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#4 見えた彼女の影

第四話


あらすじ:菜乃が適合者であるか怪しんだマリーは彼女にフラワーナイトの武器となるアームが扱えるかを見極めためノートルを流し込む"共鳴"を彼女に行わせた。最初はうんともすんとも言わないかった、大牙の持ち込んだ武器アストリリーを握ると見事成功した。

それを見た二人の少女は菜乃に興味を示す。


クローバー――私のものになって

 おかしい、絶対におかしい。こんなこと、ありえるの?

 アイツと桜田さんをそのままに、私は部屋を去ろうとした大牙先輩を追いかける。


「大牙先輩、どういうことですか!」

「なにが?」


 廊下に出たところで、彼の前に立って道を塞ぐ。


「とぼけないでください! どうしてあんな結果になったんですか!」

「納得がいかないのか?」

「そりゃそうでしょう! 測定用のBアームでは全くイドが感知されなかったのに、あれを握ったとたんにあそこまで感知されるなんて……何か細工でも?」

「それは、俺が”あちら側”の人間だったから聞いているのか?」

「そういうわけじゃ……!」

「……ごめん、いじわるだったな」

「あっ……」


 大牙先輩の手が私の頭を撫でる。こうやって、私が不機嫌そうになるといつも撫でてくる。

 子ども扱いされているみたいで、嬉しくない。


「マリーは俺の事を慕ってくれてるもんな。それはわかってる。ごめん」

「……やめてください。マリーが欲しいのは説明です」


 悪い、とだけ言って大牙先輩の手が離れる。


「そうだな……強いて言うなら、聞こえたんだ」

「聞こえた?」

「ああ。運命の声がな」

「……大牙先輩、私の事からかってません?」

「いいやぁ?」

「もぉ!」

「いたいいたい!」


 彼の胸元をグーで叩く。痛がっているけれど、大して痛くないはずだ。この人はいつもそうだ、私を年下だからってからかったり甘く見たり。いいかげんやめてほしい


「でも、細工とかはしてないぞ? あれを改良したのは凛太朗(りんたろう)だしな。嘘だと思うなら本人に聞いてみな」

「凛太朗くんが? それなら、まあ……」


 兵器製造科の彼がアイツのためにやるとは思えないし、大牙先輩の頼みでもそこまでは聞かないはず。じゃあ、なおさら意味が分からない。

 花巻菜乃、アイツは何者なの。


 ◇   ◇


 あれからすっかり疲れしまった私は寮に戻ってシャワーだけ浴びてすぐさま眠ってしまった。そのおかげか、昨日のBアームにイドを流し込む作業の疲れはどこへやら。日が経てば全てなくなっていた。

 そんなさっぱりした気分で、私と八重ちゃんは正式に箱植学園の生徒として認められることになった。その証として、今日初めて制服にそでを通す。鏡の前でじっくりとお互いをチェックする。

 いつ測ったのかわからないけれど、サイズはぴったりだ。


「どうかな、八重ちゃん? へんじゃない?」

「とってもお似合いですよ♪」

「えへへ、ありがとう……意外と着心地のいい制服だね♪」


 全体的に灰色。白いシャツの上に灰色のブレザーみたいなものを羽織ることでそうなる。ブレザーのお腹部分にはポケットが二つ付いていて、スカートにもポケットがある。ハンカチがいくつあっても大丈夫だね。暗くて地味めなカラーだけど、スカートに白のラインが入っていてそこが少しお気に入り。

 かっこよくて礼儀正しさが全面に出る制服だけど、着こなし方によってはかわいさが演出できるのかも。


「私たちセーラー服だったから、新鮮だよね。それに、ベルトなんて初めて」

「そうですね。でもこれ、ブレザーって言うよりも軍服? みたいな感じですね」

「どうしてそう思うの?」

「父がこういったものが好きでよく集めていたので……」

「そうなんだ……なんだか、気が引き締まるね!」

「はい♪ 心機一転したばかりでしたが、もう一度心機一転がんばりましょう」


 今日から新たな生活が始まる。そう思えば楽しさもいっぱいだけど、同時に不安だらけ。

 だって、私も八重ちゃんもいずれは戦うのだから。


 ◇   ◇


 昨日と同じように食堂で朝食を終えて、昨日のうちにマリーちゃんに教えてもらっていた私たちの教室へ向かうことに。

 クラスはみっつの学科ごとにひとつずつで、私たちのフラワーナイト科は一番人数が少ないらしい。


「ここだよね?」

「そのはずです」


 言われた通りの教室の前に着いたけれど、この学園の部屋はどうも教室という感じがしない。外から見た感じは学校っぽさがあったけれど、中はどこかの施設みたいな感じだ。それに、教室って言う割に引き戸じゃなくて押し引きで開くドアだし。

 私はノックをしてみる。なんか、そうしたほうがいい気がしたからだ。


「すみませーん」

「どうぞ~」


 中から声がしたので、ノブを回して入る。すると、パンッと何かがはじけるような音が。


「え?」


 私の頭にひも状の紙が落ちてかかる。これは、クラッカー?


