3 神
『ホント、君達って勝手だよね』
女のようで、男のようで。
魔族のようで、人族のようで。
植物のようで、動物のよう。
何者でもあって、何者でもない。
自分でも何を言っているかわからないが、すべてを内包し、すべてを表しているようなそれは、そう口も開かず、愚痴をこぼした。
「なんだ、お前」
ガンガン痛む頭を押さえて、俺は呻くように問う。
『ほら、そうやって知りもしない。それなのに、そんな相手を呪うって正直どうかしてると思わない?』
俺の問いには答えないくせに、それは俺に同意を求めてきた。
質問に答えもせず一方的に同意を求めてくる奴になんて共感できるか!
とは思うものの、確かにそれの言ってることはわからなくもなかった。知りもしない相手を呪う。それは確かに理不尽な話だし、呪われる側としちゃ堪ったもんじゃないだろう。
『ほら、そうだろ? やっぱり君は少し見込みがある』
口に出さなかった俺の理解にか、それは少し愉快気に笑っているようだった。
「ホント、なんなんだよ、お前」
薄気味悪さに呻くように、俺は再度尋ねていた。
『なんでもあって、なんでもない。何者でもあって、何者でもない』
答えともわからない、意味不明なことをそれは表す。
『まあ、君達は私のことを神と言ってるね』
埒が明かないことに業を煮やした俺の憤りを察してか、唐突にそれはそんな風に答えた。
「……ハッ、なに馬鹿言って」
『無暗に相手のことを疑うもんじゃないよ』
そんなことを表しながら、それが指らしきもので示した先、見覚えのある風景が現れる。
赤い大気。緑は乏しく、岩石の地肌が露出した地面。
そこに、見覚えのある顔。
「ラーダス! それに……ハウゼル!?」
かつての自分の腹心の一人と、友好関係にあった一柱の魔王。
俺がこの上ない興味を抱いた瞬間、それはブツンと映像を打ち切る。
『少しは信じる気になった?』
純粋な確認。
しかし、それにただはい、と頷くことなんてできない。
「今のはどういうことだ。続きを見せろ」
『自分以外の者のために本気になる。君のその愚直さは嫌いじゃないけど、賢くもないよ』
それが指のようなものを下に示し、
「ガッ!」
俺は地に叩き伏された。
『さて、静かになってもらったところで私の話を聞いてもらおうか』
それは俺に口も開けぬ圧力を与えたまま、勝手に思念を表す。
「ふざ、ける……な」
さっきのは間違いなく俺にとって重要な情報。俺は自身を押さえつける力に抗い立とうとするも、それは、ほう、とだけ呟いて膝を上げた俺をあっさりと再度地に縫い付けた。
『私はね、君達が思ってるほど君達に興味はない。けど、だからといって謂れもないことで恨まれるのをどうとも思わないほど寛容でもない』
意味はわからなくない気もするが、それが何を指しているのかわからない。俺の無理解を察してか、それは言葉であって言葉でない何かを付け足す。
『だからね、私は君達に特別何かをしているわけじゃない。放任してる。だから、世界がこうなっているのは、世界を今の形にしているのは私じゃなくて君達なんだよ。なのに、そのことを私のせいにされ、呪われている。それを心地良く感じるほど奇特な性質をしてないんだよ、私は』
すぐには、それが何を言いたいのかわからなかった。けれど、段々と毒が染み込むようにして、それが表していることが理解できてきた。
『うん、君は直情的なバカだけど、やはり頭は回る。そういうことだよ。私が言いたいのは』
魔界不変のルール、弱肉強食。
それがそうであるのは、神の責ではなく、争う魔族同士。
その、ただの自己責任なのだと。
『私はね、面倒なことは好きじゃあない。どうでもいいことには手を出さない。さっきも言ったとおり、放っておいてる。だから今の世界は君達の自業自得。そのことを私のせいにしないでもらいたいもんだね』
嘘だ、なんて思えなかった。
確かに、なんで俺達は神のせいにしていたのか。
自分達が争っていることの原因を、なぜ自分達以外のものの責任にできるというのだろうか。
――それはただ、自分達が解決できない問題を自分達でない何か大きな力のせいにして、責任転嫁していただけではないのか。
