第二話 迷える子羊(幽霊)
桜子は今日も優雅にお茶を飲む。
今日は日本茶な気分のようで、艶やかな赤色の着物に金色の帯をあしらい、髪を美しく結い上げて椿の花の簪を指している。
そんな和装の美しい桜子の前には空席の椅子が置かれており、目の前には湯気の立つお茶も置かれている。
「こちらの方が、鈴木由美さん。28歳独身女性ですわ」
「は……はい」
桜子の横に立つ学は、手帳を片手にとりあえずその名前と年をメモしていく。
誰もいない椅子を目を凝らしてみてみるが、どうやったって、学にはそこには誰も見えない。
いや、当たり前である。
誰もいないのだ。
桜子の執事は桜子のお茶を入れ直している。学は自分の分はないのだなぁと少しがっかりしていると、桜子が言った。
「殺されて埋められたのですって。」
「えぇ!?」
朝からなんというディープな死因だろうか。
学は誰もいない椅子を見つめながら悲しげに呟いた。
「それは……悔しかったでしょうね」
「えぇ。由美さんは怒り狂っているわ」
「そりゃあそうですよね。それで、犯人は誰なんですか?」
「それが、知らない女らしいわ」
「なんと」
メモを取りながら気になる事を学はどんどんと訪ねていき、大体の犯人の姿が浮かんできた。
年は30歳前後。髪は長く、顔色の悪いなんだか冴えない感じの女。身長は同じくらいだったとのことで、160センチ前後。服は白いワンピース。
「なる程なる程と……分かりました。」
「ちょっと貴方、少し尋ねたいことがあるのだけれどよろしくて?」
「え? はい。なんですか?」
学がきょとんとして桜子を見ると、桜子は学をきっと睨みつけながら言った。
「貴方、信じるの?」
その言葉は学に衝撃を与えた。
「え? 嘘なんですか?!」
「嘘じゃないわよ」
間髪入れずにそう、返されて学はふぅとため息をつくとにっこりと笑みを浮かべた。
「なぁんだ。桜子お嬢様ってば、驚かせないでくださいよ。」
「貴方幽霊を信じるの?」
学は、首をひねり、そして敬礼をすると言った。
「自分は警察官であります! 警察官は市民の皆さんが安心して暮らせるように働くのが努め! つまり、信じようと信じなかろうと、桜子お嬢様が困っているのであれば手助けいたします!」
桜子は、その様子にため息をついた。
「もういいわ。行って頂戴。何かわかればすぐに連絡して」
「はい!」
学は返事をすると、広い庭を走って抜け、警察署へと自転車に跨がって帰るのであった。
桜子がお茶を飲んでいると、執事の良さんが微笑みながら言った。
「良き青年でございますね。」
「そうね。次からはお茶を用意してあげてもよくてよ」
「かしこまりました」
良さんはその言葉に笑みを浮かべた。
桜子お嬢様が、お茶を用意してもいいと言うのは迷える子羊(幽霊)と気に入った相手だけであることを良さん知っている。
桜子はお茶を飲んでニッコリと笑った。
「今日もお茶が美味しいわ」
その日の夕方、鈴木由美さんの死体が山林で見つかり、学は悲鳴を上げた。