「ようこそ、双葉等級室へ!」


 黒髪で片目が隠れちゃってる女の子が私たちを出迎えてくれた。その後ろには大人しそうな雰囲気の子と気品の良さを感じさせる子が。


「四葉は黒羽四葉(くろはねよつは)と申します。四葉ちゃん、よっつー、よつやん、お好きにお呼びください!」

「わぁ、よろしく!」

「まあ、歓迎してくださって嬉しいです♪」


 四葉ちゃんは私と八重ちゃんの手を片手ずつ握って縦に振る。良かったぁ、とっても感じのよさそうな子だ。この元気さには負けちゃいそうだけど。


「ほら、お二人も!」

「は、はい!」

「わかってるわ」


 そう言って、気品のよさそうな子が椅子から立ち上がる。


北菊(きたぎく)めい、よろしく」

「えっと、雷月(いかづき)ソニアと申します……そ、その、よろしくお願いします……」

「めいちゃんに、ソニアちゃんだね。私は——」

「花巻菜乃さん、ですよね。そして、お隣の方が桜田八重さん」

「うそ! どうして知ってるの?」


 私たちは驚いた。だって、一度も名前を教えたことのない人に当てられてしまったのだから。


「四葉にかかれば、これくらいお茶の子数の子さいさいなのです。でも、さすがに名簿に登録されてない人とは思いませんでしたが」

「相変わらず、ストーカーじみたことをしているのね」

「ストーカーではありません! これは、れっきとした人間観察です!」

「はいはい、フの字もない子の前で熱くならないの」

「むぅ……」


 もう少しでケンカに発展しそうな勢いの二人をよそに、ソニアちゃんが私たちに小さな声で囁く。


「あの、もしよろしければなんですが……学園のご案内をさせていただけますか?」

「それは嬉しいのですが、お二人はいいのですか?」

「はい……いつもの事ですから」

「そうなんだ。じゃあ、お願いしていい?」

「お任せください。今日の私たちの仕事がそれですから。では、ご案内しますね」


 私たちは言い合いを続ける二人を置いて、部屋を出た。


 ◇   ◇


 それから、ソニアちゃんと学園巡りをする。私たちのいた二階からブリーフィングルーム、昨日使った訓練室。今から行く三階は未知のエリアだ。


「図書室、アーム造りに全力を注ぐ兵器製造科の実験室、アームや防具のデザインを考えるデザイン科の服飾室、チームルームの四つがありますけど、どこから見ます?」

「一番近い所からお願いします」

「私もさんせー」

「では、実験室からですね。正面のこちらです」


 階段をのぼってすぐ目の前の部屋に三人で入る。中に入ると、ドアを開くまでは聞こえなかった言い争っているような声が聞こえる。


「だーかーら! 長期戦を考慮してイド消費量を抑えるように設計するべきよ!」

「でも、それだと威力は低下するし、かえって危険を招くことになりかねないだろう」

「そこは連携でどうにかなるでしょう。フラワーナイトはチーム戦第一よ!」

「それはわかるけど、かといって頼りきるのはよくない。孤立したときのことも考えて、ある程度のパワーは持たせるべきだ」

「だーかーらー! そこはフラワーナイトがどうにかするって言ってんでしょ!」

「兵器は人を助けるものだ! 僕たち作り手が使用者に依存するなんてありえない!」


 かなり加熱しているみたいで、私たちが入ってきたことにすら気づいていないご様子。しばらく眺めていると、男の子がこちらに気づく。


「……えっと、ソニアさんと、どちら様ですか?」

「昨日お話していたお二人です」

「ああ、編入の。はじめまして、兵器製造科の野薔薇凛太朗と申します。こっちは幡檸檬(はたれもん)です。お見苦しい所を見せしまい、申し訳ありません」

「幡檸檬です、よろしく。ここの見学なんて珍しいわね」

「今、ソニアさんに学園の案内をしていただいているんです」

「なるほど、そういうこと。いつまでも好きに見てって構わないわよ。あっ、でもBアームには触らないでね、危険だから」

