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VS巨竜

かずちゃんとラブラブな…夜?を過ごした次の日。

私は今日の日程をかずちゃんに話して激しい反対を食らっていた。


「今巨竜に挑むなんて無謀にも程があります!私達の《神威纏》の練度は初心者も良いところなんですよ!?」

「でも、もう使えるでしょ?」

「…私はレベル上昇が100、効果時間は凡そ10分未満。神林さんは《神威纏》の出力を制御出来る為に、効果時間こそ長いですが…私ほどの爆発力はない。そうですよね?」

「うん。でも、十分だと思わない?」

「何処がですか!」


流石の巨竜相手となると、かずちゃんはかなり消極的だ。

まあ、あんなとんでも火力のブレスを見せられちゃ仕方ない。

でも、私は行けると思う。


「私の《神威纏》は、守る事に特化してる。それは、制御出来る故の選択しだよ」

「だからなんですか?」

「確か、かずちゃんが習得した剣術の奥義使用に、数分の時間稼ぎが必要なんだよね?」

「その時間を稼ぐと?言っておきますけど、《神威纏》使用時の私はまともに魔力を扱えません。技を発動にするにはあまりにも…」


魔力をまともに扱えない…だから、奥義は使えないと。

かと言って、技を発動できる程の制御が出来るようになるまで待つ訳にもいかないし…

実戦で感覚を掴んでほしいんだけど。


「……かずちゃんだって分かってるよね?もう、時間があんまり残ってないって」

「…当然です。準備をしたのは、私なんですから」

「この1週間とちょっとの期間で、蝶の神は食糧を準備するつもりはない事が分かった。…まあ、追い詰められた状態こそ最も成長する時とか言い出しそうな奴だし、当たり前なんだけどね?」


私達が密かに抱えている問題。

それは、食糧不足。

アイテムボックスに蓄えていた万が一の時の食糧に、もう底が見え始めている。

ただでさえ、《神威纏》の習得に時間がかかったのに、余計な事をしていたせいでもう食糧が無いんだ。


「今思えば、私達がヤりまくっても何も文句を言わず、むしろ助長して来たのはこの為なんだろうね」

「兵糧攻めなんて、超越存在が取るような手段では無いとは思いますけど…確かに効果的で確実に私達の首を絞めてきてますね。実際、私達は蝶の神の掌の上で踊らされ、自分で自分の首を絞めた」

「そこまで分かってるなら、やることは1つ。とにかく巨竜に挑む。それだけだよ」


底が見え始めているとは言っても、あと数日は持つ。

一旦挑んでみて、駄目そうなら即撤退。

駄目だったところを改善して再挑戦したほうがまだ現実的だ。


「…足りない栄養は最上級ポーションで補えます」

「栄養失調を治せるだけでしょ?貯蓄が無いからすぐにまた栄養失調になるのは目に見えてるし…何より、そうならなくたって、パフォーマンスが落ちる。体が本調子じゃない状態でどうなるかは私はよく知ってる」

「……だとしても反対です。せめて、私が《神威纏》の魔力を制御できるようになってから――」

「それは、いつの話?」

「………」


かずちゃんが魔力を制御できるようになる。

それは一体、いつの話だろうか?

…私はよく知ってるよ。

こういう時はまともに練習なんてできないってね。


「若くて頭が良くて、周囲に自分と同じくらい優秀な人が居る人がこういう時どうなるかは、私はよく知ってるよ」

「なんですか…私が《神威纏》を制御できるようにならないと…!」

「ならない。断言できる」

「―――っ!!!」


私は真剣な表情でそう言い切る。

かずちゃんはこの世の終わりのような表情をして、私に縋ろうとしてきた。

それを突っぱねて、肩を掴み目を見る。


「かずちゃんは若い。特に、17歳なんて精神的に不安定で苦しむ時期だ。そんな時期に、こんな環境でこれ程精神に負荷がかかれば…どうなるかなんて想像に難くない。ましてやかずちゃんは私に依存している症状が目立つんだ。焦ってるんじゃないの?私に、置いて行かれそうで」

「………」

「私はね。高卒で入って来た後輩がどうだったかよく覚えてる。あの子は本当に可哀想だった。私でさえかなり苦しかった環境で働いていたあの子は……たった2ヶ月で精神を病んで会社に来なくなった」


