三国志演義・虎牢関の戦い~飛将軍呂布~
汜水関の敗戦をうけて、董卓は援軍派遣と同時に呂布を伴って自ら虎牢関に進軍。
この関に十万の兵をもって篭れば、天下の諸侯は道を失う、とまで称された要害の地である。
そこに呂布を据えるという、金城鉄壁の構えをもって臨むのであった。
声劇台本:三国志演義・虎牢関の戦い~飛将軍呂布~
作者:霧夜シオン
所要時間:約35分
必要演者数:最低9人
(8:0:1)
※他に良い組み合わせがあれば教えていただければ幸いです。
配役例【()内はセリフ総数】
呂布:(34)
董卓:(20)
関羽・連合軍部将:(18+9)
張飛・連合軍兵士2:(20+8)
劉備:(21)
袁紹:(21)
曹操:(21)
孫堅・董卓軍部将:(11+5)
ナレ・連合軍兵士1:(13+9)
※これより少なくても一応可能です。
はじめに:この一連の三国志台本は、
故・横山光輝先生
故・吉川英治先生
北方健三先生
蒼天航路
の三国志や各種ゲーム等に加え、
作者の想像
を加えた台本となっています。また、台本のバランス調整のた
め本来別の人物が喋っていたセリフを喋らせている、という事
も多々あります。
その点を許容できる方は是非演じてみていただければ幸いです
。
なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ
て打てない)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただい
ております。何卒ご了承ください<m(__)m>
なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。
また上演の際は決してお金の絡まない上演方法でお願いします
。
ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、
または他のキャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場
合がありますので、注意してください。
なお、性別逆転は基本的に不可とします。
●登場人物
呂布・♂:字は奉先。
五原郡出身。弓馬に秀で、方天画戟を枯れ枝の如く振り回す。
ヘイ州の刺史・丁原の養子になっていたが、董卓配下の李粛の
誘いを受けて赤兎馬を手に入れ、丁原を裏切って殺すと董卓に
付く。三十代。
董卓・♂:字は仲穎。
涼州の長官。黄巾の乱では大した戦功を挙げなかったが、
中央に賄賂を送ることで地位を保つ。
十常侍の乱に乗じて都・洛陽に乗込み、専横の限りを尽くす。
演義より正史の方が本人のやらかしのエグさをリアルに描いている。
関羽・♂:字は雲長。
劉備、張飛と義兄弟の契りを結んで乱世を鎮めんと志を立てる。
現在は劉備の同窓の士、公孫瓚の軍に陣借りしている。
さきの汜水関の戦いで敵総大将・華雄を一騎討ちにて討ち取る。
張飛・♂:字は翼徳。
劉備、関羽と義兄弟の契りを結んで乱世を鎮めんと志を立てる。
現在は劉備の同窓の士、公孫瓚の軍に陣借りしている。
関羽が華雄を討ち取った事で、自分も活躍の場を望んでいる。
劉備・♂:字は玄徳。
中山靖王・劉勝の末裔を自称。
関羽、張飛と義兄弟の契りを結び、乱世に苦しむ民を救おうと
戦い続ける。現在は同窓の士、公孫瓚の軍に陣借りしている。
袁紹・♂:字は本初。
漢王朝の最高の役職である三公(大尉、司徒、司空)を一族から
代々輩出している、名門中の名門の末裔。
優柔不断な所もあるが、基本的には優れた人物ではある。
周囲に推されて反董卓連合軍の総大将を務める。
曹操・♂:字は孟徳。
漢の相国・曹参が末裔を名乗る。
人相見に「治世の能臣、乱世の奸雄」と評された、兵法、政治、
果ては詩文にまで名を残す事になる。
三国志版の覇王にして破格の英雄とも言うべき人物だが、この時
はまだほとんど力のない状態。
三十五歳。
孫堅・♂:字は文台。
江東の虎と謳われる智勇に優れた人物。
反董卓連合軍に参加し、汜水関にて董卓配下の華雄と対峙、
初戦こそ有利に戦いを進めるが、彼を恨む者が袁紹に告げ口した
ため兵糧を断たれ、華雄の夜襲を受けて敗走することとなる。
連合軍部将・♂♀不問:反董卓連合軍の部将。
連合軍兵士1・♂♀不問:各国から集まった反董卓連合軍兵士その1。
連合軍兵士2・♂♀不問:上記その2。
董卓軍部将・♂♀不問:董卓軍の部将。
暴虐な軍の将らしく。
ナレーション・♂♀不問:雰囲気を大事に。
※演者数が少ない状態で上演する際は、被らないように兼ね役でお願いしま
す。
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ナレ:董卓に汜水関の総大将を任された華雄は、関羽に討たれた。
敗北の知らせに驚愕した董卓は、急ぎ汜水関に援軍を派遣、
同時に自身も虎牢関へ出陣する。
一方、敵将を討って大いに意気上がる連合軍であったが、そこへ凶報
がもたらされた。
連合軍部将:申し上げます!
