第五話 トシオの恐怖の夜
トシオ……
あーあ。
鈴木由美はいい女だった。
金はくれるし、甘えさせてくれるし、浮気してもバレないし、なんて都合のいい女。
まぁ、死んじまったらしょうがねーし?金づるがいなくなったのは痛いが、この前騙してもらった金もまだ残ってるから、しばらくそれで暮らすしかねーなぁ。
「きゃぁ!」
突然、浮気相手だったミカが悲鳴を上げてこちらに抱きついてくる。
「なんだよ?」
「お……女の人が! 怖い!」
「女?」
思わず、頭の中に鈴木由美が思い浮かぶ。
いやいや、あの女は死んだはずだ。
「バカ。見間違いだろ?」
「いや! 怖い」
部屋の中を覗いても、誰もいない。
「ほら、誰もいない……」
ガシャン。
棚からコップが落ちて、割れてしまう。
え? なんで?
「何? 何? 怖いよ」
「え?」
次の瞬間、食器棚の食器が全て落ちてすごい音を響かせる。
思わずミカと抱き合って、しゃがみ込む。
なんだよこれ。
これじゃあまるで……ポルターガイストじゃねぇかよ。
「ミカ、ここでるぞ」
「う……うん」
扉を開けようとするとするが、扉が開かない。
ガチャガチャガチャガチャという音だけが響く。
「く……くそ。開けよ!」
「としくぅーん怖いぃ」
その時であった。
部屋の中の気温が、一気に下がった気がした。
息を吐いてみると、白い息が出る。
「な……なんで」
「うぇー……ん……ひっぐ……怖い」
次の瞬間。窓が割れる。
そして……テレビがついた。
ザーザーザーザーザーザーガガ……
としくん?
としくん?
その女は誰?
誰?
私を裏切っていたの?
貴方のために、私を借金したの。
毎日取り立てられたの。
怖かった。
けど、貴方を失うほうが怖かったから、、
なのに……
ひどい
ひどい
ひどい
「ひどい。」
耳元で声がした気がして、トシオはミカを突き飛ばして扉をガチャガチャと開けようとする。
「きゃぁ! 酷い!」
「やめろ! くんな!」
突然部屋が暗くなり、さらに焦りを覚える。
「な……なんなんだよ! 由美なのか?! やめろよ! やめろ!」
なら……謝って。
「ごめ……ごめんなさい! すみませんでした! ちゃんとお金も返します! だから!許して! 頼むから!」
水道の水が、突然流れ出し、部屋の至るところからラップ音が響き渡る。
バシ!ドンドンドン!
ガシャン!
キーキーキー!
ゴトン
「や……め……お……お願いします……許して……」
トシオは泣きながら土下座し、ミカは泣き続けている。
許してほしい?
「お願いします……ゆるじて……」
「おねがいしますぅぅぅ……」
「では、こちらにサインをお願いします」
突然目の前に燕尾服姿の男性が現れ、トシオは目を丸くする。
「え?」
トシオが呆然とした時、ガシャン! とまた何かが砕ける音が響き、トシオは悲鳴を上げながら目の前に差し出された紙にサインした。
「はい。それでは、しっかりと鈴木由美さんのご両親に返済なさって下さい。これを反故にされた場合、さらなる恐怖を味わう事となりますので、お気をつけください」
屋敷でお茶を飲んでいた桜子は、実行犯部隊からの報告を聞き、ほぅと息を吐いた。
「全て恙無く終わったそうです。」
「そう。明日鈴木由美さんに会うのが楽しみだわ」
お嬢様は優雅にお茶を飲みながら笑った。
どこにでもクズはいる。