「わかりました~」

「じゃあ、ここは僕が案内しますね。と言っても、狭いんですけどね」


 凛太朗くんの後に続いて、隣の部屋へ。そこは先ほどの部屋と違い、暑い。見てみると、奥に窯のようなものがあり、火が付いていて誰かが使用している。


「先ほどの部屋では主にBアームの設計を考え、議論します。そうして通ったアーム案をこの工房で実際に作ってみて、あそこのガラス張りの部屋で試運転します」


 そう言って彼が指さす先にはガラス張りの部屋があり、異質感がすごい。別の空間を無理やりくっつけたような。

 中では射撃が行われているが、打ち終わった後に使った人が銃を分解してしまっている。


「……あのようになると、設計図の見直しです。我々がBアーム制作に着手したのはまだ二年ほど、少々不安を感じるかと思いますが、現在使われているものはテストを通った物なのでご安心ください」

「お気になさらないでください。何事も失敗あってこそ成功があるものです。いつかの安定した成功を目指して、がんばってください」

「ありがとうございます」


 八重ちゃんはうまくフォローしたけれど、私は特に何もできずただただ苦笑いを浮かべた。


「そういえば、金城からうかがっていたんですがお二人のどちらかがあのアストリリーver2.0を扱えそうだとか」

「アストリリー? なにそれ?」

「近接戦闘用のサーベルです。昨日、梅原さんにお渡ししたのですが、受け取りませんでしたか?」


 ああ、なるほど。きっと、私が持ったあのアームの事だ。


「それ、私じゃないかな」

「では、あなたが花巻菜乃さんですね。そうか……お姉さんの噂はお聞きしています」

「っ! もしかして、お姉ちゃんのこと知ってるの!?」


 私はその言葉に勢いよく飛びついた。あのメモ用紙を入れた人もそうだけど、お姉ちゃんのことを知っているかもしれない。


「え、ええ……噂レベルですが、少しだけ」

「あの、聞かせてもらえますか?」


 凛太朗くんは少し考えてから。


「場所を変えましょうか」


 と言った。


 ◇   ◇


 彼の後について行き、別の部屋へ。そこはたくさんの本棚と資料が置かれている場所だった。


「ここは?」

「図書室です。司書はいないんですが、バグレッサーやフラワーナイトに関する資料がいくつかあります。雷月さん、どの辺だったかな?」

「はい、こちらです」

「ありがとう」


 彼はそう言いながら棚から一冊の分厚い本を取り出す。


「ソニアさん、お詳しいんですか?」

「ここの管理をお任せいただいてまして、少しだけ」


 そう言って、彼女は少し照れくさそうにする。


「名鑑の……あった、ここだ」


 凛太朗くんは近くにあったテーブルに本を広げる。私たちは横から覗く。


「これはなんでしょうか?」

「フラワーナイト名鑑といって、全国各地のEDEN(エデン)直属の施設で任務を行っているフラワーナイトをまとめたものです。花巻さん、ここをご覧ください」


 彼が指さすページを見る。そこには、どこか見覚えのあるような顔と追い求めてきた名前が載っていた。


「天莉、お姉ちゃん……」

「ええ!?」


 間違いない、オレンジ色の髪、長くて癖のある毛先、青い瞳、写真の中のお姉ちゃんとなにも変わりやしない。花巻天莉、その人だ。


「菜乃さんって、あの花巻天莉様の妹さんなんですか!?」

「ソニアさん、シーっです」

「あ、失礼しました……」


 別に誰もいないんだし、いいと思うのだけど。


「……四年前くらいかな、急にいなくなっちゃったんだけど、こんなところにいたなんて」

「天莉さんを直接は見たことないんですが、話には聞いたことがあります。二年前の北九州奪還作戦において活躍されたアマリリス隊を率いていたと聞いています。僕らフラワーナイトでない者ですら知っている英雄……ただ」