董卓は十五万の大軍を即日編成、うち五万を汜水関へ援軍に
派遣しました。
残る十万は董卓自らが率いて虎牢関へ進軍し、守りを固めてい
るとの事です!
曹操:わかった。引き続き敵の動きを探れ。…袁紹殿。
袁紹:うむ、由々(ゆゆ)しい事となった。
味方の動揺を防ぐ為にも、さっそく軍議を開かねばなるまい。
曹操:虎牢関は天下の重要な交通の要衝だ。
そこを抑えられては我らの喉元に剣を突き付けられたに等しい。
急ぎ諸侯を招集しよう。
ナレ:連合軍も董卓の動きに即座に対応、汜水関には一部の軍を残し、
虎牢関へは総大将の袁紹や遊軍の曹操をはじめ、王匡、鮑信、喬瑁、
袁遺、孔融、張楊、陶謙、公孫瓚ら八ヶ国の諸侯があたることとなっ
た。
一方、虎牢関では。
董卓:ふふふ、連合軍のネズミ共めが…この天然の要害である虎牢関へ挑も
うとしておるようだな。
呂布:そのようです。
董卓:呂布よ、そちには三万の精兵を授ける。
虎牢関の正面に陣を敷き、彼奴らの軍を木端微塵に叩き潰すのだ。
呂布:お任せを。必ずやご期待に応えてみせます。
董卓:袁紹に曹操め、わしに楯突くとどうなるか…思い知らせてくれるわ!
董卓軍部将:申し上げます!
敵軍が虎牢関にほど近い地点までやって来たとの事です!
董卓:来おったか。
すぐ戦備に掛かれィ!
呂布:ははっ。
【二拍】
聞けェ、者共!
我らは虎牢関より出て正面に布陣する!
日頃の調練の成果を存分に発揮してみせろ!!
呂布役以外全員:おうっ!【SE代用可】
ナレ:呂布が布陣を終えると、時を同じくして袁紹率いる連合軍が
続々と虎牢関へ攻め寄せた。
呂布:フン、来たな…。
いいか弓隊、合図を出すまで敵を十分に引き付けろ!
董卓軍部将:ははっ。
お前たち、いつでも矢を放てるようにしておけ!
連合軍兵士1:見えてきた…アレが虎牢関か? なんてでけぇ…。
連合軍兵士2:敵は外に陣を構えてるのか…あ、あの先頭にいるのは!
連合軍兵士1:あ、あれが呂布か?
連合軍兵士2:大きな紅い馬…あれが有名な赤兎馬…。
連合軍兵士1:か、勝てるかな…。
連合軍兵士2:黒一色の目立ついで立ちに、でかい方天画戟…自分が狙われ
ることを気にもしてないぞ…。
連合軍部将:聞け、お前達!
我ら河内の軍は、これより敵軍に攻撃を仕掛ける!
太守・王匡様の指揮の元、大いに戦功をあげるのだ!
突撃ーーーーッ!
連合軍部将・呂布役以外全員:【喚声・SE代用可】
呂布:まだだ…まだ引き付けろ…。
【三拍】
よし、今だ!! 弓隊、放てッッ!!
