ナロイン、騙されてたってよ
「ふふん。この璃々華はお前よりも凄いんだぞ!」
「まぁ、それはよう御座いました。
ですが、正式に婚約が解消されるまでのもうしばらくお時間がかかるという話なので、もう少し行動は控えめになさった方が良いですよ」
「はははっ! 嫉妬しているのか、醜いな!!」
「え? まだ婚約破棄されていなかったんですの?」
前回の騒ぎから三日後。
またもや大学の構内で茶番が繰り広げられていた。
今度はキャストが増えていて、璃々華と呼ばれる、男の恋人らしき女性が一緒にいた。
男の戯れ言に対し、女性は常識を説いたが、男の頭ではそれが理解出来ない様であった。嫉妬からの発言と勘違い――自分に都合のいい脳内変換をして、高笑いをした。
一方、璃々華嬢は女の言葉の意味が理解できる頭を持っていたので、男の馬鹿さ加減に驚愕の顔をしている。
「すみません、藤堂さん。今のお話は本当ですの?
わたくし、お二人の関係は既に終わったものと聞いていたのですが……」
「精神的なお話であれば、最初から何も有りませんでしたよ。プレゼントどころか手紙に電話、メールの一つも頂いた事が有りませんから。
会社のパーティーでも、エスコートされた記憶は一度も御座いません。
ただ、書類上は今でも婚約者のままなのも、本当の事なんですの」
「えええ!?」
聞いていた話と全く違う。
璃々華は二人が本当に別れたのか人を使って調べていた。
確かにパーティーに参加しても女、藤堂はエスコートされておらず、その状態が何年も続いているので、二人は既に婚約解消をしていると周りは考えた。
ただ、一度は婚約関係にあったので、男と藤堂の家は良い関係を維持しているのだと思われていた。
婚約解消をした男女が誤解されないように、必要以上に距離をおいた。それが周囲の見解である。
たとえ“書類上でも”婚約関係にあるとは、思えなかったのである。
婚約していてそれでは、とてつもない無礼な扱いだからだ。
「何も憚る事など無い! 俺達は『真実の愛』で結ばれているんだからなっ!」
そんな真実に驚く璃々華を置き去りにして、空気を読まない愚か者は、相も変わらず馬鹿な事を言っていた。
「武臣さま。目的は達せられたのでしょう? 今日はもう戻りませんか」
「うむ、そうだな! 愛し合う二人の時間をこれ以上削るのも無粋だ。俺達の家に帰るか!」
馬鹿は、やはり馬鹿であった。
青ざめる璃々華に連れられ、男、武臣は帰っていった。
今度の様子も撮影され、ネットにアップされたのは言うまでもない。