表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/22

21.この書物、ちょっと気になります

 本当にいろんな書物があって、見て回るだけでも楽しくて。なんでここにいるのか忘れそうになっちゃったけど。無事に『淡水魚・海水魚』の棚まで案内してもらって、気になった本をたくさん見た。でも――


「うーん、なんだかどれも違う気がする……」


 おもしろそうな本はたくさんあるんだよ。絵が入ってたり、わたしにもわかる言葉で書いてあったり、単純に中身が気になったり。変わったものを食べる海の生き物の本とかね。

 ただ、わたしの知りたいこととはちょっと違うかなってだけ。


 どうしようって、うんうん考えていたら。シルヴィアさんの静かな声。


「主の協力が必要になるけど、別の方法があるかもしれない。『神』関係の本棚まで案内してほしい?」


 それはちょっと気になるけど、でも。


「さっきも言いましたけど、海神さまにご負担はかけられないですっ。それに、わたしが頼まれたことなのでわたしががんばらなきゃ」

「たしかに。わたしも主に迷惑をかけたいわけじゃない。ただ、相談するだけしてみてもいいと思う。協力が難しいなら、主はきちんと断るだろうから」

「海神さま、無理をしがちとお聞きしていますが……そうですね。試しに相談してみようかと思います。本棚まで案内してもらってもいいですか?」

「別にいいけど。ついてきて」


 海神さまに申し訳ないなって気持ちは、やっぱりあるけどね。相談とか調べものとかするだけでもしてみようと思った。遠慮してなにもしないより、きっとそのほうがいいもん。

 さっき、書庫の隅っこに時間を知るからくりが置いてあるのを見たんだけど。ちょうど二十二の刻だった。二十二と半分の刻までには寝るようにって言われてるから、もうあまり時間がない。フグさんの力になれそうなものが次の本棚で見つからなかったら、今日はあきらめておやすみなさいしようね。



 ☆



「ほんとに今日はあきらめたほうがいいかな……」


 これだ! って思う本が見つからないまま、寝る時間まであと十分です。どうしよう。

 あとね、さっきから思ってたことがあるんですけど。


「オリヴィアさん」

「なに? ……あれ、怒っている?」

「怒ってはないですけどっ。もしかして、実はどの本がフグさんのお願いに使えそうか、わかってたりしませんか?」


 オリヴィアさん、ここにある本はほとんど中身覚えてるみたいだから。いろいろお話ししながら書庫を回ってる途中で、そんなこと言ってた。


「だいたいの見当はついてる。でも直接は言わない、悪いけど。調べものでも読書でも、自分の力でいいものを探し当てるのがなにより大事だと思ってるから。楽しみを奪いたくない」

「なるほど……ちょっとわかったかもです」


 どれだけ大変でもむずかしくても、自分のがんばりでなにかができたらきっと楽しいもんね。


「私はその手伝いをするのが役目。話を聞いて、求めていそうなものの近くまで連れていく。でも、そこから実際に探して出会うのはあなたたちがするの」


 急ぎの調べものなのはわかっているんだけど、そこは私にも意地がある。シルヴィアさんが無表情に言う。

 でも、なんだか誇らしげに聞こえるのは、きっと勘違いじゃないよね。

 そういえば、「まずは神舞をひと通り覚えてから巫女の力の修練に移ってほしい」ってユミアさんが言ってたときも誇らしそうだったなあ。これだけは譲れないよってものがあるの、本当にすごいことだと思う。

 今のわたしにはあるのかなあ。わかんないや。


 まあ、それはちょっと置いておこう。


「わかりました。じゃあ、あともう一冊だけ手に取ってみて、それも違ってそうだったら今日は終わります!」


 もう本当に時間ないからね。今日がだめでも明日探すよ! 自分の力で! ……って、明日は海神さまと一日お出かけだったね。


「えーっと……」


 棚にぎっしり詰まった書物を見る。まだ手に取ってなくて、手がかりになりそうで、面白そうなのがいいよね。ぜいたくなこと言ってるけど、あってほしいな。じゃなくてある! きっと!

 そうしていたら、気になる書物を見つけた。

 だって、『神の眷属になったときに読む書 その五 神施ってなに?』だよ? わたしもまだ、神施ってなに? だもん。前に少しは教えてもらったけど、たぶん知らないことがいっぱいある。

 フグさんのお願いを叶える手がかりっていうよりは、単純にわたしが読みたいからだけど。とりあえず手に取ってみる。


 あっ、表紙がかわいい。身体にぐっと力を込めてる男の子の絵だ。男の子の周りがきらきら光ってるから、これは神施を使おうとしてるところなのかな。

 こういうかわいい絵だし、題名が『神の眷属になったときに読む本』だし、わたしにも読める本な気がする。試しに開いてみようっと。時間ないから、ゆっくり読むとしたら借りたあとだけど。


 書物をめくって、気になったところをちょこちょこ読んでいたら、『神施でできること』という項目で手が止まった。わたしも気になっていたことではあるんだけど、それ以上に。


「『仕える神のもとへ一瞬で移動する』……?」


『できること』として書いてある中のひとつが、役立ちそうな気がしたから。


「あのっ、この本借りたいので手続きおねがいしますっ!」

「わかった。早足で行かないと」


 ふたりで早歩きして、受付まで大急ぎ。

 明日はちょっと早めに起きてこの本を読もう。役立ちそうだったら、考えをまとめて海神さまとのお出かけでお話しできるようにね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