連合軍兵士1:うわっ、矢の雨を降らせてきやがった!
連合軍兵士2:うぐっ、う、腕が!
連合軍部将:く、くそっ、なんのこれしき!
呂布:よォし、敵は怯んだ! 騎馬隊、続けェーーーーーッ!!!
連合軍の雑魚共、皆殺しにしてくれるわ!
ぬぅううおおおあああああ!!
連合軍兵士1:ひ、ひいいい、なんて強さだ!
連合軍兵士2:に、逃げろ! とてもかなわん!
連合軍部将:ひ、怯むな! 戦え!!
呂布:はっはははは! 口ほどにもない奴らだ!
誰一人この呂布の前に立ち塞がる猛者はおらんのか!!
【二拍】
む…そろそろ頃合いだな、あの地点を越えるとこちらが不利にな
る。
全軍、虎牢関前まで引き上げろ!
ナレ:初戦は呂布率いる董卓軍の圧勝に終わった。
河内の太守・王匡配下の猛将、方悦。
上党の太守・張楊配下の槍の名手、穆順。
北海の太守・孔融配下の猛者、武安国。
初日以降、連合軍の名のある者達が呂布に挑んだが、誰一人として
かすり傷一つ負わせられず、彼の方天画戟に刺し貫かれ、あるいは
両断されるという惨敗を被った。
張飛:兄貴、敵が撤退していくぞ。
劉備:見事な敵の布陣だ。防御は念頭にない。
いつでも前に出て敵を粉砕できる備え方だ。
関羽:兄者、あの呂布という黒衣の将は只者ではありませんぞ。
あんな戦い方は初めて見ました。
劉備:手足のように動かすとは、呂布とその騎馬隊のようなものを言うのだ
ろう。
張飛:ッ兄貴、また呂布が動き出したぞ! なんて速さだ!
関羽:味方の陣が、まるで鋭利な刃物で切り裂かれていくようだ。
部隊の将がいるところへためらいもなく突撃し、そして討ち取ってい
く。
劉備:…だがどうやら、呂布はかなり周到な男らしい。
見ろ、ある一定の地点から先へは進んでこようとしない。
張飛:兄貴、あの野郎は俺に任せてくれ! 必ず討ち取ってみせるぜ!
劉備:待て翼徳。
我らは公孫瓚殿の軍の一部にすぎない。
個人で戦をしているわけではないのだ。
張飛:そりゃあ分かってるけど…あんな男とぜひ一度戦ってみたいぜ。
関羽:兄者、公孫瓚殿から本陣で軍議があるゆえ、すぐに参るようにとの
事です。
劉備:分かった、急ごう。
ナレ:劉備達が本陣へ着くと他の諸侯はすでに参集しており、
上座には袁紹が苦り切った表情で座っていた。
袁紹:ぬううう呂布め、何と言う凄まじい武勇だ!
我が軍の猛者達が、まるで子供のようにあしらわれているではないか
!
曹操:…おそらく、あの武勇は何百年に一人出るかどうかだ。
見たであろう。一万の敵軍がまるで一頭の巨大な獣のような統率のと
れた動きをし、その先頭に必ず呂布がいる。
袁紹:むむむ、ではどうする?
これまでのように真正面からぶつかり合っても勝ち目はないぞ。
曹操:これは、新手を連続して繰り出し続けるしかあるまい。
もう少し呂布が攻め込んでくれば、八ヶ国の軍でもって一斉に掛かる
事もできるが、どうしてもこちら側の原野までは出てこようとしない
。
ただ強いだけの男ではないのは、この事からも分かる。
劉備:…曹操殿。
董卓はここで我らを防ぐのではなく、勝つつもりでいるのだと思いま
す。
ここで勝てば、汜水関で戦っている味方を挟み撃ちの形にできます。
曹操:勝つつもり、か。
となれば今までの呂布の動きは、董卓の意を受けてこちらの力を測っ
ている…ということになるな。
劉備:はい。
それゆえ、新手を次々に当てていけば、それだけ手の内をさらす事に
なりはしないでしょうか?
