ナロージが婚約破棄をしたってよ
「政略結婚なんて、間違ってる! お前との婚約は破棄だ! 俺は真実の愛に生きる!!」
「はぁ。なぜそれを私に言うのか理解できませんが……好きにすれば良いのではないでしょうか?」
それは、とある大学のキャンパスで行われた喜劇であった。
親同士の都合で婚約関係にあった男女が、白昼堂々と婚約破棄で揉めていたのだ。
いや、揉めていたというのは正しくない。
男が一方的に女を(無駄に)責めていたからだ。
「結婚は当事者同士が行うものだ! よって、お前に直接言っているんだ!」
「婚約は、親同士の話し合いで決まった事ですよ。
ですので、まずはそちらのご両親に話をして下さい。私には、そちらの家の方針がまとまってから、私の両親を介してお伝え頂ければ問題有りませんよ」
ハッキリ言って、役者が違う。
女は冷静に常識を語るが、男は理屈が通じずに声を荒らげてばかりだ。
「お前が! 素直に! 身を引けばいいんだ!!
女なら男の身を立てるぐらい当然だろうが! そうやって可愛げが無い態度だからお前は駄目なんだ! 璃々華を見習え!!」
女の正論に対して地団駄を踏む男。誰の目にも年齢相応には見えない、男の幼い行動。
騒ぎを聞きつけ集まった者達は、その残念な行動を嗤う。いや、嗤うだけでなく動画を撮影し、ネットにアップしていた。
この動画はしばらくの間は誰の目にも止まらず、気にもされなかった。