31 ヴァーンハイム王・ハインリッヒ=グラン=ヴァーンハイム 【戦姫・フラディアン=ウルブズ】
【戦姫・フラディアン=ウルブズ視点】
「「ウルズクロー!」」
ヒウセンと私は、同時に魔力を込めた斬撃を繰り出す。
ヴァーンハイム王はスッと目を細め迫りくる魔力と私達を見据えたかと思うと、次の瞬間ゆらりとその体が揺れた。
「えっ!?」
目前にいたのに見失った。
「ガハッ!」
驚愕すれば、横で呻き声。
「ヴァシュラッ!」
「ッ意識を逸らすな!」
ヴァシュラの叫び返しと至近の衝撃音は同時だった。
連続する硬質な衝突音。目を見張る剣戟の乱舞。
かろうじて目で追うことまではできても、そこに幼少のこの身が割り込む余地はない。
一際激しい剣戟音の後、怨敵は距離を取って離れる。
『私と斬り結ぶか』
息一つ乱すこともなく、ヴァーンハイム王は意識共有してくる。
『流石はヴァーンハイム王と言ったところか』
ヒウセンも返すが、こちらは所々浅くも切り傷を負っている。勝負の優劣は明らかだ。
魔素が矮小なはずの人族をして、半魔の精鋭たる私達に遜色ない魔力量。何より竜鱗族一の戦士たるヴァシュラを一方的に斬り捨て、餓狼族の戦士長たるヒウセンと互角以上に切り結ぶ剣技。
「嘘だ」
ハグリアが悲観的な声を漏らす。咎めたいところだが、そんな余裕もない。
強い。
こちらが四人であることなど、この男の前に意味を持つのか。
「どうする、ヒウセン」
半分垂れ下がる腕に治癒の術式を施しながらヴァシュラが問う。
「……俺がやる」
「四人同時でこれです。一人でどうにかなるわけがありません」
私は指摘する。
「する。餓狼族の戦士長たる矜持に賭け」
「そんな自負で倒せるほど安い相手じゃありません」
ヒウセンは目を細めて私を見つめる。
「お前は強いが、餓狼族の戦士たる誇りをその身に教えることは敵わなかった」
優しくそっと、ヒウセンは私の頭に手を載せた。
「この命に代えても、ヴァーンハイム王は俺が討つ。敵わなくとも、隙の一つ位は作ってみせる」
クシャリと一回、ヒウセンは私の髪を撫でた。
「その時は俺ごとで構わん。奴を討て」
「……わかった」
ヒウセンに言葉を向けられたヴァシュラは重々しく頷いた。
ヒウセンは最後に優しく、私を一瞥する。
「母さんと達者にな、フラン」
「……あ」
喉が詰まって声が出ない。しかし、その間にもヒウセンは背を向けてしまう。
『別れは済んだか』
『まさか待っていてくれるとはな』
『私はお前達から大切なものを奪い続けてきた。その上、別れの時を奪う程、無粋ではないつもりだ』
『……全く腹立たしい男だ、お前は。我らが仇敵ならば仇敵らしく、最期まで憎まれて死んでゆけ』
吐き捨てるように、笑うようにヒウセンは顔を歪めていた。
『……そうか。そうあるべきだな』
ほんの瞬きの時だけ、ヴァーンハイム王は瞳を閉じて、開いた。
『別れの時だ、半魔の戦士よ。お前達の仇敵として、一人残さず大森林の御元とやらに送ってやろう』
『させんさ。この身に代えても、お前を殺し止めてみせる』
そこからの激突は、瞬きの間のことだった。
餓狼族一の俊敏さでヒウセンは間合いを詰める。
しかし、そんなヒウセンすら霞んで見える流麗な足捌きで、ヴァーンハイム王は間合いを殺した。
「ヌゥッ!」
辛うじてヒウセンは爪で突きを連発する。込められた魔力が延長線上の壁や床に穴を穿つ。
しかし、肝心のヴァーンハイム王には傷一つない。
流れる歩法。縦横無尽にゆらゆらと身を躱して、簡単に己の間合いまで侵入する。
ボボボッ、と剣を振る音すら繋がって聞こえる三連。
「伏せろっ!」
ヴァシュラがハグリアの頭を地に押し付ける。
頭上を通り過ぎる剣戟の作ったかまいたちが、壁を切り捨てる。今にも崩壊しそうに城が鳴動する。
「いかんな。加減せねば城がもたんか」
皮一枚、必死に今の攻撃を皮一枚で避けたヒウセンの前で、ヴァーンハイム王は淡々と何事かを呟いている。
「ヴァシュラ! 加勢しないと」
ハグリアが叫ぶ。
「ダメだ。奴の戦士の誇りが傷付く」
「そんなことを言っている場合では」
「……それに、俺達が加わればかえって足手まといとなる」
私の反論にも、ヴァシュラは悔しそうに掌を握りしめた。
そんな会話の間にも、ヒウセンとヴァーンハイム王は数え切れぬほどの手を交わしている。
