1.レイリア・ルーデンバッハ-生い立ち-
全48話です
レイドライバー1を読んでいない方は、お手数ですがそちらをお読みになってから今作をお読みください(続きものです)
レイドライバー 1 -ヒト型兵器に隠された秘密-
https://ncode.syosetu.com/n1890ib/
実は、もう一つの並行世界線という事でヒューマンシリーズを寄稿しています(完結済みです)
もしよければこちらも読んで頂けるととても嬉しいです!
ヒューマン 1 -繰り返される事件と繰り返す時間遡行-
https://ncode.syosetu.com/n2996hx/
ヒューマン 2 -再び繰り返される事件と再び繰り返す時間遡行-
https://ncode.syosetu.com/n8320hy/
【R-18】ヒューマン 3 -時間遡行によってもたらされたものは-
https://novel18.syosetu.com/n2786ia/
レイリア・ルーデンバッハは幼くして両親はいない。それは物心ついた時からそうだった。親、というものを知らなかった。そんな彼女たちをスラム街のとある男が拾ってきて育てていたのだ。
レイリアには兄弟姉妹がいた。
そう[いた]のだ。ジャズリンという、彼女より四つほど上の姉と、一つ下のアレックスという弟がいた。ルーデンバッハという苗字は姉が覚えていて、レイリアに教えた名前なのだ。
決して穏やかな生活を送って来られた訳ではなかったが、それでもレイリアは自分を[不幸だ]と思ったことはなかった。貧しいながらもスラムのとある人物が、毎日、とは言い難かったが食事をくれて、頼りがいのある姉がいて、可愛い弟がいる。見よう見まねでスラム街の掟を守りながら、クズ鉄を拾ったり、時には飲食店から出る残飯をあさったり。
彼女のそんな日常が狂い始めたのはある日の事だった。
その日はレイリアだけ別行動で、ゴミ集積場に使えそうなものを拾いに行っていた。その帰り道で、スラムの同じ歳くらいの知り合いの子供から[きみの姉と弟がさらわれた]と知らされたのだ。
急いで帰ると、何故か見知らぬ男たちが件の男を拘束している。
「……さん、どういうことなの?」
レイリアは件の男に問いかけるが答えはない。その当時は、もちろん相手の名前を確かに憶えていたのだが、今ではすっかり忘れてしまった。
口ごもる件の男の代わり、という訳ではないのだろうが、見知らぬ男の一人が、
「その男はね、きみの姉と弟を売ったのだよ」
と答えた。
「本当なの?」
件の男に聞くが返事はない。
「本当にそんな事したの?」
もう一度聞く。
「すまん、許してくれ。そういう約束なんだ」
あとで考えれば、近所の子供たちが定期的に一人、また一人といなくなっていた事があったのだが、その時は、
「なんであたしの家族なの!?」
気が付けばその人物に怒鳴っていた。
するとその人物を拘束していた男が、その人物を床に倒してレイリアの足元に何かを滑らせてよこした。
[今投げられたものは何だろう]とレイリアが目をやると、それは一丁の銃だった。
「これは?」
レイリアは純粋に聞いたつもりだった。だが、男たちは、
「意味する事が分からないかね?」
と聞き返したのだ。
その男たちの返答に無言で頷くと、
「きみに復讐のチャンスをあげよう、と言っているんだよ」
「復讐?」
「そう、きみの姉と弟を売ったこいつにきみの鉄槌を下すといい。その為の手段だ」
男たちの言葉をすぐにはレイリアは理解しかねたのだが、その人物が[仕方なかったんだ]とわめき始めて気が付いた。
――ああ、この人を[コロセ]って事ね。
レイリアはまるで生気がなくなった亡者のように落ちているその銃を拾うと、虚ろな瞳でその人物に銃口を向けた。
「今まで面倒を見てきたじゃあないか。そうだ、あの子たちにあげる分もお前にあげるよ、だから……」
「返してよ」
「へっ?」
「あたしのジャズリンお姉ちゃんとアレックスを返して!」
その手は震えていた。今になってようやく二人を失った喪失感が襲ってきたようだ。それと同時に目の前の人物への怒りも。
「さぁ、やりたまえ。そして復讐を果たすのだ」
男が促す。
レイリアはほんの少しだけ躊躇したが、
[ターン]
子供の照準にしては正確に頭部を打ち抜いていた。
――ああ、あたしは明日からどうやって生きていこう?
