オチタキシ
私が後ろに飛んで、距離を取ろうとすると、オチタキシは前に出て、距離を詰めてくる。
「稲妻ッ!!」
そこへ、かずちゃんが雷魔法でちょっかいをかける。
すると、オチタキシは動きを止め、少し怯んだように見えた。
「電気攻撃は有効って訳か……スケルトンなのに?」
骨だけの化け物に、本当に電気が効くのかは甚だ疑問だけど、一瞬怯んだ事は間違いない。
もしかしたら、雷魔法を上手く当てられれば、倒せるかも…
「こっちだ!!」
かずちゃんの方を向こうとしたオチタキシに対し、私は回し蹴りをこめかみに突き刺す事で、注意を引く。
が、オチタキシはそれを無視して、かずちゃんの方へ剣を構えた。
「…かかってきなさい。剣術なら負けない」
「ちょっ!かずちゃん!!」
かずちゃんは刀を抜き、鋭い目でオチタキシを睨みつける。
完全に、オチタキシとやる気だ。
しかも、真正面から。
(そんな無茶な…すぐに助けに―――くそっ!こんな時に限って!!)
横からかずちゃんの援護をしようとした私は、こちらへ走ってくるホネノキシの群れを見つけた。
数は5体。
オチタキシを相手しながら、5体のホネノキシと戦うのは無理だ。
普通なら、かずちゃんにオチタキシを任せ、速攻でホネノキシを倒し、援護しに向かうのが吉なんだけど……
「神林さん。私を、信じてください」
「はあ!?かずちゃん一人で勝てる相手じゃないでしょ!?」
「私を、信じて…」
「―――っ!」
かずちゃんは、こちらに一切視線を向けず、強い意志のこもった声で、そう言い放つ。
そんな事をされたら、私も強くは言えない。
しかし、かずちゃんを一人にして大丈夫なのか?という不安が、私をその場に留まらせる。
すると、オチタキシがこっちを“見た”。
スケルトンであるオチタキシに、目はないけれど、はっきりとこちらを“見た”。
その視線は、私から外れるとこちらへ走ってくる、ホネノキシの群れに向けられる。
「あれを倒してこいって?チッ……かずちゃん、私が来るまで耐えてね!!」
「むしろ、全部任せてくれても良いんですよ?」
「それは、フラグにしか聞こえないから、ちゃんと私の言うことを聞いて」
下らない事を言うかずちゃんを叱り、私はオチタキシを睨んでから、走り出す。
(モンスターとはいえ、仮にも“騎士”だってこと?《ジェネシス》の玩具の分際で、“騎士道”を意識するとは……これが、特殊個体が特殊である理由か)
チラッと振り返り、お互いピクリとも動こうとしない2人の剣士を見て、私はホネノキシの殲滅を急ぐ事にした。
◇◇◇
緊迫した空気が、私とオチタキシの間を流れる。
今なら、あの時オチタキシが私を襲わなかった理由が、分かる気がする。
コイツは、私が自分と同等の剣術を持つ存在だと理解し、一対一での死合を望んだ。
……ただ、悉く神林さんに邪魔され、キレて無理矢理一対一の状況を作ったみたいだけど。
「ふぅ~……」
緊張を息と一緒に吐き出し、オチタキシを見つめる目に力を入れる。
そして、私の動きを待つオチタキシに、私の間合いまで走り出した。
「せあっ!!」
刀を振り上げ、逆袈裟を狙うが、オチタキシは半歩後ろに下がって躱す。
初撃を躱され、隙だらけになったにも関わらず、オチタキシは攻撃してこない。
……見透かされてる。
(こんな鈍らじゃ、オチタキシの鎧は突破出来ない。私の刀が折れる。初撃はフェイントで、防がれる事を前提にしてたけど…流石に、このレベルの剣士相手に、アレは舐め過ぎか)
半歩後ろに下がるだけで、躱せるような逆袈裟。
こんな見え見えのフェイントに引っかかるほど、オチタキシは愚かじゃないし、弱くない。
だったら、リスクを取ってでももっと前に出て、確実に首を狙う。
更に前に出て、確実に首が狙える間合いに入ると、今度は刀を上から振り下ろす。
「シイッ!!」
これは躱せない。
だけど、動きは見えきってるはずだし、狙いは明白。
となると、結果は火を見るより明らかだ。
「まあ、防がれるか…」
当然のように、私の刀は防がれる。
そして、レベル差とスキルの差による単純なパワーで、私は押し返され、弾かれた。
「やばっ!?」
無理矢理弾かれた事で体勢が崩れ、無防備に腹を晒す。
そこへ、オチタキシが剣を振り上げ、私の腹を狙う。
(食らったら真っ二つ……この体勢じゃ、躱せない……なら、私が取るべき行動は―――)
目を瞑り、手を伸ばすと、強烈な閃光を発生させる。
雷魔法の応用で、雷光の目潰しを開発した。
こういう事が出来てしまう辺り、やっぱり私は魔法のほうが得意みたいだ。
オチタキシに目はないけれど、視界はある。
