6.カズの私室にて-私が操縦権を掌握したあと-
全48話予定です
日曜~木曜は1話(18:00)ずつ、金曜と土曜は2話(18:00と19:00)をアップ予定です(例外あり)
更衣室での話し合いのあと、クリスはカズの私室に呼ばれていた。
「で、どうだった? コアユニットなしで起動してみて」
カズは椅子に座っており、あくまで普通に聞くのだが、
「その前に、あの……ご主人様、手を縛って頂いてよろしいでしょうか?」
クリスは、自分の心の中にあるマゾヒズムに目覚めてしまったのだ。カズの事を二人の前では[ご主人様]と呼ぶと決めたあの日から、彼女は変わった。その一端がこの行為である。
「いいよ」
そう言うとクリスの両手を後ろ手にして手枷で拘束する。
「それで……あの……」
その次が足を広げさせる事である。
手を縛られ、足を広げて大事なところを隠せなくし、カズにその状態で話す、これがクリスが彼に願い出た[ミーティング]の仕方である。
「よしっと。そのままでいてね。それじゃあ聞かせてもらおうか」
ちょうどがに股のように足を開かせたカズが問う。
「はい、ご主人様。途中まではやはりトリガーの引きが悪かったです。狙った人に向けて一瞬引き金が遅れたというか、ズレのようなものを感じました。そして、コアから操縦権のはく奪をした時、動きに明らかな動揺のようなものが見られました。ですがご存じのとおり、コアユニットとの直接リンクは出来ません。なので[彼女]が何を言いたかったのかは分かりかねます」
恐らくは[何で?]と言ったところか。
――こりゃあ、あのサディストの副司令に言ったらまた[調整]しそうだな。
クリスの母親であるコアユニットは、以前から何度か[調整]を主に副司令の手によってかけられている。それが終わったあとは決まって副司令の事を[ご主人様]と呼ぶ。そして[二度としないように]と言われているにもかかわらず同じ失態を繰り返してしまう。それはもちろん彼女なりの何かがあるのだろうが、カズから見てもコアユニットの彼女は[調整]される事を望んでいる節がある。
つまり、彼女もまたクリス同様、マゾヒストなのだ。
「そのあとは、どうだった?」
肝心なところを聞く。
今までクリスは、その機体のコアユニット同様、対物兵器を人に向けて撃つのが苦手であった。だが、[こちら側の人間]になった彼女には色々なテストがなされるようになった。その中の一つが[躊躇なく人を撃てるか]である。
その問いに、
「私が操縦権を掌握したあとはご命令通り、躊躇せずに撃つ事が出来ました。それはレイリアさんも見ていたので、もしでしたら彼女にも聞いていただいても」
ほんの少しだが笑みを浮かべているクリスを見て、カズはすまない気持ちになった。
――ゴメンな、こんな風にきみを変貌させてしまって。
「いや、信じるよ。きみが俺の事を信じて付いてきてくれると言ったんだ、俺もきみの事を信じるよ。それから、まだ聞いてなかったけど、レイドライバーの整備に顔を出したんだろ? 野戦とは言え結構しっかりしたつくりの建物だったでしょ? エルミダス基地とは勝手が違うから、あれでしばらく行くそうなんだ。とりあえず、医療班の主任と一緒にバックパネルを外して例の排せつ物を取り出すところ、見た?」
通常、コアユニットにアクセスするには、厳重なロックが掛かった部屋の中でレイドライバーの四肢と頭部を外した状態で一体ずつ行うのが通例だが、ここは基地ではない。そんな部屋もなければ、本来立ち会うべきはずのエルミダス基地司令、副司令もいない。なので簡易的ではあるが、小屋を作り、レイドライバーの操作系のメインブレーカーを落として、ちょうど[立ち膝]の格好にしてアクセスする事になったのだ。
そのアクセス権はカズに一任された。
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