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転生魔王は、真の世界平和を渇望する ~人族の王子に転生した元魔王は、地上の平和も目指す~  作者: ノーパクリ・ノーオマージュ
第1章 幼年期(0歳) 家族編
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7 情報交換Ⅰ


「さて、何から聞いたものかな」


 自分から提案してきておいて、エルミアは今更質問を考えるようにのんびりと彼方を見やった。かといって流石にややもせずに口を開く。


「魔族は異形の姿だって聞くけど、本当?」


 最初に聞くことがそれか。どうでもいい口開きに溜め息の一つも吐きたくなるが、いきなり本題というのも率直にすぎるか。


『人族と異なるというのは間違いない。魔族は各種族に一目でそれとわかる特徴的な部位が存在している』


「なるほど。例えば君達ゴート族にはどんな特徴があるの?」


 よりによってゴート族か。こいつにとって目の前にいる俺がそうだった以上、当然といえば当然の質問だとは思うが、苦々しさは拭えない。


『俺達ゴート族なら渦巻く二本の白角、ハービィ族なら羽毛の生えた翼、ドラル族なら矮躯とそれに見合わぬ太き体躯、竜族なら鈍色に光る鱗と翼、ギガンダ族なら見上げるほどの巨躯といった具合だな』


 とりあえず他の種族も巻き添えにしとく。うちだけってのはフェアじゃないだろ。


「……そっか。やっぱりそうなんだね」


「やっぱり?」


 エルミアの妙な反応に俺は首を傾げる。


「地上には(いにしえ)の魔族大侵攻の時に残された魔族の子どもがいるんだ。その中に確かに君が言う特徴を持つ種族がいる。だから、本当に彼らは魔族の子どもだったんだなと思ってね」


「……ああ」


 どこか悲し気な、そして痛ましそうな。エルミアの語りに掛ける言葉はなくて、俺は曖昧に相槌を打つことしかできなかった。



 魔族大侵攻。恐らく魔界で言う地上大侵攻のことだろう。


 魔界と地上を遮る神の恩寵ができるよりも昔。ウルムス大洞穴の奥底で地上へと繋がる(きざはし)を見つけた魔族が地上を侵攻したと伝わっている。

 今となっては実感を持って理解できるが、弱い地上の人族を、当時の魔族は一方的に蹂躙したらしい。


 その際に地上の生命の腹に残された子どもがいたということだろう。魔界にも地上から連れてこられた奴隷の子孫と言われる者がいたから容易に想像はつく。かく言うゴート族もその脆弱さから地上の血が入っているのではないかと言われていた。



『そういうあんたも、俺の両親とは違った姿をしているように見えるが?』


 物思いから帰って、話題を変える。俺だけ答えるってのもフェアじゃない。エルフのことは知っているが交渉相手の真偽を見るため、俺はどこか沈むエルミアに一鞘当ててみることにする。


「ああ、さっき名乗った通り僕も人族じゃないからね。エルフって聞き覚えあるかな? まだ魔界にお仲間はいる?」


 平静を取り戻したエルミアは特に躊躇(ためら)うことも隠すこともなく、あっさり応じた。


『風の噂に聞いたことはある。地上に人族以外にそういう種族がいるというのは。魔界にはいないけどな』


 どこか拍子抜けしながら、エルミアがその調子なので俺もただ素直に応じる。


「そっか。魔界に連れ去られた仲間はもういないんだね」


 エルミアはその美貌に影を浮かべた。連れ去られた。そうか、地上大侵攻で攫ったというのは人族だけでなく、エルフも。


 話題の転換に失敗した俺は頭を掻こうとして、今の体ではそれすら満足にできず内心でほとんど音も出ない舌打ちした。


「それで前世の君はどんな立場だったのかな? 一族を守るために転生したっていうことは、それなりの地位にいたってことかな? そして、守ると言われるゴート族は種族として弱いということ?」


 と思えば、エルミアの方が即座に切り替えて急所を突いてきた。


 読まれている。今までの情報からこちらの事情の大筋が。


『それを言うならあんたの立場はなんだ? 人族のアーサーに呼ばれてこの場に来る。人族とエルフの関係性は? 自分達を守りたいという自分達とは、エルフと人族。どこまでを指している?』


 牽制で返せば、エルミアはおおーとか言って手をパチパチ叩いている。……なんか調子狂うな、こいつ。


「そうだねー、お互い気になることだらけだけど、僕は君に共感を抱いてる。自分達を守りたい。共通した願いを持つ僕達は、きっと似た者同士なんじゃないかとも思ってる。僕の憶測で一族を危険に晒すわけにはいかないけど、僕は君を信じてみてもいいんじゃないかと感じてきてるんだ」


 胡散臭い。

 この上なく胡散臭い言葉だが、非常に遺憾なことに少なからずエルミアに共感する部分は俺も感じ初めてはいる。


「だから、ここだけの話ってことで情報交換しよ?」


『……そうだな。こうして何度も牽制しあっていても時間の無駄だ』


 諦めに溜息が漏れる。


 どうせ互いに不利益と思ったことは言わない。しかし逆に言えば、そこまででない情報は交換してもいいということだ。どうにも信用しきれない嫌いはあるが、エルミアはそういう意味では交渉に足る相手のようだ。