あの子の境遇はかずちゃんと似ているところがある。

だから、かずちゃんも同じ失敗をするだろう。

…もちろん、失敗しないかもしれないけれど……経験則だね。

咲島さんに比べれば未熟な経験則だけど。

…それでも、かずちゃんよりは正しい。


「私に置いて行かれたくなくて、でも思うようにいかなくて…酷く焦るんだ。そして、どんどん心が壊れていく。そして結局……何も出来ないまま手遅れになるんだよ」

「………」

「でも幸いなことに、かずちゃんには支えてくれる人が居る。いつだって味方で、迷ったり間違えそうになったら正しい道へ引っ張ってくれる人が居る」


私がそう言うと、それまで黙っていたかずちゃんの目に涙が浮かぶ。

そして、震えた声が聞こえる。


「神林さん……」

「そう。だから私に任せて。不安な事や、心配なことがあったら全部私に任せてくれればいい。私の言う通りにしてくれれば…私が導いてあげる」


かずちゃんを抱きしめる。

かずちゃんも私に抱き着いてきて、静かに泣いている。

…見えないだけで、隠しているだけで相当焦ってたはず。

私に頼りたかったけど、頼れない。

そう思ってたから、頼れると知って安心してくれたんだと思う。


…まあ、本音を言うとこんな事しなくたって頼って欲しかったんだけどね?


「私はね。別に今勝てなくていいって思ってる。一回やって見て、駄目なら改善してから再挑戦。その方が、勝率が上がると思うから」

「そうですね…」

「巨竜の情報と、私達が何処までやれるのかの試し。本番はそれからだね」


かずちゃんに私の考えを話す。

何も言わずただ首を振っているだけ。

…まあ、何か問題があれば言ってくれるだろうし、私は自分の思った通りにやればいい。


…でも、出来ることなら今回で倒す。

もうこれ以上、かずちゃんに可哀想な思いはさせられないからね。


「さて…!行こうか!」

「はい!」


私が元気な声でそう言うと、かずちゃんも元気な声で返事くれる。

涙を私の服で拭き、から元気を見せて私の後に続くかずちゃんを連れて…巨竜が眠っている平原へと向かった。







「相変わらずのバカみたいな気配。やっぱ勝てる気しないね」

「…大丈夫なんですかそんなので?」

「まあまあ。ものは試しだよ。なんとかなる」

「だといいですけど」


呆れた表情で刀を抜いたかずちゃん。

私も魔力を纏って前に出ると…いきなり《神威纏》を使った。



『作戦はこう。まず私が《神威纏》を使って前に出る。そして、ある程度戦える事を見せるんだ』

『はい』

『そして、その後にかずちゃんも《神威纏》を使って奥義を放つ。できなかったら《神威纏》は使わなくていい』

『はい』

『狙うのはもちろん首だよ。倒せればそれで良し。駄目そうなら少し戦って軽く情報を集めてから撤退。ここまでで何か質問は?』

『…私が後に《神威纏》を使う意味、ですかね?先に私が使って注意を引いてから、神林さんが攻撃。そして、大した脅威じゃないと思わせてから使い、神林さんに注意が向いたところでズドン!これじゃ駄目なんですか?』

『確かに、その方が確実に当てられそうだね。…でも、私は巨竜はかずちゃんの奥義を避けないと思う』

『その根拠は?』

『あいつ、硬すぎるんだよ。それに、かずちゃんの剣術はほぼ魔力攻撃。《龍鱗》のスキルでかなり弱体化するだろうし、大したダメージにはならないって考えて避けないんじゃないかな?』

