巨竜
「予定よりだいぶ時間がかかりましたけど…倒しに行きましょうか」
「とんでもない強敵との激戦のせいで休憩が長引いたんだよね…」
「ですねぇ〜。家に帰ったらあれくらい激しくまたしましょうね?」
「楽しみにしてるよ。早く帰りたいなぁ」
諸事情により、魔力回復と休憩の為に丸2日使う事になった。
アレは激しい戦いだった。
一時は負けそうになったけど、なんとか大人の意地を見せることに成功。
…まあ、それでも引き分け。
日が暮れるまでは互角だったのに、夜になってから急にかずちゃんが押し始めたんだよね〜。
流石に日が暮れるまでヤッた後に、また朝日が昇るまでヤるのはキツイ。
子供の特権だね、もう私の体くらいになると持たないや…
…でも、最近かずちゃんに影響されてかムラムラしやすくなった。
体は疲れてても欲望に引っ張られて存分に愛し合えるから、私としても嬉しいしかずちゃんも喜ぶ。
…まあ、その代わりにかずちゃんがどんどんテクニックを覚えて成長してきてるから、このままじゃ不味いんだけどさ。
私ももっと勉強すべきかなぁ…だいたいのテクニックはかずちゃん経由で私が直接やられる事で覚えてるんだけど…それだとずっと後手だしなぁ…かと言ってかずちゃんの目の前でそう言う勉強をするのは恥ずかしいし、隠れてすると浮気を疑われて喧嘩になるからなぁ…
「……痛っ!?」
「もう!話聞いてます!?」
「ごめんごめん…何の話だった?」
これからのかずちゃんとの夜の付き合いについて考えていると、話を全く聞いて無くてパンチされてしまった。
普通に痛いんだよね、かずちゃんのパンチ。
私相手なら何していいって思ってるのか、手加減してこないし、ホントに酷い時は本気で噛みついてくる。
最低でも噛まれた部分が青くなるのは避けられないし、血が出るしなんだったら前は歯が食い込んで肉が抉れた事があった。
流石にその時は私でも怒り、泣いて私に縋ってきたけど半日は口を利いてあげなかったね。
あの時のかずちゃんは本当に可愛かった。
かずちゃんは怒られてしゅんとしてる時がホントに可愛い。
私が許してくれるまで絶対に私の傍を離れないし、頭を撫でて微笑んであげると期待に満ち溢れた顔で目をキラキラさせながら尻尾を振るんだ。
でも急に真顔になるとこの世の終わりみたいな顔をして今にも泣きそうになるんだよ?
その顔がまた良いんだよね〜。
「やっぱり、もう一回ヤります?」
「いや、今日はしないよ。…そろそろ動かないと蝶の神がキレそう」
「なんだったらこの事を咲島さんに話したらマジギレされますよ?何ふざけた事してるんだ、って」
「うん。早く行こう」
「遅いのは神林さんですよ?いつまで私のことを虐める妄想して盛ってるんですか?」
割と真剣に怒られた。
私も気持ちを入れ替えて、真剣に事に挑まないとそろそろ本気でかずちゃんの説教を受けそうだから、気合を入れるか。
私は自分の頬を強く叩いて気合を入れると、おそらく眠っているであろう巨竜の元へ走る。
周囲に巨竜以外のモンスターの気配は無し。
しっかり寝て、しっかり休んで、しっかり抜いたからコンディションも抜群。
巨竜を前に、私達は最終確認をする事にした。
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名前 神林紫
レベル121
スキル
《鋼の体》
《鋼の心》
《不眠耐性Lv3》
《格闘術Lv8》
《魔闘法Lv9》
《探知Lv8》
《威圧Lv8》
《物理攻撃耐性Lv2》
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名前御島一葉
レベル121
スキル
《鑑定》
《大魔導師》
《抜刀術Lv7》
《立体戦闘》
《魔闘法Lv9》
《探知Lv5》
《威圧Lv 4》
《状態異常無効》
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ドラゴンを何体も倒した事で、私達のレベルは121まで上がった。
このレベルは咲島さんの次に高く、大幹部や3強よりも高い。
私達が咲島さんのレベルを抜く日はすぐそこに迫ってるだろうね。
更に、《神威纏》も習得すればもう負け無し。
名実ともに最強になれるわけだけど…そこに至るまでに1つ問題が。
「あいつ…《神威纏》が使える前提の強さしてない?」
「流石に強過ぎですよ…あの巨体でこのレベルって…勝つこと想定してるんですかね?」
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名前 巨竜マーズ
種族 上位竜
レベル450
スキル
《龍鱗》
《龍力》
《鋼鉄の鱗》
《威圧Lv10》
《破滅の吐息》
《焼却の吐息》
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あんまりにもあんまりな強さ。
あのヒキイルカミが霞むレベルのバケモン。
まずね?
レベル450って何?
カミよりも高いんですけど?
次に種族。
上位竜ってなんですか?私、劣化竜と普通の竜しか知らないんですけど…
そしてスキル。
バキバキにヤバそうな文字列が並んでる。
耐性スキルが無いのがマジで救いだけど…鱗のスキルのせいで前に戦った悪魔と変わんない。
《龍鱗》のスキルは魔法の威力を大幅に下げるスキルなんですけども…まあ、このレベル差なら魔法は無効化されたも同義。
そして物理面。
あの巨体。マジ巨体に《龍鱗》のカチカチ防御に加え、《鋼鉄の鱗》とか言う明らかに硬そうなスキル。
どう攻撃しろと?
