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咲島恭子の別荘

「さて、じゃあ報告会を始めようか」


咲島さんの声がお屋敷の大広間に響き、全員が姿勢を正す。


「…なんで私達までここに居るんですかね?」

「そういうモノって事にして受け入れなさい」

「は〜い」


何故か私達までこの会場に居る。


ここは咲島さんの別荘の1つで、山の中腹の開けた場所にある大きなお屋敷。

その大広間を会議室として使っているらしく、1週間前のカミの襲撃の報告会が開かれていた。


「まずは一番被害が大きかった近畿から。『青薔薇』」

「はい」 


咲島さんに指名されて、『青薔薇』が資料を持って立ち上がる。


「1週間の調査の結果としては、現段階で把握できているだけでも死者・行方不明者は23万人。建物の被害は行政の調査終了待ちです。ですが、2体のカミによる大破壊に晒された地域は全壊どころでは無い被害が出ています」


近畿――特に大阪は被害が大きいらしい。

2体のカミによる破壊もあるけれど、レベル100近いのモンスターの群れを相手できる戦力が4人…『青薔薇』と『牡丹』を足した6人全員がカミの対応に当たっていた為、モンスターの群れが放置されることとなり、被害が増したんだとか?


まあ、コレばっかりは仕方ないし、逆に数百万人が住む大阪でそれが起こったなら、良くそれだけに抑えたってレベル。

なにせ、東京ではカミ1体を相手するのに4人も必要だったんだから。

単純計算で3人で撃退できた近畿は超優秀なくらいだよ。


…まあ、その対価は大きかったけどね。


「―――以上です」

「ありがとう。では次は…北海道ね」

「はい」


気が付いたら報告が終わってた。

全然話聞いてなかったけど…あんまり私には関係ないし良いでしょ?


次に立ち上がったのは、見覚えのない女性。

…まあ、北海道の担当の人っぽいし、私が知らないのも当然か。

おおよそ、北海道支部の支部長かな?


「北海道――主に札幌市では、溢れ出るモンスター相手に防衛網の構築に失敗。現在確認できただけでも、死者・行方不明者合わせて約20万人の被害が出ています。建物の被害は同じく行政の調査待ちですね」

「本部に応援を要請していたけれど…それでも駄目だったのかしら?」

「はい。元々札幌は覚醒者全体で戦力的に不安がありましたので、応援を受けてなお…ですね。さらに、鎮圧こそ成功したものの、いくらかのモンスターが山などの人里から離れた場所に逃げられてしまいました。しばらくはそちらの対応に追われるかと…」


北海道も中々に酷いなぁ…

噂じゃ2番目に被害を出したらしいし、この被害も納得かも。

にしても、山にモンスターがか……まあ、私達まで呼ばれることは無いでしょう。


「しばらくは北海道に旅行は行けませんね」

「別に行く予定はないけどね」

「まあ…はい」


北海道旅行かぁ…ふふっ、雪まつりに行きたいくらいかなぁ。

神林さんと雪まつり…なんか途中で雪合戦が始まって、祭りどころじゃなくなりそう。

最終的にお互い本気で投げて、警察に注意されそうだなぁ…

それか、喧嘩になって私が泣く。

う〜ん、簡単に想像できるね。


神林さんとの雪まつりを妄想し、冬に北海道に行こうかなぁ、なんて考えていると肩をたたかれた。


「かずちゃん?ちゃんと聞いてる?」

「あっ…何処まで進みました?」

「はぁ…北海道と名古屋の報告が終わって、九州に入ってる。…まあ、もう終わると思うけど」

「そんなに進んでたんですか…」

「ずーっと上の空だったからね。誰も指摘しなかったけど」


…話しぶり的に、皆私が話を聞いてない事知ってるんだね。

まあ、そりゃそうか。

会場全体を簡単に見渡せるし。


「―――また、『新日連合』との共同戦線はまだ解消されていないので、しばらくは合同で警戒に当たる予定です」

「共同戦線?」


私が首を傾げていると、神林さんが軽く私に寄ってきてこっそりと教えてくれる。


「九州は『牡丹』の部下と『新日連合』『花園』の3勢力で共同戦線を組んで対応に当たったらしく、被害が少なかったんだよ」

「へぇ〜…」


そういえば九州はあそこのホームグラウンドだったね。

それで、戦力を用意できたわけだ。


…財団?さて何のことでしょう。


「では、最後に東京。よろしく頼むわ」

「は〜い」


相変わらず甘ったるい声で返事をする『紫陽花』

立ち上がって資料見ながら報告を始めた。


「東京は死者・行方不明者合わせて約1万2千人ほどですね〜。建物の被害はえっと〜……まあ、もとから瓦礫の山だったので無いに等しいです〜」

「……なんかこっちに視線感じなかった?」

「また今度お酒でも奢ってあげなさい」

「は〜い」 


…どうやら私がやらかした件については黙ってくれるらしい。

ホントは黙ってちゃ駄目なんだろうけど…まあ、『花冠』がその事を知らないはず無いし、あえて口には出さないってだけだと思う。

だって、建物の被害報告の時、咲島さんと大幹部の視線はみんな私に向いてたし。


「敵の首魁、ヒキイルカミについては早川から奪ったと思われるスキル、《大魔導師》の消滅とぉ〜、ヒキイルカミ自体の撃退に成功した事を報告しますぅ。何か質問は〜?」

「ん…」

「おやおや…どうしたの?あなたが手を挙げるなんて珍しいじゃない、『青薔薇』」


『紫陽花』の言葉に挙手をしたのは『青薔薇』だった。

手をおろした『青薔薇』はそのまま視線を私に向けてくる。

……私?