「ただ?」

「その後の消息はわかっていないんです。負傷してどこかで療養中だと聞きますけど、本当かどうか……」

「じゃあ、お姉ちゃんの居場所はわからないんだね……」

「菜乃さん……」


 八重ちゃんの手が私の肩に添えられる。あたたかい。


「……これは憶測なんですが、知っている人がいるかもしれません」

「ほんと、ソニアちゃん!?」

「ひゃ! な、菜乃さん! 近いですぅ!」

「あ、ごめん。つい」

「えっと、この学園に当時アマリリス隊だったメンバーの方がおられます。その方なら、もしかしたら知っているかもしれません」

「それって、誰なの?」

「そこからは、四葉がご説明しましょう!」


 どこからともなく現れたのは、少し前にめいちゃんとケンカしていた四葉ちゃん。

 少し髪が乱れているが、もしかして乱暴なことがあったのでは。


「四葉ちゃん、めいちゃんは……」

「ソニアちゃん、四葉とめいちゃんがケンカしたら、誰が来ますか?」

「あっ……」

「そういうことです」


 ソニアちゃんはなにかを察したようだけど、私たちにはさっぱりだ。


「さて、そんなことはほっといてですね、天莉様のことを知っていそうなお方は私が見るに候補は四人! 当時最前線で戦い続け、最多スコアを記録した剣崎桃千代(けんざきももちよ)様、Bアームの戦闘技術なら全国一と謳われる皇撫子(すめらぎなでしこ)様、アマリリス隊の参謀にして北九州奪還作戦を勝利に導いた魔術師胡蝶香子(こちょうかおるこ)様、そして、突如現れ桃千代様と並ぶ実力を見せた謎のフラワーナイト梅原大牙様。この四名です!」

「情報量が多すぎるよ~!」

「あら、そうでしたか。とりあえず、知ってそうな方が四人いるので一人ずつ当たって行きましょう」

「わかった、案内して!」

「え、今から行くんですか? やめたほうが……」


 ソニアちゃんの心配そうな言葉に、四葉ちゃんも同様の表情を浮かべる。


「僕もやめた方がいいと思います。なにせ、どの方もご多忙な方ばかりで時間がとれるかどうか」

「でも、知りたいです!」

「私も、菜乃さんに賛成です。ついて行きます」

「八重ちゃん……!」

「……わかりました、では四葉が一肌脱ぎましょう!」


 そう言って四葉ちゃんは部屋から出て行ってしまった。


「……なんだか、学園の案内どころじゃなくなってしまいましたね」

「あ、ごめんなさい。せっかく付き合ってくれたのに」

「いえ、いつでもできますから。それより、菜乃さんのことをもっと教えてください」

「ソニアちゃん……わかった、とりあえず他のところに行こっか。八重ちゃんも」

「はい。私は天莉さんのことが気になります」


 私たちは話しながら部屋を出ていった。何か忘れているような気がするけれど、たぶん大したことじゃないと思う。


 ◇   ◇


「……置いて行かれてしまった」


 ついでにアストリリーについて感想を聞いておきたかったけれど、また今度にしよう。

 僕も戻るか。そう思い部屋を出ようとすると、扉の前で珍しい子と鉢合わせた。


「相馬さんじゃないか。君がここにくるなんて珍しい」

「これはこれは、凛太朗さん。ちょうどいいところに」

「どうかした?」

「実は、聞きたいことがありまして。アストリリーについてなんですが、あれって使用者のイドを吸収しすぎてしまって使い物にならなかったはずですよね?」

「君の言う通り、燃費が悪くてまともに使えるフラワーナイトはいなかった。一人を除いてはね」

「花巻天莉様、ですよね?」

「そう。彼女はノートル数値こそ平均より少し上くらいだったが、保有量は普通じゃなかった。数値を上回るイド使用量には、当時の常識を見事に破壊してしまった」

「妹の菜乃さんがアストリリーを扱うことができた。これは偶然でしょうか?」

「あれは改良型だし、燃費の問題も解決している。とはいえ、彼女のノートル数値は金城が言うに0ntだそうだな。これは、何かが動いているように感じるよ」

「何者なんでしょうか、彼女は」

「医者でもない僕に聞かないでくれよ。ただ一つ言えるのは、彼女はフラワーナイトだ。それも、今までにないようなね」


 でも、彼女より僕には奇怪なことがある。梅原大牙、あの人は何を考えて行動しているのかだ。彼女をここに招き入れ、アストリリーの改良を僕に頼んだ。全て彼が主体だなんて、まるで何かを計画しているようじゃないか。

 彼を未来人なんて言う人もいるが、ありえないとは言い切れなくなってきたかもしれないぞ。

 花巻菜乃、梅原大牙、花巻天莉、この三人はどういう関係なのか。協力を仰ぎつつ、調べてみるか。

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