「最高火力『轟』か『鳴草薙』…もしくは奥義を使わないとダメージを与えられそうにないんですけど」
「一応聞くね?それで倒せる?」
「使うのに数分の準備時間がかかる奥義を発動する時間稼ぎをしてもらえるなら…」
「うん、無理」
アレの前で時間稼ぎ?
絶対に無理。
できるわけない。
無理無理無理、まず持って無理。
「蝶の神?聞いてる?私達帰るわ。あんなの勝てるわけない」
「まだ夜の勝負で魔力を使った方がいくらかマシ」
空に向かってそう話しかけるも、何も返ってくることは無く、ただ風の音が聞こえるのみだ。
「チッ…あのクソ邪神が…」
「どうせ私達のセッ○ス覗いてたくせに、こういう時はだんまり…くたばれ邪神」
「高みの見物決め込んで自分カッコイイとか勘違いしてる厨二邪神」
「無理難題を試練とかふざけた事言って押し付けてくるド低脳バカ邪神」
一通り悪口を言うと、一旦巨竜から離れて小屋に戻り作戦会議。
「どうします?あんなの勝てるわけ無いですよ」
「そうは言っても倒さないと帰れないし…ここで《神威纏》を習得するまで待機する?」
「それが一番現実的ですよね〜…でも、《神威纏》を習得したからと言って勝てるかどうか…」
咲島さんの《神威纏》でさえ合計レベルは330にしかならない。
それなのに、私達が《神威纏》を習得したからと言って、すぐに巨竜に挑んだら…まあ、負けは確定。
正直勝てる気がしない。
「おまけに《神威纏》には時間制限もありますからね…勝てますか?」
「無理無理。《神威纏》のレベルが3くらいあって、私達のレベルが200くらいあったら話は別だけどさ…」
「そんなにモンスターはいませんし、《神威纏》のレベルをあげられるとも思えない…どうやって突破するんですか?」
私が聞きたいくらいだ。
暇なのか、話していない時は私の首を舐め回すかずちゃんを腕と脚で抱きしめながら、どうにか勝てる策を考える。
まず、ここで《神威纏》を習得して戦いに行くパターン。
正直勝算は低い。
仮に《神威纏》のスキルレベル1でレベルが100上がるのと同じ力が手に入るなら、最低でもレベル2は欲しい。
そうなったら、私達のレベルは321。
咲島さんとも遜色のない、強さが手に入るわけだけど…そんな時間は無いからすぐに攻撃を仕掛ける。
…まあ無理だろうね。
次は蝶の神にガチでお祈りして現世に返してもらうパターン。
これは現実的だけど現実的じゃない方法だ。
あの巨竜と戦わなくて済むってだけで現実的だけど…それを蝶の神が認めるとは思えないと言う意味で現実的じゃない。
多分、一回は挑まないと話にならない。
他に作戦か……
「……ん?どうしました?」
「可愛いなぁ…って」
「またヤるんですか?私は大賛成ですけど」
「蝶の神が呆れるまでここで愛し合うのもありだよね」
「『そういう事は他所でやれ』って感じですか?あの邪神は私達が諦めるまで待ちますよ?」
「多分その時には私達が本気で喧嘩してるね……喧嘩か」
全然ありだ。
巨竜が来ないような場所で、お互い本気で殺しに行くくらいの勢いでバトルする。
スキルの習得は、訓練や修行よりも戦闘中のほうが成長しやすいし生えやすい。
お互い何度も殺し合って、ボロボロになった後にドラゴンを倒してレベルアップブーストもかければ…短期間で《神威纏》の習得と練度上昇が見込める。
「…かずちゃん。私と本気で喧嘩する気ない?」
「それは真剣を抜いての喧嘩って事で良いですか?…まあ、やろうと思えば?」
「そっか…じゃあさ?かずちゃんは私を殺せる?」
「ガチの殺意を向けて、本気で殺し合おうって事ですよね?…なるほど、確かにそれなら素早く《神威纏》を使えるようになりそうですね」
この試練は《神威纏》を習得する試練だと思ってたけど…実際は違う。
何が何でも《神威纏》を習得して、練度を上げないと終わらない試練なんだ。
なら、やるしかない。
問題はどこでも戦うかだけど……まあ、そのへんの開けた場所でやればいいか。
あと、万が一余波でこの小屋が壊れない場所。
ここが壊れたらおしまいだからね。
…私達が夜の発散をする場所が無くなっちゃう。
「じゃあ、ここから離れた場所に行くよ。かずちゃんは東の方向。私は西の方向に行くでいい?」
「なるほど…よーいドンで勝負じゃなくて、お互い探し合って戦うんですね?良いですよ。じゃあ行きましょう」
そう言って、かずちゃんは走り去ってしまった。
私もかずちゃんとは反対方向に走ると…お互い気配が感じられない場所まで行く。
「さてと…ここからはいつ襲ってくるか分かんないし、気を張らないとね」
私も気配を消し、軽く準備運動をした後にかずちゃんの居そうな方向へ向かって移動する。
かずちゃんとのガチ戦闘か……思えばなんだかんだ最後まで本気でやったこと無いね。
今回こそは最後までやれると良いんだけど…
そんな事を考えながら、私は森の中を歩く。
そう言えば意識してなかったけど小屋は森の中にあって、巨竜が居るのはその小屋からちょっと離れたところにある平原。
反対方向に行くと今私達が居る鬱蒼とした森が広がっていて、そこにドラゴンが何体か居た。
そんな森の中を一人で歩く。
張り詰めた緊張感の中、ゆっくり森を歩いていると、探知に生き物の気配を感じた。
もしやかずちゃんか?と警戒度をあげてその方向へ向かって歩いていると…後ろから猛烈に嫌な気配を感じた。