そんな風に思い至って絶望する俺の前で、それはやはり可笑しそうに笑っているようだった。
『まあ、そうやって私のせいにされるのは面白くないけど、然程君達に興味もない。だから放っておいてもよかったし、事実放っておいたんだけど、ちょっと面白いものを見つけた』
そう表して、それは俺を指差す。
『弱肉強食の魔界にあるくせに、弱者を守ろうとする。弱者であるゴート族のくせに、自身を律し、異常としか言えぬ鍛錬の果て、魔王にまで成り上がる。その力と知恵でもって一大勢力を築いたくせに、腹心を奪われた一時の怒りで全てを台無しにする。そのくせ理不尽な死に至ってまで、その先を願おうとする傑物なのかバカなのかわからない変わり種』
言われたい放題に嚙みつこうとするも、それが指らしきものを上下し、やはり地に叩きつけられる。
『おまけに相打ちとはいえ、私の力の欠片を与えた使い魔を撃退した』
やっぱり、お前が元凶じゃないかと睨みつけるも、
『だからまあ、ちょっとは君達にも期待してみようかと思ってね。君の最後の願いの手助けをした』
予想外の転換に意気を削がれた。
『感謝して欲しいものだね。あんなめちゃくちゃな術法、私の手助けがなきゃ君は転生なんてできていない。今頃あっさり輪廻の輪に還ってるところだ』
嘘だ、とは思えなかった。
実在するかも定かでなく、魔界には記録も術理さえ語られることもない、風の噂にだけ残っていた術法。それが成功するなど奇跡でしかなく、むしろ別の力が働いたと考えるほうが余程しっくりくる。
だが、それが事実だとして、なぜこんな奴が俺の手助けを。
『さっきも伝えたとおりだよ。君には期待している。だから、君の魂と記憶は残した』
そう表して、やはりそれはどうも笑っているようだった。
期待? これは俺に一体、何をさせるつもりだ?
『指示するのは趣味じゃない。伝えただろう? 私は基本、放任主義。君達の自主性を重んじてるんだ。ただまあ何度も伝えているとおり、君には期待してる。だから、私が考えてることのヒントくらいは出そう。あと、君の転生におまけのプレゼント位はつけといたから期待しておいてくれ』
そんなことを伝えながらも、おっと、とそいつはわざとらしく驚いたような素振りをする。
『君の両親に心配をかけてるようだね。余計なお世話だとは思うけど、君、もう少し赤ん坊らしく振舞った方がいいと思うよ。少なくとも彼らの前でくらいは』
本当に余計なお世話だ。
『でも、彼らに余計な心配をかけるのは、君も本意じゃないだろ?』
何とも言えなくて、俺は思考停止を選ぶ。
そんな俺の前で、やはりそれは嬉しそうに笑ったように思えた。
『ということで、そろそろ彼らに君を返すとするよ』
おい、それはいいけど一体何が言いたかったんだ、お前は。
『そうだね。それを残す前に一つ。これを伝えとかないと君は私の思惑通り動いてくれなさそうだから伝えておこう。君が心配してやまないゴート族だけど、当面の間はまあ大丈夫そうだよ。君と仲良くやってたハウゼルが上手くやってくれそうだ』
本当か!?
『本当さ。私は基本、嘘は言わないよ。それに、魔族の寿命は人族のそれより遥かに長い。今の君が焦ってる時間なんて、魔族からしたら数分の一程度の時間の流れさ。君が思ってるほど慌てる必要はないよ』
そうなのか?
『そうなんだよ。ということで、最後に私が残すヒント』
指らしきものを立てて、そいつはもったいぶって伝えた。
『私はね、目の前のものを大切にしない奴は好きじゃない』
なんだそりゃ!?
俺の叫びにお決まりの小馬鹿にした思念は答えず、目覚め、開いた瞳の前には、心配そうに俺を覗き込んでくるアーサーとアリシアがいるだけだった。
【応援よろしくお願いします!】
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちで大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。
なお、しばらくは基本1日1本投稿予定です。そのうち明るくなります。よければ引き続きご覧いただけると嬉しいです。