曹操:確かに。
そしてこちらの力を見定めたうえで一気に…か。
呂布も周到だが、董卓も相変わらず狡猾な奴よ。
とはいえ、何か策はあるのか、劉備殿?
ここでの対陣はこれ以上長引かせるわけにはいかん。
地の利も補給の容易さも、董卓側に分がある。
劉備:呂布を動かさないことです。
それにはまず、騎馬隊を封じなければなりません。
公孫瓚殿の軍が呂布を止めて虎牢関下まで押します。その間に全軍で
騎馬隊封じの馬止めの柵を三重、四重にめぐらします。
そして柵の内側には弓隊を配置するのです。
曹操:ふうむ…なるほどな。
よかろう!
公孫瓚殿の軍が呂布の足止めに成功すれば、この策はうまくいくで
あろう。
袁紹殿、それでよろしいか?
袁紹:よし、まずは全軍で馬止めの柵に用いる木を集めるのだ!
ナレ:連合軍は劉備の策に従って動き出した。
公孫瓚は騎馬隊を先頭に軍を動かし、虎牢関へ進軍する。
対する呂布も騎馬隊の先頭に立ち、中央に三千、両翼に千ずつ、
黒地に赤の文字で描かれた旗をはためかせつつ、見事な動きで向かっ
てきた。
劉備:雲長、翼徳、二人とも呂布から目を離すな。
張飛:おう! へへへ、腕が鳴るぜ!
関羽:承知! 公孫瓚殿が危機に陥った時は即座にかかります!
張飛:見ろ兄貴、公孫瓚殿は真っ向から勝負を挑んだようだ。
だがあの動きじゃ…。
関羽:おそらく勝負になるまい。
早く見切りをつけてもらえれば良いのだが。
劉備:!! 公孫瓚殿が敗走し始めた!
呂布の戟を何とかかわしながらこちらへ移動してきている!
呂布:公孫瓉、口ほどにもない奴め! その首を置いていけ!!
張飛:先に行くぜ、兄貴!! はあッ!!
【二拍】
待てッ呂布! 燕人張飛これにあり! その首から先に貰った!!
呂布:なにィ!?
なんだそのみすぼらしい身なりは! 足軽ごときが引っ込んでいろッ!!
張飛:ふん、見てくれで判断すると痛い目にあうぜ! そらァッ!!
呂布:うぬッ!
おのれ下郎!! 真っ二つにしてくれる!!
ぬおァッ!!
張飛:やってみろッ!! おぉうッ!!
呂布:ぐッ!! ッこいつ…馬鹿にできんな。
本気で相手してくれる!
うぅぅおおおおおぉぉぉおおおッ!!
張飛:ぐうっ! こ、こいつ、さっきまでのは遊んでやがったのか!?
呂布:!? ぬうう今のを防ぎきるとは…!
これほどの男がなぜ足軽などしている…!?
張飛:くそっ、さすがに名だたる豪雄だ…!
だが、負けるわけには、いかねぇえ!!
おらあぁッ!!
呂布:ちいいぃッ!
関羽:義弟、怯むな!!
関羽雲長、これにあり!
加勢するぞ!!
劉備:我は劉備玄徳! 呂布よ、そこを動くな!
ナレ:張飛と撃ち合う呂布目がけ、二人の義兄弟が矢のように馬を駆けさ
せて撃ちかかる。だが、呂布にはまだ嘲笑う余裕さえあった。
呂布:何をッ! 束になってかかって来い!!
そこの髭男、貴様から死ぬか?!
関羽:見くびるな! この青龍偃月刀が受けられるか!!
はあああッ!!
呂布:ッなッにィ!?
何だこの重い撃ち込みは!
関羽:その首、もらった!!
呂布:ふん! なめるな!!
ぬぅうああああぁぁぁあああッ!!
関羽:ッぐぬぅ!!
さすが呂布、何という一撃だ…!!
呂布:馬鹿な…全力だぞ?!
さっきの張飛とやらの腕にも驚いたが、まだいたのか!
関羽:翼徳、兄者! 三方から行くぞ!
張飛:おうよ! 呂布、覚悟しやがれ!!
