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転生魔王は、真の世界平和を渇望する ~人族の王子に転生した元魔王は、地上の平和も目指す~  作者: ノーパクリ・ノーオマージュ
第3章 幼年期(5歳) 半魔動乱編
34/42

33 戦後情勢


 神聖歴800年。


 この年の間引き戦争は、ヴァーンハイム王国史上、類を見ないものとなった。


 5年ごとの間引き戦争は、ヴァーンハイム王国がユースタフ大森林に出兵し、半魔を文字通り間引く戦争である。それはヴァーンハイム王国側の被害も当然あるにはあるが、基本的には一方的にヴァーンハイム王国が略奪者、半魔が被害者という構図だ。


 しかし、今回の間引き戦争は違った。


 そもそも戦端を開いたのは半魔側であり、主戦場となったのもヴァーンハイム王国とユースタフ大森林の国境沿いであり、何よりもヴァーンハイム城も戦火に見舞われた。


 ヴァーンハイム王国側の被害は死者524名、負傷者3,986名。


 対する半魔側の被害もほぼ同程度と推測されている。


 それは一見、痛み分けのようにも見える。しかし、ヴァーンハイム王国は人族の誇る長城・グレートウォールという要害を用いて同程度の被害というのは今後を考えれば由々しき問題である。


 そして何より主目的を達成したという点で、世界的な評価は半魔側の勝利という位置付けになるだろう。


 ヴァーンハイム王の崩御。


 それが此度の戦争で一番世界に衝撃を与えた事実であり、残った紛れもない結果だ。


 これらの事実を鑑みても、今回の戦争は従来の間引き戦争と明確に異なる。


 それは半魔によるヴァーンハイム王国襲撃が正しい認識であり、巷間(こうかん)では半魔・ヴァーンハイム王暗殺事件として世に広まっていた。



   ◇◇◇



 半魔ヴァーンハイム王暗殺の余波は王国全土に及んでいた。


 王国中が、名君であったハインリッヒ=グラン=ヴァーンハイム第四十二代国王の崩御を悲しみ、喪に服した。


 加えて戦争で犠牲となった多くの国民の家族が、悲嘆にくれた。


 それだけの犠牲がありながら、今回の戦争は防衛戦であったため得るものは何一つなく、敗戦という事実だけが国中に重くのしかかっている。


「おはようございます。父様、母様」


「……」


 窓の外を眺めるアーサーからの返事はない。


「あなた」


 アリシアが、そっと優しくアーサーの肩を叩く。


「あ、ああ」


 アーサーはアリシアの目配せに気付き、俺を見る。


「おはよう、クリス」


「おはよう、クリスちゃん」


 どこか疲れと感情を隠す両親に、俺は笑顔を作り挨拶を繰り返す。


「おはようございます。父様、母様」


 俺達の生活にも大きな変化が起きていた。


 まずわかりやすい変化として住居だ。


 あの戦闘で王城は大きく損傷した。

 対外的な見栄にも、実務的にも、国王の崩御という傷跡を消すためにも。修復は大急ぎで進めているが、流石にすぐにはできない。


 そして、アーサーは仕事に忙殺されている。


 国のトップが崩御した。


 その後は長子であるエーリヒが継承したが、その分エーリヒが元々担っていた国王軍第一軍団長の座が空いた。エーリヒが兼務したいところだが、エーリヒは通常の国王の業務だけでなく国王崩御に伴う国内外の対応、王城襲撃で被害を受けた国王親衛隊のトップに就任、その再編等に追われとてもそれどころではない。


 幸い勝手知ったる副軍団長のゴルバフが臨時軍団長を兼任し第一軍をまとめているが、第一軍も今回の戦争で被害を受けており、士気回復のためにも新たな軍団長の就任は急務だ。 


 それらをサポートするために、前王の次男であるクラウスが動きたいところであるが、クラウスはグレートウォールの守護を担当する第二軍の軍団長。第二軍は今回の戦争で一番の被害を受けており、軍団の再建とグレートウォールの修復に奔走(ほんそう)している。


 となれば、王都にいて比較的手の空いているアーサーがサポートに動くしかない。どちらかと言えば現場志向のアーサーは事後処理のような仕事は不得手らしいが、そんなことを言っていられる状況ではなかった。


「父様」


「どうした、クリス?」


 応じるアーサーの声は戦争の前に比べて覇気がない。


「僕にも手伝わせてください」


 間抜けに口を開いて、アーサーは俺を見つめて手を止めた。


 十秒も固まったかと思えば、アーサーはやがてゆっくりと笑いだす。


「そんなに疲れて見えたか。俺は」


「はい。今もそう見えます」


 笑う姿すら、前の快活さが無いように見えた。


 しかし、アーサーは口の端を下げたまま首を振る。


「情けない父親だな、俺は」


「そんなことはありません」


 アーサーはよくやってる。贔屓目(ひいきめ)なしにそう思う。


 敬愛する父親を失った失意の中にありながらも、危機に瀕する国を守るため、慣れない仕事にも立ち向かい続けているのだ。


「ありがとよ。そう言ってくれて」


 アーサーはただ微笑んで俺を見返す。


「それでは」


 そして、その微笑みのままに再び首を横に振った。


「……僕が、子どもだからですか?」


 なぜと思いながら、そんな言葉が口を出た。


「違う。子どもだとしても、お前ならきっと十分以上に力になる。それにお前にこの国のことを見てもらういい機会になるかもしれないとも思う」


「だったらどうして」


 余計に意味がわからない。俺は食い下がるが、そっと両の肩に細い手が置かれた。


 見上げれば、アリシアがどこか諦めたように、それでいて優しく微笑んでいた。


「間違ってるかもしれないけどな。ただの親父の意地だ」


 そう言って笑うアーサーはやつれながらも、戦争前よりもどこか強く見えた。



   ◇◇◇



 アーサー達は忙しくしているというのに、俺は逆にできることが減っていた。


 必要なことを聞けば教えてくれていたエルミアはエルフの里に帰り、剣術の訓練をしてくれていたゴルバフはグレートウォールで第一軍の再編に追われ、アーサーは先述の通り。王城どころか国内も乱れ、エルス、クルトと受けていた先生による講義も受けられていない。


