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転生魔王は、真の世界平和を渇望する ~人族の王子に転生した元魔王は、地上の平和も目指す~  作者: ノーパクリ・ノーオマージュ
第3章 幼年期(5歳) 半魔動乱編
27/42

26 異変


「フンッ」


「クッ」


 ギイィンと甲高くも鈍い残響を残して、俺の剣はその質量を減じた。


 腕の痺れを無視して、俺は後方に距離を取る。


「あーストップだ、ストップ」


 不利を悟りながらもゴルバフを見返す俺だったが、横合いから割り込んできたアーサーの声と俺の手中で折れた剣に、ゴルバフは急速に戦意を萎ませた。


「武器の手入れも戦士の資質だぞ、小僧」


「……わかっています」


 グゥの音も出ないゴルバフの正論に、俺は悔しさ混じりに頷くしかない。


「ただの軍学校支給のロングソードだからなぁ。むしろよく今までこんなもんでゴルバフや俺と斬り合ってたもんだ」


 苦笑しながらアーサーは俺の手の剣を流し見た。


「これだけの戦士なのだ。それに相応しい剣をあつらえてやるべきではないか」


「そうだな。俺の息子だ。それに相応しい剣を準備しないとな」


 不興なゴルバフの言葉にも、アーサーは笑って請け負った。


「取り急ぎの剣は城の武器庫を見てみるか」


「武器庫っ!」


 切り替えたゴルバフの言葉に俺は声を上げる。


「なんだ、武器庫に興味があるのか? お前も男の子だな」


 アーサーのからかいに俺は思わず開いてしまった口を閉じた。地上の武器なんて詳しく知らないんだから仕方ないだろ。


 内心で反論しながら、笑い声を上げるゴルバフの後ろについて歩き出す。


 武器庫と新しい剣に胸を躍らせながらも、俺は手中の折れた愛剣に目をやった。


 安物かもしれないが、俺の最初の剣だ。手に馴染んでいたし、よくよく考えればよくゴルバフやアーサーの斬撃に耐えてくれたものだ。


 一抹の寂しさと名残惜しさを感じながらも、俺は手厚く供養してやろうと思う。


 愛着はあるが仕方ない。


 一度折れた剣は、二度と元に戻らないのだから。



   ※※※



「ゴルバフ様! ここにおられましたか!」


 武器庫で適当な剣を見繕っていると、一人の騎士が騒々しく飛び込んできた。


「アーサー様にクリストフ様も」


 そして王族の親父と俺を見て、慌てて頭を下げる。


「構わなくていい。そんなに慌ててどうした?」


 アーサーはどこか顔つきを厳しくして騎士に問う。


「はっ! 国境の第二軍より援軍要請! 半魔の大軍が侵攻してきたそうです!」


「なんだと!?」

「なに!?」


 ゴルバフとアーサーが同時に叫んだ。


 この二人がこれほどの驚きを表に出すのは珍しい。つまりは、それだけの事態ということか。


「状況は!?」


「第二軍が奮戦! グレートウォールにて半魔の襲撃を撃退!」


 まずは一安心の騎士の報告。


「なれど、半魔の攻勢激しく、侵入を許す可能性あり! 急ぎ援軍を請うとのことです!」


 しかし、援軍の要請が出ている以上、事がそう甘いはずもない。


「ハインリッヒ王は王都の第一軍の派兵を命ぜられました! 神聖国と帝国の下賜品を運送中のエーリヒ隊長も急ぎ帰国していますが間に合いません! ついては、エーリヒ軍団長に代わりゴルバフ副軍団長が急ぎ第一軍をまとめ、援軍に赴くようにとのことです!」