劉備:よしッやろう、義弟たち! はッ!
呂布:くっ! 他の二人ほどではないが、上手く隙を突いてくる…!
くそ、煩わしい奴め! おぉあッ!!
劉備:ッ! よし、かわせたか…あれ程の巨大な大矛、まともに受ければ
剣ごと叩き斬られかねない…!
関羽:兄者はやらせん! ぬぅううおおおッ!!
張飛:兄貴には指一本触れさせねえ!! おらああぁぁああッ!!
呂布:うっ、ぐっ、ぬううううう!!!
いかん、赤兎が蹄を退いたか…ちっ、これまでだな。
はッ!
関羽:うっ、呂布が逃げるぞ!
張飛:待ちやがれ、呂布!!
呂布:後日再戦だ! その首、次に会うまでによく洗っておけ!!
劉備:明日をも知れぬ武人同士だ! 戦場での出合いに後日は無い!
返せッ、呂布!!
関羽:兄者、呂布の乗る赤兎馬は一日千里を走る名馬、我らの馬とは比べ物
になりません。追いつけますまい。
張飛:ちくしょう、もう少しだったのによ!
劉備:だが、我らが食い止めたおかげで呂布に騎馬隊の指揮を取らせず、
その間に虎牢関下へ敵軍を押し戻すことに成功した。
そして…見ろ、二人とも。
関羽:おお、馬止めの柵が…!
張飛:よォし、これで敵の騎馬隊は役に立たなくなるぜ!
劉備:我らの目的は達した。
それに、敵は押し戻される際にかなりの損害を受けたようだ。
ひとまず引き上げよう。
ナレ:公孫瓚と劉備達の活躍によって、董卓軍は虎牢関下まで押し込められ
た。
連合軍の士気は大いに奮い、各国諸侯のひるがえる旗には昇る朝日の
ごとき勢いがあった。
だがそこへ、さきに汜水関で敗れた敗残の将の影が近付いていた。
連合軍部将:さあ皆、飲め飲め! 勝利の祝い酒だ、遠慮はいらんぞ!
連合軍兵士1:ははは、こうなりゃ、洛陽へ攻め込むのも時間の問題だ!
連合軍兵士2:そん時ゃ、俺が一番乗りだ!
連合軍部将:ははは、こいつめ! ん…? あ、あれは!
孫堅:…この有様は、何だ?
連合軍部将:こ、これは孫堅殿! ご無事でしたか!
今日は董卓軍を打ち破って虎牢関下まで押し戻す事に成功した
ので、その祝いの宴です。
孫堅:…そうか。
袁紹殿は?
連合軍部将:袁紹殿は本陣にて、他の諸侯の方々と宴の真っ最中かと…。
孫堅:…わかった。邪魔をしたな。
連合軍部将:……っ、さ、さぁお前達! 飲み直すぞ!
連合軍兵士1:お、おい…見たか、孫堅様の目が血走っていたぞ…。
連合軍兵士2:ああ、殺気が全身からみなぎってた…。
袁紹:いや、今日は大勝利といって差しつかえあるまい!
諸侯よ!大いに飲んでくれ!
曹操:しかし、あの多数の首の中に、呂布のがないのは遺憾ではあったな。
袁紹:なに、関羽や張飛などという足軽に負けて逃げるようでは、
呂布の首に以前のような値打ちはあるまい、はははは。
曹操:(ふん…負ければ人のせいにし、勝てば自分一人で戦ったように思っ
ているのだろう…。)
ん…?
! 孫堅殿か!?
袁紹:おお孫堅殿、無事であったか!
今ちょうど勝利の宴を開いていたところだ。
貴公も仲間入りされるとよい!
孫堅:…その前に一つ、袁紹殿に聞きたい事がある。
袁紹:? なんであろうか?
孫堅:汜水関で華雄と対峙していた際、なぜ兵糧を送らなかったか、
そのわけを聞かせてもらいたい。
袁紹:う、そ、それは…!
