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第1話 酒の泉のエルフの町

何の能力も持たない異世界転移者トーマ。

ヒヨコを大きくしたような大きい口の短足の魔物ポメヤ。

一人と一匹は色々な種族の町を巡る旅人。

辛い事も多いが好奇心に勝る感情は無い。

「到着ですぞー」


無駄に元気な声が膝下から聞こえる。

この小さなモンスターはポメヤという、僕が転移前に飼っていたペットの名前をそのまま付けた。


僕がこの世界に転移して初めて会った魔物である。


人間に興味があり人懐っこい、昔に会った老人の口癖を真似しており、本人は貫禄があると思っているがこれがなんとも間抜けな感じなのだ。


せっかく異世界に来たのだ、1人と1匹で色々な種族の町を巡る旅をしている。


僕はこの世界に来る前の名前を忘れていたのでこの世界ではトーマと名乗っている。

覚えやすい名前だ、シンプルな方が良い。


そして今僕たちはエルフの町に到着したのだ。

長寿の種族、耳が長く美形揃い、服装以外で男女を見分けるのは僕には不可能だ。


「とっとと行くですぞ!今!今ぁ!ノドが!」


勢いで話すなよ、ノドが乾いたんだろ?


入り口には背丈の倍もありそうな槍を持った番兵が二人立っていた。

なんか酒臭いなぁ…

酒気を帯びているエルフに挨拶をする


「旅行で来ました、数日観光を考えております。」


エルフの男はどうぞごゆっくりと快く通してくれた。


「ちょっと番兵さんザルですぞ、仕事くらいしっかりした方が良いですぞ」


お前町に入りたくないの?


中に入ると絵画の世界が目の前に広がっていた。

大樹に囲まれている広場、その大樹には幾つものツリーハウスがぶら下がっており数人のエルフが物珍しそうにこちらを見ていた。


空の光が降り注ぎ何かの結晶なのかキラキラと反射している。

中心には巨大な噴水が真紅の水を噴き上げていた。


ん?赤い噴水?


「ノド渇いたですぞー赤でもこの際構わない!」


はい、いってらっしゃい、落ちるなよ


ポメヤはスタスタと噴水に走っていき…躓いて落水した…

おいおい…エルフにとっての大事な噴水とかだったら首飛ぶんじゃないか僕達


「これー酒っぽいですぞーぬおぉぉ」


馬鹿が噴水で騒いでいると近くにいるエルフさんがポメヤを拾い上げてくれた。

エルフさんの服は真っ赤に染まってしまった。


「すいませーんウチのマヌケがー」


僕は駆け寄ってマヌケを受け取った。


「まあ味はイマイチでしたが美人に抱っこして貰って嬉しい、トントンってところですぞ」


ポメヤはスタッと地面に飛び降りてまたいらない事を喋った。


こいつ今までどうやって仲間と接してきたんだ?


エルフの美女はツボに入ったらしく大笑いしている。

綺麗な白のワンピースを真っ赤に染められても気にする素振りも見せない…良い人で良かった。


「とても面白いペットですね。見た所旅のお方ですか?良かったら町を案内致しましょうか?」


ひとしきり笑った後涙を拭きながらそんな提案をしてきた。


「宜しくお願いしますぞー白のお姉さんー」


ポメヤはワンピースのエルフを下から見上げながらそう言った。


ん?白のお姉さん?


エルフさんのワンピースはミニスカートに近い…ポメヤの視点から見上げると…


「ポメヤ君、君はちょっと頭で考える事を覚えた方が良いね」

「は?なんですぞいきなり、馬鹿馬鹿しい」


度し難いとはこういう時に使うのだろうか


「それでは荷物もあると思うので宿屋に案内致します」


「はい、助かります、えーと、エルフさん?」


「ふふ、フィリアと申します、人間さん?」


「すみません、トーマと申します、フィリアさん」


「ポメヤですぞー!宜しくですぞー!


三人で並んで宿屋までの道を歩く


「あの赤い噴水はなんなんですか?なんかお酒みたいな」


「あれですか?素晴らしいですよね、最近来た旅人さんが不思議な木の実を噴水に投げ入れてお酒にして下さったんです。飲み放題なのでお好きならどうぞ、いつ元の噴水に戻るか分かりませんし」


そう言えばフィリアさんも少しお酒臭いな、もしかして住人全員飲酒して生活しているのか?


「僕は毒無効なので酔えないんですぞー、酔っ払いの気持ちにはなれん」


え?お前毒も効かないの?初耳なんだけど。


「あのお酒頭痛くなったり気持ち悪くなったりしないんですよ、なので水の代わりにみんな飲んで生活が明るくなりました、まあ流石に得意の弓はサッパリになっちゃいますけどね」


うーん…これはなんとも…どうしようもないかなぁ…


「ここみたいですぞー!見たら分かる!」


ベットの看板で分かりやすい。

チェックインを済ませて僕たちはフィリアさんと町を回る事になった。


市場では燻製の肉や魚、野菜はピクルスになっており長期保存がききそう。

飾りこそ無いものの透き通ったグラス、謎の御守り

なんか酒のツマミみたいなもの多くない?長期保存が目的なのか?


