回はそれを実行した。
◆ ◆ ◆
「……いきなりボス部屋?」
このアイデアにモルフェは最初、難色をしめしていた。
…難色というか、こいつなにいってるの? の顔色である。
「なんだ、モルフェ? 不服か?
どうせ全長50メートルしかないダンジョンなんだぞ?
遅かれ早かれ、すぐに誰かが到着しちまうんだ。
それならいっそ最初から潔く、最大戦力をぶつけてみるのも一興だろ?」
最大戦力も何も、おれたち三人しかいないけどな!
零細企業なんだよ、うちのダンジョンは!
「それならせめて、途中の道のりで魔物に迎撃してもらう……のはアルジィが嫌なんだっけ?」
「そうだな。 …自分の配下が無残に倒される姿は、見ていて気持ちが良いものでは無いからな」
それがたとえスライムであっても。
…人型の魔物ではなくスライムなら大丈夫かな? と思ってたけど、やっぱりだめだった。
あのちょっと大きめの「まんまる水ようかん」の姿に慣れてきてしまって、ちょっぴり心が和むようになってしまった。
また別の従業員を増員したところで、同じことになりかねない。
次はフェアリー? 和むにきまってるだろ、そんなもん!
だから魔物を使って迎撃するのは、ちゃんとこちら側から冒険者たちを無残にあれこれできる目途が立ってから、計画したい。
「…えっと、それならアルジィ、罠は?
たしか最初は、色んな罠を考えてたよね?」
「それも考えなくも無かったけど。
…そもそも罠ってのは基本、初見殺しで二度目は通じないと思った方が良い」
どちらかというとアレは防犯目的のような気がする。
罠を隠すよりも、あえて罠の存在をちらつかせるやつだ。
わざと目立つ位置に防犯カメラを置くみたいな、威嚇や牽制の役割である。
…けど、殺傷目的ならもちろん罠はすべて隠す。
「だけどそんな罠も、やたら頑丈なやつとか人海戦術なんかで、漢探知でもされたらまるで役に立たないぞ?」
「漢探知……」
漢探知とは、あえて罠を踏むことで無力化していくという、探知とは名ばかりの奥の手である。
「アルジィがいた世界は本当に恐ろしい場所だったんだね?」
「そうだ。そんな発想に至るような変態連中が跋扈する世紀末の世界だ。
…ん? いや待てよ?
それならせめて入場制限をつければ、人海戦術くらいは阻止できるか?」
「入場制限付きのダンジョン……」
そこで入り口には「※お一人様ずつご入場ください」と書いておくことにした。
「…でもアルジィ? ふつうはダンジョンに単独で入ったりはしないんだよ?
前衛を近接戦ができる戦士で固めて、後衛に遠距離攻撃や支援ができる魔術師が加わるから」
さらに言えば、罠を(漢探知以外で)発見する斥候役も加わってくる。
「なるほど。それはなんとなく想像できる」
「でも、一人ずつ入場しちゃったら」
「…後衛がすごく、かわいそうだな」
いや後衛に限らず、攻撃も支援もなにもない防御壁役も……ぶっちゃけ全員、かわいそうか?
だから入り口に「※団体の方は、1チームごとにご入場ください」も書き足すことにした。注意書きがどんどん増えていく。
「…まあ、注意書きが守ってもらえるかどうかは別として。
おれとしては余裕のあるうちに、早めに冒険者の実力を体感しておきたいとは思っている」
「それは……たしかに必要かもね」
あのダンジョン調査隊を基準に対策を練ったらまずいと思う。
アテナの蹴りで決着がついたあれはある意味、ショートコントみたいなものだった。
ちゃんとした戦力調査が必要だ。
「とにかく、そういう目的で、このいきなりボス部屋を考えた。
このダンジョンの全容が判明していくほどに、おれたちは不利になっていくことだろう。
やがては冒険者たちも準備を万全にして挑んでくるようになってしまう。
だったら、不意打ちぎみに早い段階で、試せることはすべて試しておいた方が良いだろう、と思ったんだ」
「…うん。それはあるかも」
納得してくれたモルフェに、おれはホッとした。
ちゃんとおれの軌道修正をしてくれそうなモルフェが、納得できるかどうかも重要な判断基準のうちの一つだったわけだけど……
…だが、この時のおれは考えが少し足りて無かった。
新しいダンジョンに一番乗りしてくるような連中は、初心者ではなく熟練者だ。
他の連中が嗅ぎつける前に俺達が速攻でダンジョンを攻略してやるぜ! という、ヤル気に満ちあふれた連中がくるのが初日である。
だからある意味、初日が一番あぶない。そこまで思い至って無かった。
◆ ◆ ◆
ボス部屋の中には、仮面をつけておれが一人で立っていた。
仮面をつけているのはカッコ良いからではない。
…カッコイイやつを選んだつもりではあるけど。
これをかぶる目的は顔バレの防止のためである。
顔が知れ渡って街とか歩けなくなってしまうのは、少し困るので。
そこに最初に入場してきたのは、冒険者五人組。
「……マジで?
…お前が、ここのダンジョンマスターか?」
一体なにに驚いているのかは知らないが、目を丸める彼らにおれは答えた。
「そうだ。ここが最初で最後の部屋だ。
そのつもりでかかってこい」
なんだ、不満か?
となりにアテナでも立たせておいた方がうれしかったか?
それとも謎の全身包帯の方がインパクトがあったか?
…おれは目の前の冒険者達に比べると、彼らよりも年下に見えるであろう外見だ。
となると、不満というより、罪悪感か?