孫堅:そのため兵達は飢え、軍紀は乱れ、戦う気力も奪われた所に敵の夜襲
を受けて次々と死んでいった。
一軍を率いる将として、返答次第によってはたとえ袁紹殿といえど
許さん!
袁紹:ま、待て孫堅殿、それについては…
孫堅:【↑の語尾に被せて】
言い訳は無用だ!
なぜ兵糧を送らなかったか、それだけ聞けばこちらにも覚悟がある。
上は国家の為、下は天下万民の為に立ちあがったというのに、
その同じ味方にこのような仕打ちをするとは…返答やいかに!!
袁紹:ま、待て、待ってくれ! あれは部下が勝手にしたことだ!
わしは知らなかったのだ!
今その男をここに連れてくる!
孫堅:【唸る】………。
曹操:(袁紹め…部下の告げ口に踊らされたな…。)
袁紹:こ、この男だ、孫堅殿! こやつが勝手にしたことなのだ!
手討ちにするゆえ、どうかそれで怒りを鎮めてくれ!
ええい、汝が勝手な真似をしたために、我らの結束にひびが入ったで
はないか!
ッッ!!
曹操:(ふん…総大将みずからが味方の足を引っ張るか。
…この分では連合軍も先行きが怪しいな…。)
袁紹:な、これで怒りを収めてくれ、孫堅殿。
孫堅:……。
(こんな男を相手に怒ってみても始まらんか…。)
いいだろう。承知した。
袁紹:おお、そうか! さぁさぁ中で宴の続きと参ろう!
ナレ:小さな波乱はあったが、連合軍陣地は勝利に沸きかえる。
いっぽう虎牢関の董卓軍は、呂布が一騎討ちを捨てて退却した事もあ
り、その士気は低下していた。
呂布は関内の董卓の居室に呼び出されると、その前に進み出る。
呂布:お呼びですか。
董卓:そちの部隊は、虎牢関下まで下がったな。
呂布:下がったのは大した事ではありません。
問題は、馬止めの柵です。
董卓:柵か…破れるのか?
呂布:敵に気づかれぬよう騎馬隊を大きく迂回させ、背後から攻める方法が
あります。
董卓:どれぐらいの日数でできる?
呂布:およそ十日から二十日もあれば可能でしょう。
董卓:ならん。時がかかりすぎるではないか。
その間に連合軍どもが新しい動きを見せぬ保障は無い。
しかし…烏合の衆と侮っておったが…彼奴らもやりおるわ…。
呂布:強いのは一部に過ぎません。
董卓:孫堅か?
こちらに付くように李カクを遣わしたが、失敗に終わったわ。
呂布:それは無理でしょう。
それに手ごわいのは孫堅ではなく、公孫瓚とその軍です。
それがしとまともに打ち合える武勇を持つ者達がおりました。
ですが、その者達も孫堅同様、こちらにはなびきますまい。
董卓:ぬうう…そうか。
やむをえん。ここに来てからずっと考えておったが、今回のそちの
退却と先ほど聞いた李儒の意見を合わせて、今後の動きを決めたぞ。
呂布:敵を打ち破る策ですか?
董卓:そうではない。
確かにそちに全軍を預ければ可能だろうが、勝ったところで彼奴らは
蟻のように散っていき、また何かあると集まってくるだろう。
そのたびに汜水関と虎牢関を守らねばならん。
それではきりがないわ。
呂布:確かにそうですが…では、いかがされるので?
董卓:洛陽が守りにくいとは言わんが、もっとたやすく守れる所がある。
それは長安よ。そこへ都を移す。
呂布:なるほど、確かに天然の要害に守られていますな。
董卓:そうじゃ。しかもわしが力を蓄えた涼州も近い。
そこへ帝と財宝と民をそっくり移し、廃墟同然となっているのを
新たに建設させるのだ。
更には洛陽に住んでいる何百もの商人から蓄えを全て吐き出させる。
逆らうものは一族郎党皆殺しじゃ。
呂布:では、洛陽はどうするのですか?