「みんな美形なのに食生活がオッサンみたいですぞ、嘆かわしい」


君思った事そのまま言って生きていけると思ってる感じ?


「確かにあの噴水が出来るまでは新鮮なお肉やお野菜が並んでましたね、海が遠いのでお魚は燻製や干物でしたけど、でも今はお酒が湧き出るのであまり食事はしません。なので長期保存ができるおつまみが良く売れるんです。」


「大丈夫なんですか?栄養面は?塩気が多いのとお酒ばかりというのも…」


「まあ大丈夫ですよ!今まで高級品だったお酒が飲み放題なんです!少しくらい不健康でも長い人生ですし!噴水が水に戻ったらまた健康な食生活です」


そう言うとフィリアは木で出来た水筒からグイっと酒を飲んだ。


「なんかこれ吸ったら辞めるっていうタバコ中毒者みたいですぞ」


ポメヤに珍しく同意だ


一通り案内して貰ったお礼にディナーをご馳走し、宿に帰った。


「いやーなにあれ、塩?調味料みたいな食事でしたぞ」


言い方はどうあれ確かに塩っ辛い食事だった、僕はお酒は飲まないので水を飲んだが確かに酒飲みからすればあのくらいの塩分が酒が進むのだろう


「白の子大丈夫ですかなー?」


「お前名前分からないからってそこら辺で黒の人とか青の人とか呼ぶのやめろよ?」


「まあ個性ですぞ」


確かにそうだがそうじゃない。

長旅で疲れたので意識はここでストンと落ちていった。


夜…ごそごそと音が聞こえる


「ポメヤ、やめとけよ」


「なんでですぞ?鬼かお前」


「とりあえずやめとけ、明日の朝には出発だぞ」


「お前だって分かってるだろ、無理だ、寝とけ」


「うーん…」


翌朝、宿を出るとフィリアさんとバッタリ会った。


「あら?もう出発ですか?もう飽きちゃいましたか…この町…もっとお話する事もあったのに…」

フィリアは落ち込んだ様子で聞いてくる


「急に国に戻る用事が出来てしまって、とても楽しい時間でした。どうぞお元気で」


「フィリアちゃん!バイバイですぞー」


「ポメヤちゃんも元気でね、あんまりワガママ言わないようにね」


「ハイですぞー、まかせろー」


「それでは失礼します」


僕たちは酒臭い番兵に頭を下げて町を後にした。


「うーんですぞー、なんとかならんもんか」


「なんともならん、僕達では」


「うーん…」


数日歩くと帝国の軍とすれ違った。


「演習ですか?」


僕は1人の帝国兵に聞いてみた


「はっはっは、演習でこの人数で動くわけ無いだろ?エルフ狩りさ、今日の夜には到着するよ」


「しかし弓の名手揃いで難儀するのでは?」


「町の噴水に依存性の高い麻薬を混ぜてあるのさ、抵抗されると無傷で捕獲できないからな、いくら弓の名手でも麻薬でヘロヘロの奴らの弓なんて当たらないさ」


「なるほど、捕獲したエルフはどうなるんです?」


「そりゃあ王子や貴族様達のオモチャに…」


そう言いかけた帝国兵は上官に睨まれハッと背筋を整えそれ以上の言葉を交わす事は無かった。



「早かったですぞ…せめてフィリアちゃんだけでも…」


ポメヤは少し怒っている、珍しい


「無理だ、今日来た旅人がこの酒はきっと罠だから飲むな、帝国兵がよく使う手だ!なんて言って信じて貰えるか?酒を独占する気か?とか言われて最悪射抜かれるぞ。」


「でも…可哀想ですぞ…」


「俺たちに出来る事は何もない、そもそも酔っ払ったような頭でマトモな判断なんかできないだろ、市場を見ただろ?もうあの麻薬中心の生活なんだ、無駄に血が流れないだけマシってもんだろ」


「死んだ方がマシって思っても?」


「思ってもだ、生きていれば復讐するなり逃げ延びるなり可能性は無限にある、死んでしまったらそれこそお終いだ」


「そうやっていつも論理的に考えるの悪い癖ですぞ、本当はなんとかしたかったくせに」


「できたらな、できなきゃやらない方が良い」


「はぁ、ボケが…次はどこへいくですぞ?」


まあな…確かにボケかも知れないが無理なものは無理だよ、俺たちは勇者でも賢者でもないんだ。


「次はドワーフの町が近いらしい、良いナイフでも買えたらいいな」


「僕はスプーン買うですぞ!先の割れたやつ!」

あの用途不明の先割れスプーンか…自分で買えよな…


この帝国は狂ってる、でも無力な僕達にできる事なんて無いんだ。王にでもならない限り変えられないんだよ。








数日後、エルフの里が襲われたと風の噂で聞いた。

エルフは弓で抵抗しようとしたが全く当たらなかったらしい、ほぼ血は流れずに争いは終結したと聞いた。

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