18 舞踏会Ⅰ・挨拶ラッシュ
いよいよ訪れた舞踏会当日。
王位継承権とは程遠いだろう第三王子アーサーの長男とは言え、そこは王族のお目見えパーティー。
王城のダンスフロアは溢れかえらんばかりの人込みだ。
顔も立場も知らないけれど、見るからに高級そうな衣類と聞くまでもなく高いだろう社会的立場。関わるのも億劫で壁際に身を隠したいところだが、主役は他ならない俺だ。
仕方ないと割り切り、せめてこれから役立ちそうな情報収集や人脈作りに勤しむことにして気分を切り替える。
「健やかに成長しているようで何よりだ」
決意の矢先、盛大に開会を宣言した王にして今世の俺の祖父が話しかけてくる。
「ありがとうございます」
俺は簡単な礼を述べて頭を下げる。お目見えしたばかりの子どもならこんなもんだろう。
「これでお前も立派な我が王家の一員となった。その血と名に恥じぬよう研鑽と献身に励むよう」
お決まりの戒めなのだろうが、俺の正体を知っている彼が話しているのは言葉通りだけではない忠告だろうことは微かに細められた目線から察せられた。
「わかりました」
俺は素直に受け入れ、彼の目を真っすぐ見返す。
すると彼は微笑で表情を崩した。
「この後の舞踏と明日の武闘も楽しみにしている」
予想外の期待を残して、彼は俺の前を後にした。
「驚いたな。王のあんな顔は久しぶりに見た」
入れ替わりで俺の前に来たのは、どこか今去った人物の面影を残す男。
それもそのはず。現れたのは彼の長男であるエーリヒ=グラン=ヴァーンハイム、つまりは王位継承権第一位である王の嫡子だ。
「それほど君に期待しているということかな」
「恐れ多いです」
褒めているようでどこか探るような彼の目線に、無難な対応を返す。
そんな俺の当たり前の対応をどう思ったのか。エーリヒはどこか楽しそうに俺を見ていた。
「随分しっかりしてるね」
「父の教育がいいもので」
「アーサーの教育が!? それは初耳だ」
なんかむっとしたもんで適当な受け答えをしていたら、エーリヒは場に相応しくない笑いを堪えながらも顔を歪めている。
しまった。確かにあの剣術バカの教育がいいというのは無理がある。
エーリヒの反応にそう悟った俺は言葉を返せないので、曖昧な表情で笑っておくことにした。墓穴を掘りそうな時は黙るに限る。
「いやー、笑わせてもらったよ。しかし、それにしても君はあいつの子どもっぽくないというか、そもそも子供らしくないな」
言葉の調子こそ取り繕ってるものの、口元の吊り上がりを抑えきれてないぞ次期王位継承者様。
「そうでしょうか? 僕はお父様の子であることを嬉しく思っているのですが」
内心で突っ込みながら、表は子どもらしく返しておく。
「そういうところだよ……っと。長くなってしまったね。まだまだお待ちのお客様も多いからこの辺で。君とはまたゆっくり話してみたいね」
「ありがとうございます」
最後まで楽しそうな王子様に、俺は全力の作り笑顔で礼を言う。
するとその次も来るわ来るわ王族の波。
うんざりしながらも適当に王様の次男夫妻と長女夫妻、次女の旦那様の応対を終えるとアーサーとアリシアがやってきた。
「おめでとう、クリスちゃん」
「ありがとうございます、母様」
目じりに涙を浮かべるアリシアに俺は困りながらも、それ以上にどこか嬉しかった。
「大きくなったな、お前も」
「お陰様で」
どこかからかうようなアーサーに、俺もどこかふざけて返してしまうが半分以上は本心だ。
俺が魔族の転生と知った後も、変わらず両親として接してくれる二人がいたからこそ今の俺がいる。そのことは感謝してもしきれないと思っている。
「どうだ、お前のお披露目パーティーは?」
しかし、こうしておちゃらけてからかってくるアーサーの態度は可愛い自分の五歳の子どもに対するものだろうか?