董卓:連合軍にはチリ一つ残してやるつもりはない。
すべてを奪ったあと、火をかけて焼き払ってくれるわ。
それよりも呂布よ、そちに頼みたい事がある。
呂布:? 何でしょうか。
董卓:漢王朝の歴代皇帝の墓には莫大な副葬品がある。
墓を暴いてそれもすべて奪い、長安へ送るのじゃ。
呂布:! (死者の墓まで…何という…。)
…わかりました。
董卓:李儒によれば街には運気というものがあり、洛陽はすでに衰えておる
。
これからは長安だと申しておった。
しょせん、わしにとって半年から一年で手に入れた場所だ、何の未練
も無いわ。
いずれにせよ、洛陽を焼けば彼奴らはやがて結束を維持できなくなる
。
ここや汜水関は、どれほどの兵力があれば守れる?
呂布:どちらも三万もあれば十分でしょう。
それだけあれば敵は攻めあぐね、戦線は膠着します。
何かあった際にすぐに援軍を送れる態勢が整っていればよろしいかと。
董卓:ようし決まったわ。
ならばそちは先に頼んだ通り、漢の歴代皇帝の墓へ向かうのじゃ。
事を終えたらすぐにわしの元へ戻って参れ。
兵は少しずつ引き上げさせる。
呂布:ははっ。
ナレ:董卓は密かに洛陽へ引き上げ、長安へ移る事を朝廷で強制決議、直ち
に移動を命じる。
その一方、腹心の李儒は兵を繰り出し、街中の商人から財を徴収。
暴君の兵は財産ばかりか、富豪や豪商の娘や妻をも犯し、あるいは
連れ去り、逆らう者は容赦なく殺した。
同時に百万を超える民達は、数万の兵の監視のもと、長安へ移動させ
られることとなる。
董卓:さて…そろそろ出発するか。
わしの財産は全て積んだか?
董卓軍部将:ははっ。ご覧のとおりでございます。
董卓:ふふふ…ようし、洛陽に火を放てィ!
連合軍に何一つ残してやる事は無い!
…いや、一つだけあったわ。
焼け野原になった洛陽じゃ、はっははははは!!
さぁ者ども、やれィ!!
董卓軍部将:かしこまりました!
火を放てェ!!
全てを焼き尽くすのだ!!
董卓:幾日燃えているであろうな…もともと一年かそこらの間に奪った土地
じゃ、何の未練もないわ!
うわっははははは! 進めェ! わしの新天地、長安へ!
ナレ:洛陽の宮殿、屋敷、街が炎に包まれるのを董卓は、車の中から眺めて
笑った。
そして長安への道中、董卓の兵の暴虐ぶりは日常の光景となり、
民達の怨みの声は地上に満ち、慟哭の嘆きは風に乗って空を覆いつく
す。
それより少し前、連合軍側の曹操にも董卓の動向が伝わった。
曹操:…まだ汜水関も虎牢関も落とせておらん…。
このまま戦況が動かんのはまずいな…。
連合軍兵士1:申し上げます。
董卓は民達を全て長安に移す模様です。
曹操:長安へ? あの地は廃墟になっているはずだが…。
洛陽を砦として戦うつもりなのか?
帝だけを移すならともかく、民については腑に落ちんな…。
!! そうか!
馬を引け! 袁紹殿の元へ参る!
連合軍兵士1:は、ははっ!
曹操:まずい…まずいぞ!
【三拍】
袁紹殿!!
袁紹:おお、曹操殿、血相を変えてどうしたのだ?
曹操:ただちに全軍で犠牲をかえりみずに汜水関・虎牢関へ総攻撃をかけて
突破し、その勢いで洛陽を攻めるべきだ!
袁紹:な、なんだ藪から棒に。
曹操:董卓は民をも長安へ移しているという報告があった。
おそらく洛陽を焼き払う気だ!
袁紹:馬鹿な事を。
洛陽全体を巨大な城として戦うつもりなのだろう。
曹操:ならば移るのは帝だけで良いはずだ。
董卓は長安へ新たに都を建設するつもりでいるに違いない。
民はその労働力として必要ゆえ、帰る場所を奪う意味でも、
洛陽を必ず焼く。
袁紹:もし仮に洛陽を焼かれれば、確かに負けだ。
我らは洛陽を取り戻しに来ているわけだからな…が、しかし、そんな
事は起きまい。
民を移しているのは、董卓にも人の心があるからだろう。
曹操:奴にそんな良心があるとでも思っているのか、袁紹殿!?
