14 父親 アーサー=グラン=ヴァーンハイム
俺が魔族の転生であることを両親に告白して早三日。
その間にエルミアから聞いた情報は多く、新たに身につけた技術もある。正直幼いこの体、頭では処理しきれない。
それでもやる。やらなければならないことがあるから。そのために必要なものは幾らでもあるから。
そんな三日。まだ三日。
だというのに、なんでマイファーザーことアーサーさんが、ここにいらっしゃってるのでしょーか?
パニくる俺の気持ち露知らず、なんやかやいつも一緒にいてくれたエルミアさんがアーサーの肩に手を置いて部屋から出て行こうとする。
『待って! 行かないで! 今はあなたの減らず口すら愛おしい』
『悪いけど親子水入らずを邪魔するほど野暮にはなりたくないんだよね』
俺にあっさり拒否を返して、エルミアは思念共有をシャットアウト。颯爽と手を挙げて本当にいなくなってしまった。
となれば、当然部屋に残されるのはアーサーと俺のみ。
『……その』
覚悟は決まってない。それでも言うこと、俺が言うべきことなんて、
「あー」
そんな俺の思念共有を遮るように、アーサーはわざとらしく声を上げて、頭を掻いた。
それが何を意味するのか。わからない俺は近付いてくるアーサーをおどおど見上げることしかできない。
「ほれ」
そんな俺の様子に構わず、ぶっきらぼうに俺を抱えたアーサーは乳を吸わせた布を俺の口元に運んでくれた。
目をパチクリ見開きする俺の前、アーサーはそっぽを向いて口を開いた。
「なんだ? 腹減ってないのか?」
『あ、いや……』
俺は布の乳を吸う。
少しして、アーサーは布に再度乳を吸い込ませてくれて、俺の口元に運んでくる。
そんなことを何度も繰り返して、
『も、もういいです』
「お、おう。そうか」
どうしていいかわからず、腹の限界まで食事を続けた俺が先にギブアップの音を上げた。
そうしてやることがなくなってしまえば、どうしたものかという無言が漂ってしまう。
「あー、おしめ替えたほうがいいのか?」
それを誤魔化すように口を開くアーサー。
『あ、それは多分まだ大丈夫』
「そ、そうか」
入ってきた時同様、頭を掻くアーサー。そうしてやはり、無言の時が帰ってくる。
お互いにどうしたものかと距離を測りかねるような時間が流れて、
『……怒ってないのか?』
やはり先に音を上げたのは俺だった。
「あーいや。そりゃまあ……怒ってないって言えば嘘になるだろ」
困ったように、悩んだように、やはり頭を掻きながらもアーサーははっきりとそう口にした。
「アリシアと俺にとって初めての子どもだったんだ。待ち望んだ子どもだったんだ。それが実は俺達の子どもじゃなくて魔族の生まれ変わりでしたーなんて言われてもな」
当然の言い分、そして真っ直ぐなアーサーの落胆に心が痛む。
『……すまな』
「ただまあ、だから今更自分達の子どもじゃない、なんて言われてもはいそーですかとも思えないんだよなあ」
俺の絞り出す謝罪を遮って、アーサーはやはり頭を掻きながらそう言った。
「こーして見りゃ、目元なんかアリシアそっくりだし、口元は俺に似てると思うし、それにまあ、可愛いもんなあ、お前」
そう言って、俺を覗き込んだアーサーは溜息を一つ吐いた。
「だからまあ、今更捨てるなんて気にもなれんしな」
……なんてお人好しなんだ、こいつは。思いもしなかったアーサーの言葉に、俺は思わず泣いてしまう。
「あー、なんで泣くんだ。お前は泣かない赤ん坊だったからあやし方なんてわからないんだぞ、俺は。大体、お前、いい年なんじゃないのか?」
言いながら、アーサーは不器用に俺の体をゆらゆら揺らす。
『……死んだ時は、まだ六十八だ』
「六十八ぃ!? 爺じゃねえか!」
泣いたことを誤魔化すような会話、俺の答えに、アーサーが叫ぶ。