『…どうでしょうね?まあ、確かにそう考えるとありな作戦ですし、元々勝つ気もない。いいですよ。その作戦でいきましょう』



私達の作戦はこうだ。

そして、私が作戦通り巨竜に攻撃を仕掛けた直後、巨竜も私を敵と認知する。

まず一発。

私の本気のパンチが巨竜の脛を直撃した。


「かった!!?」


世界一硬い物質を殴ってるくらい硬い。

まじで強度がイカれている。

何だったら魔力武装も使った本気の一撃。

内側までダメージが届くはずなんだけど…


「これが巨竜の《龍鱗》か…まさか、私の魔力武装を無効化するとはね……しかも、《鋼の体》がほぼ中和された」


攻撃の為の魔力武装は鱗の部分で完全に魔力が霧散し無効化された。

よって、追加ダメージは無し。

それどころか、身を守りガントレットやグローブの代わりをする手の《鋼の体》が中和されてしまった。

完全に中和はされてないから手にダメージは無いけれど…連撃を放てば私の手が潰れる。


「まさかここまでとはね…通りで逃げも隠れもしないわけだ」

「グルルル…」

「期待外れだったかな?もし聞こえてるなら、あの子は攻撃しないで欲しいなぁ…今私たちが持てる方法で、唯一お前を殺せるかもしれない可能性だから」


私を見下ろす巨竜にそう言うと、顔を上げて少し離れた所に居るかずちゃんを見る巨竜。

その目は何処か品定めをしているように見えて、強者の余裕が垣間見える。


しかしその目は、とても興味深いものを見る目に変わる。


「《神威纏》!」


かずちゃんが《神威纏》を使った。

別にそれ自体は驚くことでは無いらしい。

巨竜が注目したのは、かずちゃんの動き。


「飛んでる……良いなぁ」


《神威纏》を発動したかずちゃんは、全力でジャンプしたかと思えばなんと浮遊したんだ。

まさか空を飛ぶとは思っていなかった私は、羨ましいなぁ、なんて思っていると…違和感に気付く。


「……籠手?いつの間にあんなモノを…」


かずちゃんが両手に付けている籠手。

あんなモノ見たことないけど…一体何処で…


それにあの気配…籠手からカミの気配を感じる。

なにかの神威か?

……そうか、そう言う事か。


「タケルカミの気配…雷の神威か」


あの籠手は、タケルカミが自らの神威を付与した籠手であり、自分と同じ技を使えるようにするためにかずちゃんに与えたモノなんだ。

と言うことは、奥義はタケルカミの力がないと発動出来ない程のもの。

巨竜も興味を持つわけだね。


「攻撃しないで居てくれるのは凄く助かる。でも、いいの?」

「………」

「ああそう。まあ、アレが何処まで効くか気になるのは私と同じなわけね…」


…早速作戦が破綻した。

それも、良い方向で。

本来、奥義を使うために私が時間稼ぎをしようとしてたんだけど…巨竜はなにもせずただかずちゃんの技を待っている。

これなら、安心して技を撃てそうだ。


…後は何処まで効くかと、逃げられるか。

頑張ってね。かずちゃん。


私はそう心の中でかずちゃんを応援し、いつでも逃げられるように構えておくのだった…






         ◇◇◇





巨竜がなにもせずこちらを見ている。

正直ありがたい。

神林さんが怪我をする心配をせず、かつ当てられないと言う心配も無く魔力を溜められるから。

この一撃は、正真正銘私の切り札であり、最終奥義。

そして、まだ一度も使ったことの無い未知数な技だ。

使い方は知ってるし、タケルカミの動きを見て盗んだ。

それから使えるようにたくさん練習したし、何も問題はない。


(…何も心配しなくていい。心の重荷が無いとこんなに魔力は扱いやすいものなんだね)


昨日はまともに使えもしなかった《神威纏》の魔力が、今は思いのままに操れる。

もう、私が恐れる事は何も無い。


……まあ、強いて言うなら。


(神林さん…早く離れてくれないかな…?邪魔なんだけど…)


あの位置だと巻き込んじゃうんだけど…まあいいや。

そのうち逃げるでしょ。


私は刀を天に掲げると、操れるようになった魔力を全て流していく。

練習よりも数十倍早く溜まっていく魔力。

一分もあれば使えそうだけど…この際もっと量を増やしてみよう。

どうせ、魔力は有り余ってるからね。


時間が経過する事に溜まる魔力。

もう咲島さんに匹敵する火力が出せるけど…まだまだ行くよ。

…っと、同時にそろそろ籠手を使う。

タケルカミの雷の神威を秘めたこの籠手。

ふふっ…どうなることやら…


莫大な量の魔力と雷を纏った刀。

私はそれを巨竜目掛けて振り下ろす。


「奥義『鳴神之太刀』」


私が刀を振り下ろした瞬間、世界は光に包まれた。

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