「私に何か?」

「新しく手に入れた……あぁ〜、スキル?についての話をしてもらおうと思って」

「『強欲』の事?今話していいの?」


私がそう聞くと、何故かよそよそしくなった。

そして…


「その……いつ話すかについて伝えて無かったから」

「…ん?」

「えっ?」

「はぁ?」


いくつかの疑問符が挙がる。

そして、咲島さんが視線を逸らし続ける『青薔薇』の肩をがっしりと掴んだ。


「私、3回くらいかずちゃんに伝えとけって言ったよね?」

「……はい」

「あなたは何を聞いてたのかしら?」

「その…資料が出来てなくて…」


洒落にならないマジなトーンで話す咲島さん。

それに対して、すごく切実な顔で『資料が…資料が…』の喘ぐ『青薔薇』。

いや…まあ…忙しかったんだろうなって…


「まあまあ。説教は後にしてもらって…かずちゃん。話してあげて」

「は、はい……ごほんっ!えーっと、何処から話したらいいかなぁ……」


この話をするとなると、ちょっと事前情報を話しておかないと理解が追いつかないんだよね…

でも、それをするとものすごく時間がかかるし…


「多少時間は掛かってもいいわ。理解できるように話してちょうだい」

「えっと……その、じゃあまず『強欲』はスキルじゃないって事と、今は使えないって事を話します」

「スキルじゃない……なるほどね」


…どうやら咲島さんだけは理解できた様子。

まあ、あの人はジェネシスから知恵の特権を貰ってるからね。

そりゃあ、わかるか。


「まずスキルじゃないって話だけど…あー…周知の事実だとは思うけど、ステータスやスキルはその人自身の能力じゃないって事は分かりますよね?」


私がそう尋ねると、みんな首を縦に振った。

ステータスやスキルはジェネシスが与えた力。

当人の力ではなく、あくまでジェネシスの恩恵だ。


「私の『強欲』はジェネシスの恩恵ではない力。つまり、ステータスやスキルと言った概念の外の力なんです。…でも、その危険性故にジェネシスによって封印されていた。もしかすると誰しもがそう言った能力を持ってるかもしれない。ただ、ジェネシスに封じられているだけで…」


『強欲』の奪う力は、スキルとよく似ている。

参考にしたのは《吸血》のスキル。

どっちも多少の差はあれど、やっている事は非常に似てる。

だから、スキルと言うのはもとから誰しもが持っている能力を封印し、代わりにジェネシスが管理できる力を与えたんじゃないかって私は推測を立てた。

…まあ、あくまで推測だけど。


「ステータスでもスキルでもない力。それは私が本来持っていた力であり、誰もが封印されているだけで持っている力かもしれない」

「…なんで?」

「なんでって……個性が乱立する社会よりも、統一された没個性だけの社会の方が、支配する側からすれば管理しやすくないですか?」

「あぁ…なるほど」


会場の中で、ただ一人理解できていなかった神林さんに説明をすると、気を取り直して次の話に入る。


「今話した通り、ジェネシスからすれば私が本来の力に目覚めたことは好ましくない。アレの行動理念は面白いか面白くないか。私の力を放置すれば面白いこともあるかもしれないけれど、将来を見越した時面白くない事のほうが多いと判断されたのか、私はジェネシスによって封印を施されました」

「封印、ね…もう使えないって事でいいのかしら?」

「いや、1日1回までなら使えるけれど…使い所は凄く限られる上に、あの時のような自由度が無い。ほぼスキルと変わらない状態になってるの」

「あら意味、本来の能力がスキル化されたと言う状態ね。変な事にならないように、管理下に置いたってところか…」


咲島さんの考察に、それぞれ考え込む一同……の中に、またもや理解できてない人が一人。


「なんで制限したの?」

「今咲島さんが説明してくれた通りですよ」

「???」

「…もう私のことを人形にでもしてゆっくりしててください」


な〜んで理解できないんだろう?

神林さんってそこまでバカじゃないはずなんだけどなぁ…


「開花した力を封印?なんでそんな面倒くさい事をするの?」

「だから管理下に置くためですよ」

「そのためのスキルでしょ?そもそも、なんで元から封印してた能力が開花するわけ?」

「封印が緩んでたんじゃないですか?話が進まないので、ちょっと黙ってくださ――「待って」――え?」


咲島さんが待ったを掛ける。

なにか変な事あったっけ?