『失礼な! 六十八なんてまだ大人にも成りきってない年だぞ。お前より若いくらいだ』
「嘘だろ!? 俺はまだ二十二だぞ!?」
『二十二!? クソガキじゃねえか!?』
「ハアッ!? 俺は嫁さんもいるし、ガキだっている! もう立派な大人の男だぞ!」
『マジか……。人族は寿命が短いって聞きはしたけど、そんなにかよ?』
「こっちこそマジかだ……魔族ってそんな長生きなのかよ」
互いの種族の寿命の違いに言葉を失う。
「ああ、でも」
そこでアーサーは思い出したように真剣な目で俺を見る。
「もう乳飲み子って年齢じゃなかったんだよな?」
『? ああ、そりゃまあ、お前より若かった感じはするけど、凄い遠いって感じはしないな』
「じゃあ、お前には絶対、アリシアのおっぱいは吸わせんからな」
俺は、ポカンと口を開けたと思う。
『真剣だから何を言うかと思えば、言うことそれか?』
「当たり前だろうが! アリシアの胸をお前みたいな魔族爺に吸わせるか!」
『だから爺じゃないっての!』
内心爆笑する俺と声を張り上げるアーサー。
「あ、でも、お前がおっぱい吸わないこと、アリシア凄え気にしてたんだぞ?」
『そ、それこそ他人の嫁さんのおっぱいなんて恥ずかしくて吸えるか!』
今度は逆に俺が声を張り上げる。
父親と子どもってわけにはいかないのかもしれないけれど、こんな風に接してくれるアーサーが嬉しくて、本当にありがたくって、仕方なかった。
「あーじゃあ、ま、いい子にしてろよ?」
一頻り笑って、アーサーは俺を寝台に戻す。
『ああ』
子ども扱いには釈然としないものの、事実、飯すら自分で満足に食べれない赤ん坊なのだから仕方ない。
「じゃ、またな」
軽く言って、アーサーは背を向けようとする。
『ア、アーサー』
「ん?」
意を決した俺の呼びかけにアーサーは動きを止め、不思議そうに俺を見る。
『そ、その……』
その視線に気恥ずかしさを覚えるも、
『ありがとう』
俺は素直な気持ちを意思として伝えた。
そんな俺の思いに対して、アーサーはきょとんとした後、笑って俺の頭をワシャワシャ撫で、
「おう。どーいたしまして」
それが気恥ずかしくて、でもどこか嬉しくて、俺はされるがままにされていた。
その温かい気持ちの中、ふと視線を感じた。
思わずそちらを見れば、そこにいたのはアリシア。
『あ……』
思わず思念が漏れ、それを受けたアーサーも振り向き、同じくそれに気付いたであろうアリシアは、逃げ出すように駆けて行ってしまった。
久しぶりに見たアリシアの顔、その表情と、やはり頬に残る火傷痕。
何より、逃げ出された事実に、俺の温かい気持ちは瞬時に霧散してしまった。
「許してやってくれ。俺と違って、アリシアは母親だからな」
アーサーが口を開く。
「自分が腹を痛めて産んだ子が、自分の子どもじゃないと言われたんだ。簡単には割り切れないだろ」
もっともな話。俺の罪。
『……許すなんてとんでもない。どう考えたって、悪いのは俺だ』
そう答える俺の頭をやはり大きな手でワシャワシャ撫でて、
「なーに、いつかわかってくれるさ。あいつはいい女だからな」
俺を安心させるように力強く、アーサーは笑いかけてきた。
「なにせ俺の嫁さんだからな」
『そいつはお見それしました』
わざとお道化るアーサーに、俺は感謝しながらお道化返した。
「いやーホント美人だよな。うちの嫁さん。あ、絶対おっぱいは吸わせんからな」
……やっぱりただ嫁自慢がしたいだけかもしれない。
【応援よろしくお願いします!】
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちで大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。




