『チェックメイトだよ』と言いたいだけの狩野くん
昼休み自席で微睡んでいると、
「私の筆箱が無いの」
と、星乃 明里が友人に話しているのを聞いた。
これは事件だ。
僕は直感的にそう感じて、筆箱の行方を探す事にした。
まずは、聞き込み……いや、聞き耳だ。
星乃の話によると、どうやら四時間目の理科の授業まではあったらしい。
理科室で行われた実験結果がプリントに書き込まれている事により、それが証明された。
つまり、理科室から教室に戻る間に紛失した……いや、昼休みまでには給食の時間もある。
星乃の班は今週給食当番だから、配膳中は机の周りが無防備になる。その隙を狙い誰かが筆箱に手を出した可能性も捨てきれない。
なぜなら、星乃は可愛いから。
クラスのマドンナ的存在で、とても人気がある。
だからこそ、彼女への嫉妬や好意が行きすぎて悪事に手を染める……なんて事もありそうだ。
情報収集を終えて辺りを見回すと、星乃の事が好きな男子が我先にと鉛筆や消しゴムを星乃に貸そうとしていた。
それを窓の近くに集まり冷めた目で見る女子のグループ。
そう、このクラスの誰もが動機を持ち犯人になりえるのだ。
僕は一人席を立ち廊下に出た。
犯人探しをする前に、他の可能性を潰しておかなければならないからだ。
たとえば理科室に置き忘れたのなら、先生が鍵を閉める時に室内を確認するので、気付いてクラスに持ち帰る可能性が高い。けれど、先生から筆箱の話は出ていないので、理科室には無かったのだろう。
もし、廊下に落としたのなら、そのまま放置されているとは考えにくい。
一時的に別の場所に移動させて、拾った人が次に取る行動は……。
職員室の前にある長机の上に、見覚えのあるイチゴ柄の筆箱が見えた。
手に取り中を開けると、イチゴ柄の鉛筆と消しゴムが出てきた。
それは間違いなくイチゴが好きな星乃の筆箱だった。
「チェックメイトだよ」
誰もいない廊下に、少し落胆した僕の声が響いた。
◆◇
「星乃さん、筆箱、職員室前の落とし物置き場にあったよ。持ち物には名前を書かないと」
「狩野くん、ありがとう!お気に入りの物だから名前書きたくなかったんだけど、これからはちゃんと書くね」
そう言って、星乃は筆箱を手に取り嬉しそうに笑った。
僕の好きな探偵ドラマのように推理して犯人を追い詰める事は出来なかったけれど、星乃の笑顔を見る事が出来たのでよしとしよう。
いつか『チェックメイトだよ』と皆の前で言える日を夢見て、授業が始まるチャイムの音と共に僕は席に着いた。
なろうラジオ大賞4応募作品です☆
タイトルは面白そうでタイトル読んでもらいました♪
1,000文字以内にまとめるのは本当に難しい……。
楽しんでいただけたら幸いです。