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【SF 空想科学】

百年越しの計画

作者: 小雨川蛙

  とある平和な国に、大きな大きな問題が存在した。

  多くの研究者がこの問題を解決しようと頭を悩ませたが、どうにもこうにも解決しない。

  しかし、どこにでも天才と言うのは居る者で、ある時、遂に一人の研究者が一つの方法を思いついた。

  「計画の成就には百年かかるでしょう」

  彼がそう言ったのを聞いて、研究者仲間はうんざり顔で言う。

  「百年。それでは、他ならぬ『今』の問題はどうなる?」

  「確かに、この計画では『今』の解決にはならない。しかし『未来』の解決は出来るだろう」

  研究者の力強い言葉もあって、他の者達は最終的に彼に賛同した。

  こうして計画が実行され、ただちに何体ものロボットが作られた。

  今を苦しみ生きる者達の夢を背負いながら。


  やがて百年が経った。

  研究者も研究者の仲間も彼らの子供さえほとんどが死んだ。

  だが計画は無事に成就したのだ。


  とある会社の中で誰かの声が聞こえた。

  「答えなさい。何故、さきほどあんなに怒鳴り声をあげたの?」

  そう詰問されている初老の部長は頭を下げながら謝った。

  「申し訳ありません」

  「私は理由を聞いているの! いくら仕事でミスを犯したからって、あんなことをしたら新入社員である彼はどんな気持ちになると思うの!?」

  「いや、いくら小さなミスとは言え、ここでしっかり叱らないと……」

  「あなたも若い頃にはたくさんミスをしたでしょう!」

 いつまでも言い訳を続ける部長の頬をロボットが叩いた。

 まるで、悪戯をした子供に教育をするように。

  部長は恨めし気に自分を叩いたロボットを見つめた。

  「何ですか、その目は!」

 その言葉と共に部長は再び叩かれた。 

 社会的に成功し、高い地位を得たはずの上司がまるで教師に叩かれている子供のようになっている光景を見ながら、今朝ミスをして叱られた新入社員はこっそりと先輩社員に尋ねた。

  「先輩、あのロボットは何者ですか?」

  「百年も前に社会的に問題となっていたことに対する当時の人間達のアンサーさ」

  「どういうことですか?」

 今朝、ミスを指摘する際に過剰に怒鳴っていた上司があんなにも叱られている光景は実に奇妙だ。

  「当時は年功序列って考えが蔓延していてな。年上の人間を注意出来る者が居なかったってのが大問題になっていたんだと」

  「なんでそこからあんなロボットが造られることに?」

 文字通り子供のように叱られる上司を見ながら先輩は答えた。

  「簡単な話だ。あのロボットは俺達が生まれるずっと前から稼働しているだろ?」

 ため息交じりに答えられた先輩の言葉に新入社員はようやくロボットの造られた理由を知った。

  「それじゃ、もしかして社長や会長でさえもあのロボットには頭が上がらないんですか?」

  その問いかけに先輩は頷く。

  「俺達も一生頭が上がらないわけさ。あのロボットにはな」

  年功序列などというくだらない問題を解決するために努力した先人たちの百年越しの計画。

  その意義と意味を現在を生きる者達には理解出来るはずもなく、彼らからしたらとっくに型落ちしたオンボロのロボットに口やかましく怒られ続ける現実があるばかりだった。

 

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