女主人公って、ヒロイン以外になんて言うのかな?
女主人公こと『藤堂 京』は、この地方出身の国会議員の孫娘である。
一人娘という訳ではなく、家の跡継ぎには一つ年下の弟がいて、彼女は政略結婚の駒として育てられた。
「もしも嫌だというなら断れ。
しかし政略結婚を受け入れるなら、相応の見返りをやろう」
祖父は次の選挙で大臣に成れると言われる政界の妖怪。
黒い噂はほとんど真実。後暗い事をやっているのは、幼い頃から京も知っていた。
ただ、京に語る言葉に嘘は無く、今まで京が騙された事は一度として無い。
政治家としては悪魔のような男だが、祖父としては誠実であった。
やりたい事など取り立て無い。
そんな無気力さもあり、あとは報酬につられ、当時小学生の京は政略結婚を受け入れていた。
結婚相手の武臣家のボンボンは、ただの馬鹿だった。
男として、人として下の下としか言いようがなく、普通の神経をしていれば「こんな男と結婚するなら死んだ方がマシ」と言うだろう。
矯正出来そうであればまだ考える余地があるが、アレは学習しない、学べないタイプのゴミである。親は野心が有るだけでまだまともだが、息子は猿に劣る愚物。ある意味、ファンタジーの生き物だ。
言葉は軽く、どんな事も自分に都合のいいように解釈し、何かあれば悪いのは自分以外だ。はっきり言えば、相手をするだけ時間の無駄だと京は見切りをつけた。
とりあえず婚約者として周囲に認められる振る舞いだけは欠かさない。
結婚後は金で適当に愛人と遊ばせ、自分は自由に生きよう。
京はナロージとの結婚をその程度に考えていた。
「ここまで馬鹿とは、さすがに予想外でした」
「ま、良いだろう。これで相手有責の婚約解消となれば、払った労力の対価の回収も捗るというものよ」
京の婚約は、家の意向である。
何かあれば報告を行い、判断を仰ぐ。自分で勝手に決めたりしない。
やりたい事は未だに見付かっていないが、見付かった時に備え、多額のお小遣いを貰う。
京は目的のために、ちゃんと仕事をする女なのだ。
「では、このままですか?」
「そうだ。
武臣の小倅がどう動くかは分からんが、今は相手の出待ちを期待した方が面白くなるだろう。あの出涸らしがまたやらかす可能性が高い。
もちろん、正式な婚約解消はまだだが、婚約者の仕事はしなくていい。京は、しばらく好きにすればいいぞ」
「分かりました」
京は祖父の言う事に従順だ。
頭も良く、周囲を意識した立ち振舞いも完璧。
しかし。
「お前のやりたい事。早く見つかってくれれば良いのだがな」
祖父としては、もっとワガママに生きて欲しい。
その為の婚約が不発に終わり、政界の妖怪は独り、悲しげに呟いた。