実際、閃光で視界を潰せたのか、動きが硬直し、剣が振り下ろされる前に、オチタキシの間合いから出ることが出来た。
「あっぶな…やっぱり、パワーの差が絶望的過ぎる」
10レベルのレベル差に、私の持っていない、《魔闘法》のスキル。
鍔迫り合いは、圧倒的に不利だし、私の攻撃は簡単に防御され、私はオチタキシの攻撃を、防御することは難しい。
この状況で、私が出来ること……
(しっかりと太刀筋を見れば、どうにでもなる。私が狙える程の隙が出来るまで、守りに徹すればいい)
無茶はしない。
大事なのは、確実を狙うこと。
刀を構え、視界を取り戻したと思われるオチタキシを見つめ、その動きを注意深く観察する。
すると、オチタキシの方から、攻撃を仕掛けてきた。
上から振り下ろされる、大木が倒れてきたような斬撃を、私は慎重に見極め、受け流した。
◇◇◇
「はあっ!!」
私が全力で拳を振り下ろせば、骨なんて簡単に砕け散る。
《鋼の体》を使った私の身体は、金剛石より硬く、当然その拳も硬い。
そんな拳が、私の全体重を乗せたフルスイングで放たれる。
それは、肉を叩き潰し、骨を砕き、内臓を破裂させるだろう。
……内臓は言い過ぎか。
「チッ!顎を砕かれてるんだから、いい加減死ねよ…」
パンチをもろに喰らったホネノキシは、完全に顎の骨が砕け散り、顔が半分無くなっている。
しかし、それでも止まろうとはせず、私に襲い掛かってくる。
その上、骨だけのくせに頭が回るのか、このままだと囲まれる。
急いで完成しかかっていた包囲網から抜け出し、一番近くにいるホネノキシの頭をひっ掴む。
そして、顔をこっちに向かせ、容赦ない回し蹴りで、頭部を完全に粉砕した。
「まずは、1匹」
頭部を完全に破壊されたホネノキシの体が、煙になって魔石が落ちる。
それを見たホネノキシは、一斉に私に襲い掛かってきた。
まるで、仲間の仇を討とうとするように。
「せいっ!!」
振り下ろされた剣を、ヒラリと余裕を持って躱し、首をへし折ってやる。
まあ、骨だけの体だから、首をへし折ったら、頭が取れた。
頭だけカタカタ動いて気持ち悪かったから、サッカーボールのように蹴って、別のホネノキシにシュートする。
その衝撃で脳天が砕けたのか、頭だけになったホネノキシが、煙に変わる。
「……ありだね。これ」
私の方から距離を詰め、その首をへし折ると、頭を奪い取る。
その頭で、サッカーをするように、頭を蹴りながらホネノキシから逃げると、割とすぐに煙に変わった。
カルシウムが足りてないね、コイツ。
「さーて、あと2匹……心做しか、ドン引きされてるような気が、しないでもないけど…まあ、気のせいか」
アンデッドが、感情を持ってるとは思えない。
…だからと言って、あの頭蓋骨サッカーは、倫理をドブに捨ててるか。
うん、感情が無くても引くわ、それ。
「残り2匹なら、全然余裕。かずちゃんの方はどうかな?」
予想外に余裕があったので、かずちゃんの方を見ると、防戦一方だった。
まあ、予想通りといえばそうなんだけど……かずちゃんの目は、何かを待っているように見える。
まるで、タイミングを伺っているような…
「おっと。余所見しすぎた」
ホネノキシの剣が、私の頭に振り下ろされた。
しかし、《鋼の体》で守られている私には、一切のダメージを与えられない。
カウンターの振り向き裏拳で、こめかみを狙うと、頭部が砕け、その一撃でまた1匹煙になる。
「あと1匹……さて、どう調理してくれようか」
指をポキポキ鳴らし、あえてゆっくりとホネノキシへ近付く。
人間なら、尻尾を巻いて逃げるところだけど…相手はモンスターで、アンデッド。
この程度で逃げたりはしない。
剣を振り上げ、勇敢にも真正面から私に立ち向かってきた。
「アイツも、かずちゃんをこんなに感覚で、相手してるのかなぁ…」
相手を見下し、軽く遊ぶくらいの感覚で戦う。
変な所で共感した私は、迫りくるホネノキシの剣を躱し、その手を掴んで背負い投げを御見舞する。
「ありゃ、今度は腕が取れた」
地面に叩きつけられた衝撃で、腕が取れた。
取れた腕が、独立して襲ってくるかと思ったけど、そんな事はないらしく、普通にただの骨になった。
ただの骨に興味はないので、その辺にポイ捨てし、起き上がったホネノキシの頭にハイキックを放つ。
当たりどころが悪かったのか、完全には砕けず、ヒビが入った頭蓋骨が、吹っ飛んでいく。
頭蓋骨はかなり吹っ飛び、家屋を超えて遠くまで行ってしまった。
わざわざ追いかけるのもあれだし、今はそんな事をしてる余裕はない。
魔石を回収し、反撃のチャンスを伺うかずちゃんの、援護に向かった。