トンと軽やかな音を響かせて、不意にヴァーンハイム王は距離を開ける。
なんだと私達が怪しむ間にも、ヴァーンハイム王の周りに幾十の火球が浮かぶ。
「剣だけでは手間取りそうだ。悪いが使わせてもらうぞ」
フレア、とヴァーンハイム王が呟くと、幾十の火球はヒウセンに殺到する。
「ヌオオオオオオオオオオオオオッ!}
魔力を載せた咆哮が火球の幾つかを相殺する。餓狼の爪で火球を切り裂く。
それでも撃滅しきれない火球の群れ。それがヒウセンを取り囲み追う。
ヒウセンが相殺し、避け、逃げるも、火球の追跡は終わらない。
「嬲り殺しだ!」
ハグリアが悲鳴を上げ、魔力をヴァーンハイム王に向けようとする。
「よせっ!」
「だって!」
ヴァシュラが制止し、ハグリアは叫ぶ。
ヴァシュラの制止は恐らく正しい。ハグリアが仕掛ければ、ヴァーンハイム王もこちらに矛を向ける。
それを庇えば、ヒウセンはさらに窮地に陥る。
かといって、このままでは。
何かできることはないかと思うのと、体の血が湧き立つのは同時だった。
「満月」
ヴァーンハイム王が切った壁の切れ目。そこから細く差し込む月明りが、私の血の流れを熱く起こしていた。
「なに?」
「ヴァシュラ、壁です」
疑問を口にしたヴァシュラに告げるが早いか、私は壁へ飛んだ。
餓狼の爪を四閃し、切り裂いた壁を蹴り飛ばす。四角く切り抜かれた壁から、満月の光が差し込んだ。
「ウオォーンッ!」
ヒウセンが咆哮する。差し込んだ月光による餓狼の血の滾りに、身を任せるようにして四足で駆ける。
速い。そして何よりも、躊躇いがない。
「なに」
目を見開くヴァーンハイム王に、火球をその身に受けるに任せヒウセンは肉薄する。
「もらったあ!」
四足連斬。
四肢による瞬間四連の斬撃。それを同時に躱すことは、いかなあのヴァーンハイム王とて。
ギギギギンッ、と四つの斬撃音が重なった。
私達は目を見開く。
熟達の餓狼の戦士のみが使える四足一瞬の斬撃。
それを、ヴァーンハイム王は僅か一本の剣で受けきっていた。
「終わりだ。勇敢なる餓狼の戦士よ」
「ヌオオオォォオオーーーー!」
動きを止めたヒウセンに剣を振り下ろそうとしたヴァーンハイム王に向けて、ヴァシュラが渾身の魔力の土塊を放つ。
「グゥッ!」
しかし、ヴァーンハイム王が一閃した剣閃に、土塊と辛うじて繋がっていたヴァシュラの右腕が今度こそその根元から切り捨てられた。
「ッヴァーンハイム!」
我に返ったヒウセンが再びの四足連斬を放つ。
「それはもう見た」
四連斬撃音。そして。
「ガハ……」
連なる五連目のヴァーンハイム王の剣が、ヒウセンの肩口から腹までを斬り捨てた。
「ヒウセーーーンッ!」
涙を流すハグリアがヴァーンハイム王の頭上を急襲する。
「一拍遅い」
「ヒギィッ!」
脇腹を切られ、ハグリアは地に激突するようにして墜落した。
ほんの数瞬で、半魔の精鋭三人が地に斬り捨てられていた。
全滅する。
このままでは確定的な未来を思い描き、私の心臓は早鐘を打つ。
ドクドク暴れる心の音に意識が持っていかれる。
その間にもヴァーンハイム王は剣を振り上げる。
「さらば」
その剣は、そのままヒウセンに振り下ろされ、彼は死ぬだろう。
【危険だ。その魔力はお前の命に関わる時にだけ使いなさい】
かつての族長の言葉が脳裏を過ったが、躊躇う余裕などもうなかった。
自身の内奥の一筋の穴。
その向こうに魔力を伸ばせば、懐かしい赤い魔力がこの身に流れ込んでくる。
「アアアアアアアアアァァアアアアアァァッ!」
体内から自分を蝕む魔力に身を焼かれる。それでも、その痛みに倍加するほどの力の奔流への高揚感。
「なに」
呆然と私を見るヴァーンハイム王に赤く暴れる魔力を放つ。
ヴァーンハイム王はそれを斬ろうとしたが、咄嗟に避けた。腹立たしいほどに正しい判断だ。
「それは……まさかクリストフの」
ヴァーンハイム王は何事かを呟くが、もはや知らない。
満月の月明りと赤い魔力が、どうしようもなくこの身を熱くしているのだから。
明日はメンテ日なので、次の投稿は日曜になるかもです。投稿できそうなら明日もするかもです。
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