今起こっている事とはかけ離れた、冷静にそんな事を考えていたレイリアの、事を成し遂げたその手から男が素早く銃を取ると、
「きみは今日から孤児院で暮らしてもらう事になる。まぁ、どのみちにしろここにはもう居られまい?」
男たちの言う通りだ。その人物を自分が殺した事が分かれば今度はレイリア自身が危ない。それが分からないほどレイリアもバカではない。
「あなたたちは、どうしてそこまでしてくれるの?」
子供の質問に、
「理由はない。ただ、密告があってそれをきみに伝えた。そして仇を討てる手段を用意した。それだけだよ」
男たちは淡々としていた。
「それじゃあ、今から準備しなさい」
こうしてレイリアはとある孤児院に連れてこられた。
そこで彼女を待っていたのは、厳しい規律と安心して寝られる寝床、そして質素ながら十分に摂れる食事であった。
この孤児院は、他と比べて異質、であった。
それは、このご時世、通常の孤児院と言えば戦争の影響もあって平屋のトタン屋根を敷いただけという、貧民街のそれとほとんど変わりがない外観に、ぎっちり詰まった人数、さらには満足な分の食事が供給できない為の餓死者というのが普通なのだ。
だが、ここは違う。
鉄筋コンクリート製の総二階建てという、台風が来てもびくともしない作りに加えてペンキの匂いがまだ残る、まるで新造されたであろうと思われる建物に、その日の残飯をあさって回る毎日と違い、質素だが満足いく食事、そして落ち着いて眠る事の出来る部屋。
さらに付け加えて言えば、周りにいる子たちはほとんどがレイリアと同年代と思われる、女の子だった。
確かに厳しい規律はレイリアにとっては慣れるまで大変だった。間違えれば直ぐにビンタが飛んで来る世界だ。だが、彼女は決して賢い方ではないが[習うより慣れよ]がしっかり出来る子だ、そんな戒律は直ぐに慣れていった。
そして、この孤児院の特徴ともいえる、週一からニ回の身体検査。人前で服を脱ぐのに抵抗はなかったので、指導員たちの[的]になる事もなかった。
ただ、他の娘が縛られて強制的にそれをされているのを見ると、
――何もしてあげられなくて、ゴメンね。
少し心が痛んだ。
身体検査を差し引いてもここはレイリアにとっては快適と言える環境なのだが、さらに不思議な事に[教育]と呼べるものを施してくれたのだ。
第一、第二、第三の公用語の読み書きから始まり、ありとあらゆる分野、それこそ[もしここを出たら大企業にでも雇ってもらえるのでは?]と思わずにはいられないほどの分量を教えられた。
だが、もちろんその中には[目上の者に対する口の利き方]というのも含まれているが、そんなのはささいな事だ。黙って従っていればいいだけの事である。
そんな生活をしていると、やはり耐えられない娘という者も出てくる。そういった子たちはある日突然いなくなったのだ。
そう[突然いなくなった]のである。
だが、レイリアにしてみればどこか他人事のように思えていた。たまに[あたしがそのいなくなる子になるのでは?]と思った時もあるが、元々家族を失った彼女だ[ああ、もしお姉ちゃんと弟が生きていれば悲しんでくれるのかな]と少しだけ考える事もあったが、直ぐにいつもと変わらない分刻みのスケジュールに身を委ねていた。
この、ある意味異常ともいえる生活に心も躰もすっかりなじんで来た頃、その二人とは知り合った。
レイリアにとって[波長が合った]というべきなのだろう、彼女は直ぐに二人に心を打ち解けた。彼女は元々が根の明るい子だ、身を護るための術を知っているというだけで、別に人見知りという訳ではない。
その二人とは孤児院で五年半、軍事施設で二年半ほど一緒に暮らして、今では同じ隊に属している。
全48話です
レイドライバー1を読んでいない方は、お手数ですがそちらをお読みになってから今作をお読みください(続きものです)
レイドライバー 1 -ヒト型兵器に隠された秘密-
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実は、もう一つの並行世界線という事でヒューマンシリーズを寄稿しています(完結済みです)
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ヒューマン 2 -再び繰り返される事件と再び繰り返す時間遡行-
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