袁紹:それに、汜水関も虎牢関もまだ破っていないのだぞ。
全軍を動かせなどと軽率な事は言うものではない。
曹操:ッ! 決断のしどころなのだ、本初!!
袁紹:! 血迷うな、孟徳。
洛陽は後漢王朝二百年の都だぞ。
いくら董卓でも焼くはずがあるまい!
曹操:火をつければ誰だろうと焼くことができるわ!
ここで全軍を動かす決断ができんのなら、連合軍の盟主などやめてし
まえ!!
袁紹:!!!…汝とは昔からの馴染みだ。今の言葉は忘れてやろう。
…一度だけな…!
曹操:…くッ!!!
ナレ:曹操の予見通り、洛陽の空が黒煙に覆われ始めたのは午後だった。
汜水関や虎牢関を挟んでその煙が見えるという事は、よほど大きな火
であるという証拠であり、前線で敵と対陣している公孫瓚と孫堅を除
いた諸侯が、本陣に集まった。
連合軍兵士2:申し上げます! 董卓が洛陽に火を放ちました!
おそらく長安へ向かうものと思われます!
曹操:ただちに全軍で追撃すべきだ!
おそらく関の敵軍も撤退し始めている。
追いついて董卓を討ち果たすのだ!
それが忠義を旗印として立ちあがった我らがなすべきことだろう!
袁紹:前線では公孫瓚殿と孫堅殿が敵とすでに交戦中だ。
我らも続くぞ!
袁紹役以外全員:おうッ!!【SE代用可】
【二拍】
関羽:どけ、雑魚共! はあッ!
!? 兄者、あれを!!
張飛:どうりゃッ!!
おいおい、虎牢関の向こうの空が真っ黒だぜ!
一体何が起きたんだ!?
劉備:…おそらく、董卓が洛陽を焼いたのだろう。
関羽:え!? なぜ、そのような事を…?
劉備:焦土戦術であろうな。
洛陽で何も得られぬようにしておけば、我らは以降の進軍が困難にな
る。
それに、洛陽を取り戻すという我らの意義が失われる事も意味する。
張飛:ちくしょう、董卓の野郎、それも計算のうちってか!?
汚ねぇぜ!
劉備:さっきから敵の動きを見ていると、どうも逃げ腰だ。
おそらく、退きながら戦っているのだろう。
関羽:確かに。
あらかじめ撤退を命じられていたわけですな。
張飛:けど今は! ふんッ!
目の前の虎牢関を抜くのが、先だよな! 兄貴!
劉備:ああ、行こう! 一番乗りは我ら兄弟だ!
関羽・張飛:おおッ!!
【三拍】
劉備:我ら三兄弟が、虎牢関の一番乗りだ!!
劉備・孫堅役以外全員:【喚声・SE代用可】
孫堅:? 急に汜水関の兵が退きだした…?
! あの空は! 董卓め、まさか洛陽を焼いたのか!
今こそ好機、汜水関を落とし、先の雪辱を晴らせ!!
孫堅役以外全員:【喚声・SE代用可】
【二拍】
孫堅:多くの死んだ者たち、見ているか・・・!
孫文台、汜水関を攻め取ったぞ!!
ナレ:連合軍は汜水関・虎牢関を落として洛陽を望むと、三百里もの間、
天地を覆っているのは、おびただしい黒煙と火炎のみだった。
袁紹達は、急ぎ消火活動や逃げ遅れた者を保護を行うと、そのまま
洛陽へ腰をすえてしまう。
あまりの悠長さに、曹操は心中いら立ちをつのらせる。
その果てが彼に、単独での追撃を決意させる事となるのであった。
END
汜水関のすぐ後に書き上げた作品でしたが、世に出すのが遅くなってしまいました。
楽しんでいただけたなら幸いです。