もしそうなら、彼らには余計な気を遣わせてしまったかもしれない。
それならもう少し彼らに判断材料を与えてみる。
「……いつぞやのダンジョン調査隊程度ならば、ものの数にも入らない。
それでも気が引けるというのなら、遠慮なく帰宅してくれてかまわないが?」
「…悪いが、俺達は引き返す気はねぇ。
せめてひと思いに殺してやる」
「気が合うじゃないか!
こちらもそのつもりだから、安心しろ!」
「「………」」
冒険者たちが目を丸めるも、互いに一瞬の目くばせをして、それぞれが武器を構えなおす。
ダンジョンで蘇生させる予定とはいえ、これは殺し合いだ。
狩人の礼儀として、せめて嬲らず、一撃必殺。
そこはもう、割り切ることにした。
ここはお互い、命がけだ。
先端を鉄で補強してある木製の長杖を突き付けるように構えて、おれは前衛であろう剣士の男の出方をうかがう。
「…いつでもどうぞ?」
「……ああ!! いくぜっ!!」
先頭のリーダーらしき男が、走り出す。
なにかの必殺技のつもりなのか、技の名前を叫びながら飛んで来た。
それはさすがに、舐め過ぎだ。
喉への一突き。
このダンジョンでの死を意味する白い炎に男の影が飲み込まれる。
その姿に、一斉に叫び出す冒険者たち。
「い、一撃!?」
「魔術師じゃ無いのっ!?」
「関係ねぇッ!! ヤベェぞあれは!!」
「…超危険種と思え、全員で殺るぞ……!!」
…ごめん。
魔術師みたいな黒の法衣を着たのが、誤解をまねいてしまったらしい。
なんか動きやすさを重視した結果、こんな姿になってしまった。
長杖も、詠唱補助具ではなくて、ただどつくための棒である。
意図しないところで色々と騙したみたいになってしまったのは申し訳ない。
それでも、それはそれとして、おれは容赦なく突撃して、残りの四人を迅速に狩っていく──
──正面、盾男、その盾の前で屈むように右へすり抜けざま男の右足、内踝に突き、そのまま正面の魔術師、とみせかけて右斜め後ろの軽戦士の眉間を後方突き打ち、正面魔術師のこめかみに薙ぎ払い、盾男の背にまとわつくように後方踏み込みから振り向き振り下ろしで魔術師その2の脳天を殴打、盾男の脇腹への肘打ちは牽制、本命は首──
──魔術を詠唱(?)されて少しあせったけれど、それでも特に問題もなく、十秒くらいで初戦は片付いた。
盾をすりぬけたら想定外っぽい反応だったから、そのままやや強引に押し切れた。
「…よし。これならどうにかなりそうだな」
床にカツンと長杖を突き立てる。
周囲にはもう、おれの他には誰もいない。
彼らが落とした武器や防具も全部まとめて、ダンジョンの白い炎に飲み込まれた。掃除いらずで便利だ。
…けど、本当に何ひとつとして残らないのが、それはそれで不気味だった。
一区切りついたからなのか、上の隠し扉を開いてモルフェが、ロープを使って……じゃない、飛び降りて来た!?
「ちょっとアルジィ!? 止めるタイミングが分からないよ!!」
なんかモルフェがキレ気味だった。
「え、ちょ、何!?
今の、止める必要なんてあったのか!?」
「五対一って!?
なんでアルジィ、一人で、五人も、一度に相手してるのっ!?」
…あー、そういえば。
何人以上だったらモルフェが止めに入るのか、打ち合わせしていなかった──
──モルフェが上の隠し部屋に待機していたのは、いざという時に切り札を使うためだ。
モルフェが手動で水門を開くと、天井に用意した貯水槽から大量の水が落ちてくる。
そして水ごとダンジョンの外へと押し流してしまう作戦だった。
勝てないなら水攻め。完全に、ズルである。
一応、水がどこに流れていくかは計算した上での作戦だけど………サウスティアの街の住民たちはきっとドン引きだろう。
これは本当に最後の手段のつもりで用意した──
──だからモルフェも、切り札を使うかどうか判断に迷ってしまったのだろう。
「すまん、じゃあ、次からは水を流す時にはおれがこう、両手で大きく合図するから。
具体的には……十人以上まとめてぞろぞろ来た場合に、合図する?」
「十人!? 五人でも多くない!?」
「違うぞモルフェ、むしろ乱戦の方が同士討ちを誘えるぶんだけ楽らしいぞ?」
クソジジイの話である。
おれは乱戦なんてやったこと無いから、知らんけど……
「とにかく! 危なかったらもう、水を流しちゃうからね!」
「…実はその水、おれも危ないんだけどなぁ」
ちょっと怒り気味のモルフェが再び上にある隠し部屋へと戻って行く。
あまり苦戦すると、上から水が降ってきそうだ。
まずい。おれがピンチである。
ちなみに、ボス部屋の大扉を施錠、解錠する係もモルフェだ。
解錠されると、外の扉の前の「とりこみ中」表示が「次の方どうぞ」に切り替わる仕組みである。
いずれはそこも、自動化したい。
すると、再び部屋の大扉を開ける者たちが現れた。
「……おいおい、嘘だろ。
あの『ダンジョン狩り』が、こんな短時間で………全滅……!?」
最初のチームの全滅に驚く男に、そういえばその辺の注意書きも無かったことに、今さらながら気がついた。
やっぱり初回は不備が多い。
「蘇生なら入り口横の落とし物センターで銀貨一枚だ。
持ち合わせがないのなら、今日のところは引き返せ。
悪いが、あんまり手加減する余裕がなくなった」
上から水が降ってくるからな。
「…いッ、言ってくれるじゃねぇかよ、おい……!!」
そして二戦目が始まるのだった。




