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ナロージ様、感動されるんですね。え? 勘当?

「はぁっ!? 父さん、俺を勘当って、どういうことです!!」

「お前の愚行がネットで晒されているんだ! どうしてお前はそう、周囲を省みない!!」


 ナロージ様こと、『武臣(たけおみ) 太蔵(たいぞう)』。

 彼は恋人の璃々華と暮らしている高級マンションではなく、実家の方に連れて来られていた。

 大学から帰る時に親から連絡が入り、強制的に連行されたのだ。


 そうして久しぶりに顔を合わせた親は、太蔵と親子の縁を切る、つまり勘当すると吼えていた。



「藤堂先生から連絡をもらった時は、生きた心地がしなかった。それもこれも、お前が婚約者がいるにもかかわらず、浮気で恋人を作り、同棲している事が大々的に知られてしまったからだ」

「浮気ではありません! 真実の愛で――」

「バカモン!!」


 太蔵、ナロージ様の態度は親の前でも変わらなかった。

 『真実の愛』を振りかざし、己の行動を正当化しようとする。

 もちろん、まともな神経をしている親は愛などというどうでもいいものを認めず、ナロージを叱る。


「だったら、先に婚約破棄をするのが筋だろうが!! 愛やら何やら、薄っぺらい言葉で言い訳をするな!!」


 つまりはそういう事である。

 愛を貫きたいなら、先に藤堂家との関係を清算するのが正解なのだ。

 少なくとも、そうすれば被害は最小限に抑えられる。


「俺が婚約解消を言い出しても、聞いてはくれなかったではないですか!!」

「愛に生きるなどと浮ついた言葉で婚約を解消する親がどこにいる! しょせん一瞬の気の迷いだろうが!

 だいたい、あの璃々華という娘には本当の事を何一つ説明せず、耳あたりのいい言葉を並べ、騙していただけではないか! それのどこが愛だ! それの何をもって『真実の愛』などと言う! 『真実の愛』などと言うならせめて相手にだけは嘘を吐くんじゃない!

 お前はただ、婚約者がいる事が気に食わないで反抗する、ただの子供だろうが!!」


 武臣(父)にしてみれば、太蔵の行動は我が儘を言う子供そのもの。

 ただ親への反発心から反抗しているようにしか見えない。


 これで璃々華との関係が、正しい情報の元に築かれた真実の関係であれば、まだ良かった。

 しかし実際は嘘に嘘を重ねた上に存在する砂上の楼閣で、本物の真実と言う波の前にあっさりと崩れ去った。


 璃々華は嘘吐きの太蔵に見切りをつけ、自分の両親に頭を下げて事態の解決を願った。

 そこから情報が回り、武臣家が悪者として扱われるようにネットで情報操作が始まっている。

 ネットに流された生主の動画を使い、まとめサイトを作り上げ、自分たちは被害者であるという主張を始めていた。


 太蔵がまともな頭をしていれば、上手く立ち回り、対抗もできただろう。

 しかし太蔵の馬鹿過ぎる発言が生中継されてしまったため、もはや穏当な解決は不可能である。

 頭を下げねばならない武臣父が怒り狂うのも当然だ。



 ただ、そこで反省しない、自分は間違っていないと信じて疑わないのがナロージ様である。

 そこで反省できるなら、こんな事はしない。

 悪いのはいつも自分ではなく、周囲なのだ。


 嘘を言って璃々華の歓心を買った事も、衆人環視の中で婚約破棄をした事も、その後の屑発言も。

 全部全部、『真実の愛』を貫くために必要な物だったのだから。

 愛を貫くために必要なそれらの、どこが悪い事なのだと開き直っている。


「くそっ! 親が決めた婚約者、親の決めた将来! 俺には自由の一欠片も無いのか!!」


 親の金で高級マンションに住み、金に不自由しない生活を与えられ、大学の成績を金で買い、女を騙して遊んでいた男の発言である。真面目に生きている人に謝れ。



「お前は今大学の4年生だ。今年分の学費は出してやる。マンションも同じだ。

 だが、来年からは自分の力で生きていけ。手切れ金はやる。そこから先は、一切の面倒を見ない。その代わり、就職先も結婚相手も好きにできるんだ。自由を手に入れられて嬉しいだろう?」


 喚くナロージ様に、元父親は冷徹に言う。

 普通に考えればそこそこ厳しい程度で、そこまで無茶は言っていない。

 大学を卒業したら院には進まず就職して、それに合わせてアパートでもなんでも借りればいい。それだけなのだから。

 そこまで自由が欲しいというなら、自由の責任も背負えと、ただそれだけの要求を突きつけた。


 だが。


「ふざけるなよ! これまでお前らの言うとおりに生きてきたんだぞ! そんな身勝手が通るものか!!」


 親の言う事を聞かずわがまま放題。

 それなのに、とうとう切れた堪忍袋の緒には見向きもせず、ナロージ様(笑)は吼え続ける。

 それがナロージと言う生き物だった。

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