第七話 殺人犯
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学は他の刑事らの情報からすでに犯人が絞られつつある事を知った。
ただし、その中に鈴木由美さんの証言した女性はおらず、学は驚いた。
念の為に鈴木由美さんから得た常法を他の刑事らにも伝えたが、あまり調べるのに乗り気ではない様子が感じられ学は焦りを感じた。
急いで桜子の元へと行くと、桜子はいつものように庭にいた。
今日は、真っ赤な和傘の下で抹茶を立てており、白地に金の刺繍のあしらわれた着物を着ており、雅な雰囲気を身に纏っていた。
「新たな情報はありまして?」
「それが、全く。今警察は見当違いなところばかりを当っていて、鈴木由美さんの証言のような人物はあがっていませんでした」
それを聞くと、桜子は誰もいない所に抹茶を置く。
学は鈴木由美さんがいるであろう場所に向かって尋ねた。
「何か、ヒントになるような事は思い出せませんか? 何でもいいんです」
すると、桜子は頷き立ち上がった。
「良。車を」
「はい。お嬢様」
「え? 何か分かったんですか?」
「えぇ。とにかく行ってみましょう」
学は愕然とした。
車が違う高級車になっているではないか。
「え? 車……どうしたんですか?」
「今日はこの車の気分だったということよ」
「えぇ……すごいなぁ」
驚きながらまた靴を脱いで車に乗ろうとすると、桜子の冷たい瞳が学に刺さる。
学は、それを見ないふりをしながら車に乗り込み小さくなった。
車は走り出し、一体どこに行くのだろうかと見守っていると市街地を抜けて簡素な住宅街へと入っていく。
「あれ、ここって……」
学があたりを見て首をひねると、車は止まった。
車を出ると、そこは、鈴木由美の住んでいた小さなアパートが近くに見えた。
「鈴木由美さんが言うには、ごみ捨ての時に見た事があるそうよ」
「え! と言う事は、ご近所さんの犯行ですか」
「可能性はあるわね」
「えぇ!? なら自分が、調べるので安全な所に桜子お嬢様はいてくださいよ!」
「貴方の近くにいたいのよ」
「え?」
静かに、何とも言えない空気が漂い、学は顔を赤らめると頭を振って敬礼をした。
「で、デは! 一緒に捜査いたしましょう!」
声を裏返しながら学はそう言い、ロボットのように動く。
桜子はその様子に首を傾げながらも後ろに続いた。
数件聞き込みをし、次はアパートの向かいにある一軒家をとチャイムを鳴らした時、インターホン越しに聞こえる女の声に学は背筋がぞくりとした。
『どなたですか?』
「警察のものです。少しお話をお聞きしたいのですが、宜しいですか?」
『またですか? あの、先日もお話しましたけど』
「はい。改めて確認したいことがありまして」
そう言う間にも学には悪寒が走っていく。
『分かりました』
ガチャと扉が開くと、中からすらりおした髪をボブに切りそろえた女性が現れた。
鈴木由美の証言した女性ではないなと学が思った時、桜子の手が学の背中にそっと添えられた。
優しくさすられ学は驚くが、何故か先程から感じていた悪寒が消えていく。
「よければ、中にどうぞ」
「失礼します」
「あの、そちらの方は?」
女性は訝しげに首を傾げ、それに桜子は優雅に答える。
「わたくしは付添のようなもの。お気になさらないで」
その迫力に押されたのか、女性は何も言わず中へと案内してくれた。
リビングで向かい合い、机にお茶が出されるが桜子はそれに手を付けようとせず、優雅に微笑んでいる。
学が喋ろうと口を開こうとした時、桜子が鈴を鳴らすように可愛らしく笑い始めて目を丸くする。
「あの、何か?」
女性は動揺し学に視線を向けてくる。
桜子はにこやかに言った。
「髪、切られたのですね」
その言葉に一瞬女性の目が泳ぐ。
「え? えぇ……あの、どこかでお会いしました?」
「何言っているんですか。会ったじゃない。あの晩に」
「え? あの……私覚えていなくて」
動揺する女性に桜子は言った。
「クソオンナハ死ね」
その瞬間、女性の顔色が一気に青ざめる。
「汚い血がついた」
「車も買い換えるしかない」
「面倒くさい」
「でもスッキリした」
「埋める前にもう一度刺しておこう」
「あー、死んでくれた」
「やっとよく眠れる」
桜子は、にこりと笑った。
女の顔は、狂気に歪んでいた。
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