「わかった!」


 ゴルバフは立ち合いの時と同じ、いやそれ以上の厳しい表情で応じる。


「すまんな小僧。剣選びには付き合えぬようだ」


「いいえ。気にしないでください。それよりも」


 俺は胸の前に手を添える。


「ご武運を。ゴルバフ様」


「武運を祈る。ゴルバフ」


 ゴルバフは俺とアーサーを見て僅かに口元を緩め、


「ああ。行ってくる」


 短い別れを残して、敢然と俺達の前を後にした。



「さて、となると俺達も急いで剣を選ぶとしよう」


 作ったような笑顔でアーサーは俺に向き直る。


「父様は準備をしなくてよろしいのですか?」


「俺の第三軍は神聖国方面の警固だからな。命令も来ていないし、とりあえずは大丈夫だろう」


 俺の心配にアーサーは安心させるように笑みを作る。


「ただいつ命令が来るかはわからないからな。そうなった時に息子に剣の備えも無ければ、安心して出撃することもできない。まずはお前の剣選びが最優先だ」


「わかりました」


 いつものようにクシャリと俺の頭を撫でる手に、俺も笑みを作りながらも心がざわつくのは抑えられなかった。



   ※※※



 ふと、目が覚めた。


 焦燥と興奮、初めての地上での戦争に対する尽きない興味はあったものの、観戦もどうすることもできない幼少の身。


 取れるうちに休息するのが最善と眠りに意識を落としたのだが、それが覚まされた。


 はっきりとした理由はわからないが、自身の感覚が漠然とした何かを察していた。


 チリチリと肌を焼くような焦燥感。小さな針が脳裏を指すような感覚。


 久しく感じなかったこれは、危機感だ。


 前世の最後の晩。勇者に城に潜入された時にも似ている。


 靴に足を通し、剣を()く。


 呼吸と足音を殺して、廊下への扉へ歩み寄る。


 微かに。本当に微かに。けれどそれでいて確かに、気配があった。


 しかし、その気配はこの上なく知っているもの。


「父様」


 警戒を解くため、一声かけてから俺は扉を開いた。


「クリス」


 最初に安堵。次に僅かな怒りをアーサーは声と表情に滲ませた。


「何をやってる? もう夜中だぞ。部屋の中で寝てろ」


「父様こそ、こんな時間にそんな格好で何をしてるんですか」


 思わずといった様子で黙り込むアーサーは、軽鎧(ライトアーマー)に身を包んでいた。


「警備巡回だ」


 ある意味、間違ってはないだろうが内心的には嘘だとわかる。


「普段はそんなことしていないじゃないですか」


「国境で襲撃があったくらいだからな。普段しない用心位はする」


 アーサーは似合いもせず、スラスラと心にもないことを並べる。


「何にせよお前には関係ないことだ。部屋に戻れ」


 そして、心を殺した厳しい目つきで俺を睨んだ。


「父様も気付いたからそんな格好で出てきたんでしょう?」


 真っ直ぐに見返して問えば、アーサーは顔を歪める。


「ご存じの通り、僕は一応は戦えます。それにこの暗がりの中です。警戒の目は、一つより二つの方がいいですよ」


 強く想いを込めて言い切れば、アーサーは顔付きを厳しくしてなおも俺に何か言おうとするも、


「こんなムズムズする夜には、父様が帯同を許してくれなければ一人で出歩いてしまうかもしれません」


「お前は……本当に」


 俺の緊張を外した言い様に、唖然とし、そして小さく噴き出した。


「わかったよ。ただし条件がある」


 ようやく諦めたように頷いて、俺の目を覗き込んでくる。


「はい」


「絶対に俺の傍を離れるな」


「はい」


「そして何かあったら、俺を置いてでも逃げろ」


 いい瞳だった。覚悟を感じられる。


「……前はともかく、後の言葉には従いかねます」


 だから、そんなものは認められないから、俺は首を横に振った。


「それじゃあ連れていけないぞ」


 アーサーは苦笑して首を竦める。


「では、少し変えまして」


 そんなアーサーを俺は見上げる。


「父様も自分も生き残るために、全力を尽くすと約束します。これではダメですか?」


「……わかった。それで手を打とう」


 アーサーは、諦めたように両手を上げて笑った。



 そして俺達は歩き出す。


 アーサーが手にするランタンの明かりだけでは見渡せない暗闇の中、所々差し込む満月の明かりがありがたかった。


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