 手伝いを申し出たのは疲弊するアーサーを見かねてのことだったが、もしかしたら自分のためでもあったのかもしれない。ただじっと見ているのは、何よりも辛いから。


 でも、それは断られてしまった。そのアーサーの判断が正しかったかはわからないけれど、その姿は好ましく映った。


 だから、今の俺の生活にやること、やれることは少ない。


 そうすれば、様々なことを考えてしまう。

 それは、今はしたくないこと。でもそれは、俺の感情の問題だ。


 知っている。考えたくない時に、考えなくてはならない時があることを。

 そして前世の経験から来る勘も言っている。今はまさにその時だと。


 右の手を眺める。あの時、魔界の魔力を纏って半魔を攻撃したそれは、黒く焼けただれていた。


 赤い魔界の魔力。


 久しぶりに、本当に久しぶりに見たそれを先に出していたのは、俺じゃなかった。


 あの時、飛び込んだ玉座の間。

 倒れ伏したハインリッヒの前に立った彼女。


 フラディアン=ウルブズ。

 赤い魔界の魔力を纏った、美しい半魔の少女。


 あの時、彼女のワインレッドの瞳と俺の瞳は、同じ感情を宿していた。

 遠く、長い時間の果て、ようやく同胞と会えたというような郷愁的な喜び。


 だから、根拠はなくとも確信していた。

 彼女はきっと、俺と同じ魔族の生まれ変わりだ。


 もう一度、会いたい。そして話したい。

 衝動のままの感情だけでなく、ゴート族を救いたいという俺の悲願のためにも。


 そのために、俺はどうすればいいのか。


「あっ」


 思わずと言った声が上がる。

 振り向けば、シーツを持ったクリアナが慌てて部屋を出ようとしていた。


「クリアナ」


 一瞬だけ考えて、俺はそんな彼女を呼び止めた。


「……はい」


 クリアナは少し口ごもりながらも、踵を返してくれる。


 この前の戦争以来、明確にではないものの明らかにクリアナは俺達を避けていた。

 理由は聞くまでもなくわかる。彼女が半魔だからだろう。


「今、忙しいですか?」


「……いえ」


 クリアナは迷いながらも首を横に振る。今の俺達の住まいは、神聖国や帝国の国賓が宿泊する迎賓館。元々ここの掃除や手入れをしているメイドがいるため、クリアナの仕事は以前ほど多くはない。正直な彼女は、気まずさがあろうと嘘をつけなかったのだろう。


「良かったです。それでは約束していた半魔の言葉の授業をお願いしてもいいでしょうか?」


 俺の願いに、クリアナは目を見開く。


「クリス様は……」


 ようやく口を開くも、続く言葉のないクリアナを俺はただ見返す。


「こんなことがあったのに、私が……半魔が怖くないのですか?」


 そう。今、ヴァーンハイム王国内での半魔の立場は非常に悪い。

 当然だ。これだけの犠牲を強い、国王を殺した相手なのだから。


「どうして?」


 それでも、俺はただクリアナを見つめる。


「だってこの国の人々を、王様を……クリス様のお爺様を殺したのに」


 わかっていた。クリアナがそう思っていたのは。それで俺達を避けていたのは。だから、クリアナが落ち着くのを待っていた。

 でも、そろそろきちんと話してもいいはずだ。


「皆を殺したのはクリアナじゃないですよ」


「でも私はその人達と同じ半魔で」


「そんなことを言ったら、人族も人族を殺すことがあって、僕もその人族です」


 驚いたように口元を抑えるクリアナに俺は続ける。


「その人が何族かなんて関係ない。その人はその人で、クリアナはクリアナです」


 ポロリと、クリアナの瞳から涙が溢れた。


「す、すいません」


 クリアナは慌てて目元を拭う。


「なにも」


 謝る必要なんてないと言いながら、抱きしめたクリアナの背を叩くが、身長的にクリアナのお腹に頭を押し付けるような形になってしまって格好がつかない。


「僕も半魔を殺しました。クリアナは僕が怖いですか?」


 恥ずかしさを誤魔化すように、俺は問う。


「……怖いです」


「……え?」


 想定外の答えに、俺は固まる。


「クリス様はまだこんなに小さい子どもなのに、とても大人びていて。きっと、将来とんでもない女たらしになります」


 でも続けられた台詞と頭を撫でる手に、それがクリアナの冗談だとわかって安堵の息を吐く。


「酷いな。そんなつもりじゃないのに」


「そうですよね。ありがとうございました、クリス様」


 しゃがみこんだクリアナは、そう言って俺の頭を抱え込んで、楽しそうに、安心したように。

 久しぶりに、心から笑ってくれていた。 

 

 本日、もう一話投稿予定です。


 戦争は終わりましたが、戦後処理は終わっていません。

 ここからクリス達家族にとって、もう一つ大きな事件が起こります。

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