「挨拶挨拶でご飯も食べれてないのにお腹が一杯になりそうですよ」
キョトンとするアリシアと、長男同様に笑いを堪えようとしながらも堪え切れないダメ三男アーサー。
「俺と同じ感想だな。流石俺の息子」
「もうあなたったら」
ただただおかしそうなアーサーに、嬉しそうながらもどこか困り顔のアリシア。
「クリスちゃん。大変だと思うけど、大切なあなたのお披露目会だから頑張ってね」
気遣うように俺を見ながらも、アリシアはお願いするように奮起を促した。
「わかってます、母様」
そんなアリシアを安心させようと、俺は努めて真摯に頷く。
「心配してないが、お前の武闘、楽しみにしてるぞ」
舞踏、武闘どちらかなんて、アーサーには聞くまでもないか。
「僕も武闘の方は楽しみにしてますよ」
だから、俺も心から笑ってしまった。
「まあ」
その俺の笑顔に、アーサー、アリシアと入れ替えで来た三女が口元を抑えて驚いていた。いかんいかん。俺は慌てて顔を取り繕って、窮屈な叔父叔母対応に戻るのだった。
※※※
王様の子どもラッシュが終わったと思ったら、今度はさらに王子王女の子ども、つまり王様の孫で俺のいとこ達、同世代の王族ラッシュだ。
王子王女相手よりは気楽かと思いきや長男の長男、次男の長男はもう立派に王族の面構え。反面、長女の長女はやたら俺に纏わりついてきてやり辛い。
さらにその後は王弟の一族も似たか寄ったりの子沢山。
そんなどんだけ親類が多いんだよの王家を乗り切ったと思ったら、隣国の国賓。王族程の数ではないが乗り切れば今度は国内貴族のお歴々。流石にげんなりだ。
エルミアに愚痴の一つでも溢したいが、こんな時に限っていやしない。逃げたな。
「凄いな」
ようやく途切れたかと思えば最初の長男・エーリヒが俺の脇でポツリ。なんだ、もうこれ以上は勘弁だぞ。
「お披露目会で挨拶をやり遂げた王族を見たのは久しぶりかもしれない。それもここまで完璧にとなると僕の子以来かな?」
褒めてんのか自分の子を自慢してんのかどっちだそれは。
「ありがとうございます」
内心でくさしながらも、表向きは笑顔は忘れず。
「とても現場バカのお前の子とは思えない優秀さだ」
「間違いなく可愛い俺の子だぞ、エーリヒ兄」
いい加減疲れたんだがと溜め息の一つも吐きたくなったタイミングで、アーサーが会話に割り入ってくる。
「だったらそのお披露目会での言葉遣いには気を付けた方がいいんじゃないか?」
「人のことをバカ呼ばわりしてたエーリヒ兄の言うこととは思えないですね」
互いに牽制しているような言い合いだが、互いに人目を憚って口元を手で隠しながらも笑っていた。
「何はともあれ王族に優秀な子が育っているのは喜ばしいことだ。戦闘はともかく勉学はお前じゃなくてちゃんとした教師を付けろよ」
笑いを噛み殺したエーリヒはもっともな指摘をする。
「心配しなくてもエルミアが教えてるさ」
「……話には聞いていたが、本当にあのエルフの長老の目に留まってるとはね」
エーリヒは横目で俺を流し見、
「期待してるよ。この後の舞踏も、そして君の将来もね」
ひらひら手を振って去って行った。
ようやく緊張から解放され、俺は目立たない程度に溜め息を吐く。
これは何と言うか、あまり目立ちすぎるのも考えものだな。エーリヒの発言からすると、俺は現時点でも目につきすぎているように思う。まあ、自覚はなかったわけではないけれど、色々やり辛くなるのはよろしくない。
「なーに余計な事考えてるのか知らんが」
そんなことを考えてると、真面目に考えてるのが馬鹿らしいほど王族らしくない無遠慮さでアーサーは腰を落として俺の目を覗き込み、
「俺も自分の子の晴れ舞台、楽しみにしてるからな」
ニカッと普段と変わらない無邪気な笑みを見せて、俺の頭をガシガシ撫でた。
「やめてください。皆見てますよ」
「そんなの知ったこっちゃないね」
ヘッとせっかくの俺の忠告すらアーサーはあっさり笑い捨てる。
「クリスちゃんならきっと凄い舞踏を見せてくれるわね」
いつの間にやらアーサーの隣に並んだアリシアも、この場がどんな舞台かわかっていないような無邪気さでそんな期待を口にしてくる。本当にこの二人は。
両親の期待を受けた俺は半ばの諦めに笑って、
「そうですね。期待しててください」
やる気のなかった舞踏とやらを頑張るかと思い直した。
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