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転生魔王は、真の世界平和を渇望する ~人族の王子に転生した元魔王は、地上の平和も目指す~  作者: ノーパクリ・ノーオマージュ
第1章 幼年期(0歳) 家族編
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4 地上の技術


 アリシアの胸に抱かれ、俺は初めて子供部屋を出た。


 ようやく首程度は動かせるようになったので、顔を上げて周囲を観察する。



 俺の住んでいる屋敷は、俺が思っていたよりも遥かに立派だった。

 広く天上の高い廊下。石の階段。

 所々に飾られた武具や絵画、旗といった装飾品。


 たまにすれ違う者達は、武具か飾りのついた立派な衣服に身を包んでいる。、

 

 うん。正直、もう屋敷なんてレベルじゃなくて城だった。


 ここに住む俺の両親は、どうも俺が思っていたよりも相当に身分が高いようだった。あり得ない程魔素の弱い他の者に比べれば比較的マシな魔素を持っていることといい、立派な衣服といい、もしかしなくても王族とかなのかもしれない。



 俺がそんなことを考えている間にも、アリシアは大きな木の正門から外に出る。

 先を歩くアーサーは正面の石畳を斜めに横切る。

 木が生える土の地面の上に辿り着き、アーサーとアリシアは歩みを止めた。


 アリシアから離れて立ち、アーサーは腰の長剣を抜いた。

 俺達に向かって真っすぐに剣を構え、アーサーはチラリと俺を見た。


 これは、と俺は期待に胸を高鳴らせる。

 


「よっ」


 軽い声を上げ、シャンッとアーサーは片手で剣を薙いだ。


「ほっ。とっ」


 踊るように、舞うように。

 アーサーは軽やかな声に似つかわしい身軽さで剣を振るい、身を翻す。


 それは実戦的というにはあまりに軽く見える。

 しかし流麗でどこか美しいそれが、そんな見せかけだけのものではないことはアーサーの体に流れる魔力の動きを見ていれば、一目瞭然だった。


「はあっ!」


 軽やかに跳躍し、地の敵へ斬撃を見舞うように振り下ろして、アーサーはピタリと動きを止めた。

 そうして一息つき、アーサーが俺の方をちらりと見やった。


「きゃっきょー」


 俺は精一杯に口っ足らずの喝采を上げた。

 太鼓持ちのような振る舞いに嘆きたくなるが、これも身体操作訓練の一環だと思おう。


 そして、そんな俺を見て、だらしなく頬を緩ませ切るアーサー。凛とした顔をしてれば、イケメンなものを。


「つぎゅ! つぎゅっ!」


 呆れながらも、俺はアーサーに続きを催促するように声を上げる。


「よーし、クリス! 見てろよー!」


 気をよくしたアーサーはあっさりと俺の求めに応じ、剣と共に舞い始める。

 

 その動きを、何より魔力の流れを、俺は注視した。


 ――美しい。素直にそう感じた。


 この地の、この体の魔素は、前世のそれと比べてあまりに弱く儚い。

 だがだからこそ、これだけの技術が発達したのだろう。

 俺は美しい魔力の流れに感動するとともに、興奮していた。


 滑るように流れるアーサーの体。

 その中では、同じようにして魔力も淀みなく流れていた。


 跳躍する時は足に、剣を振るう時は腕に。

 特筆すべきは、それは体内だけに留まらず、斬撃の瞬間、武器であるところの剣にまで、その魔力の流れが伝播していることだろう。


 心身だけでなく、己の武器にまで魔力を最適に行き渡らす技術。

 これほどの精度のそれは、魔界では見たことがない。


 恐らく、これは魔素が少ないこの地、この種族だからこそ発達した技術なのだろう。


 魔界の地、魔界の生物はこのように精緻な魔力操作などしない。いや、正確には必要ないと言うべきだろう。

 何せ魔力の源たる魔素が有り余ってるのだ。だから大雑把に魔力を操って、大雑把にぶつける。そんなやり方だ。


 だからまあ、当然といえば当然だが、結局はより強い魔力を操る方が勝つという力比べになる。

 その有り様を多少なりとも揺るがしたのが、弱小ゴート族代表、魔力操作で魔界一となった俺だったのだが……。


 アーサーの使う技術。これはそんな俺から見てもレベルが違う。


 これは魔素の少ないこの地、この種族が戦うために生み出され磨き抜かれた、魔界には無かった技術体系だ。

 これほどの正確さ、速さ。そして、何より極端さで魔力操作をしていた種族というものは、少なくとも俺は見たことがなかった。


 アーサーは回避の瞬間は足に、攻撃の瞬間は剣にほぼ全ての魔力を集中させていた。


 こんなこと、尋常な魔族はまずしない。

 前提として、魔素が溢れているからする必要が薄いというのが一点。

 次に必要がないからこそ、魔力をこれほど流麗に操る技術を磨いていないという点。

 そして最後に、恐ろしすぎてやれない、思いつきもしないという問題。


 魔力を一点に集中するということは、当然その一点以外の部位の魔力は無いに等しい。であれば、そこを攻撃されればどうなるか、考えるだけでも恐ろしい。


 アーサーの技術、戦い方は()るか()られるか。


 その覚悟を前提にしたものに他ならない。


 死ぬことを是としない俺は、これを潔いとは思わない。

 それでも、魔素が少なくとも戦い抜こうとするその覚悟。

 それは一体、誰のため、何のためなのか。


 決まっている。命を懸けている以上、それは自分より大切な何かのためであることは間違いない。



 だから、死を受け入れた技術への疑問と同時に、そこには些かの敬意を感じなくもなかった。




  ◇◇◇




 アーサーの精緻な魔力操作。



 魔素が溢れる魔界では発達しなかった、地上ならではのあの技術は、必ず魔界でも役に立つ武器たりうる。


 だから、まずはそれを手に入れよう。


 満足に動かない手足。その四肢に、俺は順繰りに魔力を集中させて流す。


 できる。


 魔素の少なさに苦慮することを除けば、その操作は容易にできた。


 しかし、甘い。


 俺のそれは魔界の常識に則った割合。

 アーサーのように百の力を一ヵ所に集中する。

 その事の良し悪しは別として、それができていない。


 常識を捨てろ。


 善悪は置き、できるとできないでは差がある。

 できれば、するしないの選択が可能となる。

 しかしできなければ、そこに自身の選択の余地が入ることはない。



 全魔素を一ヵ所に集中。

 まず、それを意識しやすい腹部へ。

 そこから右腕、右拳、戻して胸部を経由し左腕、左拳。

 戻し、肩から側腹部、左足から左足刀、つま先、戻し股間を通じ右足、右足刀、つま先。



 ――できた。


 百パーセントとまではいかないかもしれないが、悪くない感触だ。



 あとは、この精度と速度を上げ、果てはアーサーのように体術と組み合わせながら操れるようへと。



 前進の感触に柔い拳を握りしめていれば、あんぐりと口を開いて俺を覗き込むアーサーと目が合った。


 ……ヤバい。


 慌ててキャッキャとアーサーに無邪気に手を伸ばす。

 アーサーは釈然としない顔ながらも、いつも通りに俺の手を優しくつまみ、みーぎ、ひだり、みーぎ、ひだり。


 はい、よくできまちたー。ニッコリ。



 ……何とか誤魔化せたかな?



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