すれ違う求愛
注意
このエピソードには性的な表現が含まれます
夜、急にかずちゃんが布団から抜け出して何処かへ行った。
心配になったが、真っ暗な部屋でわずかに見える姿から、トイレに行っていることがわかる。
それでも安心できず、起き上がってトイレの方向を眺めていると、トイレを流す音が聞こえ、かずちゃんが帰ってきた。
……普通に、トイレに行っただけだったらしい。
私が起きていることに気付いたかずちゃんは、布団に戻ってくると、抱き着いてきた。
「……お昼寝しすぎて、眠れないんです」
「……私もだよ」
結局、アレから夕暮れまでずっと寝ていた。
そのせいであんまりお腹も空かず、夜ご飯を食べることなくお風呂に入り、夜も遅くなったので布団に入った。
その影響で、私達はまるで眠れない。
別に何か明日用事があるわけでもないから、遅くまで起きていたっていい。
とはいえ、何もすることはない。
真っ暗な部屋で、私達は何もせず、何も話さずお互いの顔を見つめ合う事数十分。
不意にかずちゃんが服を脱ぎ始め、チラチラと私のことを見てきた。
そんな姿を見せられて、何をしたいのか理解できないほど私は鈍くない。
下着だけになったかずちゃんに手を伸ばし、素肌を撫でるとくすぐったそうに体をくねらせる。
その姿を見て少し躊躇った後、私も服を脱いだ。
そうして、体が冷えないように二人で布団に潜り込む。
「神林さん…」
耳元で囁くかずちゃんの声が、私の頭を狂わせる。
かずちゃんの上に覆い被さり、至近距離で目を合わせると、お互いの考えていることが手に取るようにわかる。
腕と脚で体を支えることを止め、全体重をかずちゃんに任せると、少し苦しそうな表情を見せた。
それでも、それが嬉しいのか笑みを浮かべ、とても満足げだ。
素肌が触れ合って、かずちゃんの温もりをそのまま感じられる。
…下着の存在がとにかく邪魔だ。
100パーセントのかずちゃんを感じるには、下着が邪魔。
だけどそれを外してしまえば…私は自分の立てた誓いを破る事になる。
『かずちゃんが成人するまでま、絶対に手を出さない』
この誓いはあくまで勝手に私が立てたモノ。
かずちゃんはその誓いが邪魔だと思っているし、何度も文句を言われている。
……だから、この際そんなもの破り捨てて、欲望のままに二人で喰らい合っても何も問題はないはずだ。
かずちゃんだってそれを望んでいる。
だから…このまま食べてしまっていいと思う。
◇◇◇
―――なんてことを、神林さんは考えているんだろう。
本当に数センチの距離で見つめ合うと、私は神林さんの考えが手に取るようにわかる。
そして、神林さんも私の考えていることが、自分のことのようにわかっているみたいだ。
神林さんの目に映る自分の目は、どんどん欲望に染まっていく。
神林さんの目も、私と同じように高潔な部分が侵食され、ついには完全に汚れてしまった。
いいんだよね?
私を、食べてください。
そんな会話をした気がした。
のしかかっていた神林さんの体が離れ私の下着が丁寧に外される。
神林さんも自分の下着を外すと……それで私の手足を拘束した。
なんてエッチなんだろう。
興奮を抑えられず、口角が上がり続ける。
下着には神林さんの体温が残っている。
その感覚を堪能していると、再び神林さんが私に全体重をかけてのしかかる。
そして、私達2人を完全に毛布で覆い隠した。
わずかに見えていた景色が完全に暗闇になり、何も見えない。
視覚を封じられたことで他の感覚が鋭くなり、感じられる情報量が増えた。
「ふぅ……ふぅ……」
神林さんの吐息。
それが全て私の顔にかかり、私の顔を擦れる小さな音まで聞える。
試しに私が息を吹きかけると、神林さんも息を吹き返してきた。
それだけでもう…私は一段と興奮する。
体が火照っておかしくなりそうだ。
心做しか神林さんの体温も上がっている。
二人の熱を、覆い被さった毛布が閉じ込めて中の温度が上がり、じんわりと汗ばみ始めた。
「暑いね?」
「神林さん、汗かいてますよ?」
「かずちゃんもね。…ベタベタの方が、良くない?」
「エッチな人」
「ムッツリちゃん」
耳元でささやき合い、どんどん体温が上がっていく。
そのうち密着している部分がびっしょり濡れて、少し動いただけでベタベタし始めた。
…まだ焦らすつもりなのかな?
気持ちは高ぶり続けているけれど、中々始まらない。
スタートラインに立ってからが長いんだ。
……ちょっと刺激してみようかな?
じれったくなった私は、自分から動いて神林さんの脚を股に挟む。
すると神林さんの体が硬直し、呼吸がおかしくなった。
「わかってる…わかってるよ……」
……ここまでしておいて、心の準備が出来ていないの?
こんなにエッチな状況なのに…やっぱり、私が上になるべきだったかな?
中々相手してくれない神林さんにしびれを切らしていると、スーッと手が下へ伸びていった。
ようやく始まるんだと、私は体の力を抜く。
けど、すぐに力が入り、身構えてしまう。
それは神林さんも同じで、動きがかなりぎこちない。
ゆっくりと手が私の下まで降りてきて…その部分に触れる。
ピンッと体が張り、動けなくなる。
神林さんも触れたところで動かなくなり、なんとも言えない時間が数秒過ぎる。
そして、神林さんのつばを飲む音が聞こえた。
「……何してるんですか?」
触れただけで始めてくれない神林さんに、不機嫌な感じでそう聞くと、手が引っ込んでいった。
……は?
「…触っただけだから、ノーカンだよね?」
そんな事まで聞かれ、ますます困惑する。
「ここまできて…日和ったんですか?」
「……うん」
「っ!?……根性無し」
ここに来て日和、手を出すことをやめた神林さんを責める。
「私の事あんなに怒っておいて……キスくらいであんな…!お互い血みどろになるような殴り合いまでして…!なんでコレが出来ないんですか!?」
真っ暗な中、見えない神林さんの顔に怒鳴る。
神林さんが…こんな根性無しだと思わなかった。
歯を食いしばり、怒りを抑えていると、悲しみに溢れた声で神林さんが話し始める。
「……私は、犯罪者になりたくないから手を出してない訳じゃないよ。怖いから手を出してない訳じゃないんだよ?」
「………じゃあなんで?」
怒りの混じった声で聞くと、私は自分の浅はかな考えを悔いる言葉が帰ってきた。
「これはきっと…特別な思い出だから……私達は永遠に一緒で、ずっと繫がっている事を互いに確かめ合う、大切な事だから……こんな…喧嘩の慰め合いで、その思い出を無くしたくない。…そんな、私のエゴだよ…」
「―――ッ!!」
なんで私は…この行為に固執していたんだろう?
別にコレじゃなくたって、愛を確かめる方法はいくらでもあったはず。
愛を感じる方法はいくらでもあったはずなんだ。
なのに…なんでこんな!!
「自分を責めないで」
耳元でささやかれた言葉に、私は頭の中が真っ白になる。
そしてすぐに涙が出そうになり、それを必死に堪えた。
結局、私達はそのまま何もすることはなく、気が付けば眠りについていた。