「それじゃ君からどうぞ」


 と思っていれば、にこやかな笑顔でエルミアは振ってきた。


『おい』


 機先を削がれ、言い出しっぺはそっちだろうがと睨むも、


「先に質問したのは僕だよ。それに今地上にいる君と違って、こっちはそもそも魔界に手出しなんてできないんだ。目的に干渉される恐れがない方から話すってのがフェアってものじゃないかな? あと何度も言う用だけど、今の君って僕に逆らえる立場?」


 エルミアは、ニコニコと笑顔でこちらの不利な点をズバズバ容赦なく切り込んでくる。


 ……やっぱり、こいつ信用できないわ。


 深々と溜息をつくも言ってることは一々至極ごもっとも。なので、いい加減諦めるとする。


『お察しの通り、前世の俺はゴード族の中でそれなりに高い地位にいた。そしてゴード族は魔界の中じゃ弱小種族だ。だから俺はゴード族を守りたい。これで以上だ』


 ゴード族のトップで魔王だったってことまでは、別に教えてやる必要はない。


「へー? 魔族はそれなりに高い地位って位で転生の法が使えるんだ? そうなると君以外にも魔族の転生者っていっぱいいるのかな?」


 隠し事をする俺に対して、どこか疑わし気なエルミア。嘘は言ってないってのに鋭い奴だ。


『俺が知る限り使える奴は魔族にもいない。俺が成功したのはまったくもってたまたまだ。他に人族に転生してる魔族がいるかなんて俺は知らんよ』


「なるほど、今度は本当みたい」


 俺の答えに、エルミアはどこか胡散臭い笑みを見せる。


『……は?』


「うーん。どうも君、嘘は言ってないけど本当のことも言ってない気がするんだよね」


 嘘だろ、おい。意思共有はこっちが伝えるの以外はシャットアウトしてるはずだけど、どういう理屈だ。


「まあ、いいや。一応教えてもらったからね。今度はこっちの番」


 エルミアは一度頷き、真っ直ぐに俺の顔を覗き込む。


「僕の立場は、はぐれエルフかな。エルフって保守的で森の中に引きこもってるのが大半なんだけどね。ちょっとそれが退屈なのもあって僕は勝手にそこら中行ったり来たりしてる。そんな中で昔ちょっとアーサーの祖先と仲良くなる機会があってね。それ以来付き合いが続いてて、その縁で今回、アーサーに頼まれて君の正体確認に来たってわけ」


 はぐれ。

 その概念は理解できた。魔界でもいたもんだ。一族の中で生きるのは窮屈だって飛び出してく奴が。魔界と地上の差こそあれど、エルミアもそれと同じということだろう。


「で、エルフと人族の関係性だっけ? まあ一応……中立、なのかな? 今は」


 エルミアはとぼけたように首を傾げる。


「いやいや、何もはぐらかしてるわけじゃなくてね。今は(・・)、お互い関係が無いんだ。ただ、昔に色々あってね」


 俺の疑わし気な視線を察して、エルミアは悪びれることなく手をパタパタと振った。


「ほら、僕達って綺麗でしょ?」


『……それは認めるが、普通自分で言うか、それ?』


 自分で自分を指差す自称美形には、呆れもしようというものだ。


「まあ、それは置いといて事実だからさ。そしてその上、明らかに人族とは違うと来たもんだから」


 エルミアは今度は自身の尖った耳をちょいちょいと引っ張り、


「人間達のいいおもちゃだったわけ」


 ストレートに言われて、ようやく俺は口を噤んだ。


 エルミアがあまりにあっけからんと話すものだから、察せなかった。それは、ハービィや俺達と重なる理屈で、容易に想像できるものだったというのに。


「僕達は人族よりも長命で、自然に愛されて、強大な魔力も使えた。だから、一個体としては人族よりも優れていたと言えなくもなかったと思う」


 おまけに美形だし? とお道化ながらエルミアは続ける。


「ただ、圧倒的に絶対数が人族よりも少なかった。人族の数倍に及ぶ寿命がありながら、それでも数的優位を保てないほど、繁殖力で劣っていた。だから人族より優位な魔力を持とうが、長い寿命に基づく知的優位性があろうが、総合的な戦力ではどうしても人族に及ばなかった」


 それでいて美形で、おまけにレアなわけ。今度はどこか自虐的にエルミアは続けた。


「そりゃまあ、人族からすれば希少なおもちゃだよね」


 肩を竦めて、エルミアは最初と同じ言葉で、そう人族とエルフの関係性をまとめた。



 言葉は、出なかった。


 それは一族の大半が女で、しかも美しく、加えて魔族にしては非力。ゆえに他種族の性奴隷であったという歴史を持つハービィ族。そして、単純に非力ゆえに奴隷であり、他種族のおもちゃであったゴート族。そんな俺達と似た境遇であり、似た境遇であるからこそ、何も言えなかった。



 これだけ凄惨な境遇に、慰めの言葉など意味を持たないから。




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