第33話 帝国跡地
「結局来てしまったですぞ」
「ほぼ拉致だったな…」
人狼の町でスライム族に発見されてしまった僕達は帝国の跡地に連れてこられた。
驚くことにあんなに難儀したドラゴンの町も素通り、帝国を滅ぼしたスライム族は英雄であり、顔パスでどこにでも行けてしまうらしい。
そして僕達は目が眩みそうな豪華な馬車で輸送されたのだ。
隣にはスライムの町で出会ったキリカさんが座り、道中色々聞かせて貰った。
現在帝国跡地はスライム族が統治している。
国全体を滅ぼしたというワケではなく、王族とその配下、言ってしまえば悪者を全員殺した。
帝国に住んでいた住民は今でも普段と変わらない暮らしをしているが、犯罪紛いの事をする奴等は粛清しているので治安は良いらしい。
住人からすれば暴君がいなくなり、安心して暮らせる環境だと喜ぶ者が多数だそうだ。
「正直皆殺しレベルだろ思ってましたぞ。だって滅ぼされたって聞いたし」
まあそうだな、獣人からしたら人間なんてみんな同じに見えると思ってたけど違うらしい。
「まあ悪者を倒すのは罪悪感が無いですけど、やはり皆殺しとかはしたくなかったので」
キリカさん達にしっかりした理性があって良かった。
「そして今からどうなるの…僕達…」
時間稼ぎに喋っていたが今僕達は謁見室の前にいる。
中でどんな話をされるんだ…帰りたい。
「それでは行きましょう!王の間です!」
扉が厳かに開き、色んな種族の兵士が頭を下げている。
そして王座に目をやると…
「王様は不在ですぞ?あらまそれは良くない、帰りますぞ、さあトーマ君、君も帰るよね。」
「誰もいないなら仕方ないよな、そうしよう、じゃあ僕たちはこれで」
帰ろうとすると兵士が扉の前に立って通してくれる気配がない。
「ちょっと君達、そんな事をする為にこの仕事を?そんなんじゃ駄目ですぞ、一緒に帰ろう、お金あげるから。」
「ダメですよー、早く王座に座って下さい、みんなこの日を心待ちにしてたんですよ。」
キリカさん…許して下さいよ…
「どうする?ポメヤ、あそこに座ったらもう旅は出来ないぞ。」
「それはダメですぞ、僕は約束があるもんで」
そういやコイツが言ってる約束ってなんなんだろ?僕との約束じゃなさそうだし。
「別に旅に出ても良いですよ?」
キリカが予想外の事を口走った。
「え?良いの?」
「ハイ、王になった後でも特に仕事があるわけではないですし、言い方は悪いですけど国のシンボルになって頂ければ。」
うーん、どうだこの提案は…まあ帰る事は難しそうだし…帰る家ができたくらいに思ってればいいのか?
「自由にさせてくれるならまあいいですぞ、しょうがないから、ただ王様は僕という事で。」
お前がそれで良いなら…重大な選択だと思うけど、まあ良いか…逃げ道がない以上しょうがない…か?
「王座は二つあるのでお二人でどうぞ!」
二人でいいの?
なるほど、スライム族も急に帝国なんて手に入れたから要領が分かっていないんだ、とりあえず王様がいないとカッコつかないから僕達を選んだわけか。
完全にハズレクジだが余裕が出来てきたら王座を誰かに渡してしまおう。
「分かった、王座に就こう、だけど約束通り自由にはさせてもらうよ。」
そう言って僕たちは王座に座り、全員から拍手喝采が沸き起こった。
何も持たずに異世界転移してきた僕は、何も分からないまま王になってしまった…。
これから何が起こるかなんて…考えたくもない…
「まあなるようになりますぞ、カッカッカ」
こうして僕達の新しい生活が始まるのである。
何も持たずに異世界転移した僕は、間抜けな魔物と旅をした結果、王になってしまった…。
これから新生活が始まる…のだろうか。
次回作
【何も持たずに異世界転移した僕は小さな間抜けと王になる】に続きます。