「封印が緩む?アレの封印が?」

「まあ…封印なんてそんなモノじゃないですか?」

「……じゃあ、なんで私や大幹部みたいな、あなた達より古参の最上位組はそう言った力に覚醒してないのかしら?」

「それは…」

「……ジェネシスの封印。あんなのの封印がそう簡単に解けてたまるものか。世界の理を歪め、好き放題しているアレの封印が緩むなんてありえないでしょう」


咲島さんはそう言い切る。

……確かに、ジェネシスの封印がそう簡単に破られるとは思えない。


『私がもう少し私のことを求めてくれたらもっと力をあげられるのに』


『強欲』の言っていた言葉が蘇る。

……求めるだけで封印が緩む?

そんなバカな…

そんなに簡単に緩む封印なら、『強欲』はもうとっくに私のことを乗っ取って大暴れしてる。

そうならないのは何故か?


「……元から、こうなる事が想定済み?」

「…もしくは、ここまでアレの筋書き通り…そうなる運命にあったのかしら?」

「じゃあ、わざわざ封印した意味は?」


私が首を傾げると、神林さんが私のことを抱き上げて、膝の上に置く。

そして、私の頭を撫でながら話し始めた。


「ジェネシスは前、私とかずちゃんはセットで居てくれないと話が進まないって言った。ジェネシスが考える面白い話の進み方…どう動くかは私達に任せているから、100%思い通りにはならないでしょうけど…大枠の筋書きを維持するためには、まだ早かったんじゃない?私が、本来の力を解放したかずちゃんに追いつけて無いとか?」

「それは…あるかもしれませんね…」


ジェネシスの筋書き…

神のシナリオ…

…確かに納得のいく理由だけど、なんかなぁ…


封印される前に話してた言葉を思い出すと、なんか違うような…


『私の箱庭には過ぎた力』

『このまま好きにされると御島一葉という存在をどうこうできる者が居なくなる』


……『強欲』は私の中に流れてきた記憶を見る限り、神すら容易に呑み込む力。

ジェネシスはその力を封印出来るみたいだけど、ジェネシスの箱庭たるこの世界では過ぎた力。

だって、カミとか言う紛い物のモンスターではなく、本物の神を喰える力だ。

確かに、この世界には過ぎた力だね。

…でも、わざわざ制限付きで残した理由は何?

今のままでも十分脅威だと思うけど…


『アレの考えなんて考えるだけ無駄だよ。アイツは神の中でも最高で最悪にイカれた神だからね』

「……ん?」

「どうしたの?」


……待って?なんでいるの?


『なんでって…私の話、してたでしょ?』


そんなに簡単に出てくれるなら、なんでこの1週間1回も顔を出さなかったのよ…


『それ程求められてないからね。アレの施した封印はこれ以上急速に“私”が成長しないようにするもの。簡単に言っちゃえば、御島一葉にこれ以上強くなってほしくないって事かな?』


…なんで?


『だって、この世界で最強の敵ってアラブルカミとか言うハリボテでしょ?あんなの私がちょんって小突いたら死ぬよ?なんだったら魂すら吸い尽くすから、復活もしない。私らが必死になってやっと倒せる連中を、なんの苦労もなく完全消滅させられる能力。…せめて物語が完結するまではじっとしてて欲しいって思うのは当然のことでしょ?』


ジェネシスの求めるモノに『強欲』は邪魔だった。

だから封印した。

……本当にそれだけ?


『それだけだと思うけどなぁ……まあ、生まれた頃からずっと漏れ続けてる幸運の力が見逃されてるのは謎だけど』


なにそれ?そんな能力持ってるの?私。


『強欲で周囲の幸運を吸ってるだけ。やたらと運が良いでしょ?私って』


確かに…そう言えば、私ってめっちゃ運が良いような…


『それが見逃されてるのがマジで謎だけど…まあ、ご都合主義的な考えでもあるのかね?だから、深く考えるだけ無駄。大体、相手からちょっと魔力を吸うだけしか使えなくなってる能力で何しろって話だし、考えるだけ無駄だよ。今はスキルとか言うのの話をする方が重要じゃない?』


いや…みんな『強欲』について知りたがってるんだけど…私も知りたいし。


『え〜?やだよぉ…またアイツが邪魔してくるんだもん…どうせヒキイルカミ倒したら物語終わるだろうし、その後で良いんじゃない?』


いや、そんな軽いノリで……


何故か復活した黒い手の私。

そして、謎にフラフラした態度。

それに振り回されている一方で…


「なに一人でにらめっこしてるのかしら?」

「さぁ?」

「思春期の子ってそんなモノじゃない?」


置いてけぼりを食らったみんなが、私のことを見て首を傾げていた。


…しかし、ここで『強欲』が爆弾を投下した。


『あれ?もしかしてヒキイルカミがアレで終わると思ってる?』




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