貧民窟へ
書籍版『がんばれ農強聖女』、
2021/12/20、TOブックス様より発売になります!
書籍版もよろしくお願い致します!!
王都の石畳の上を歩くライラの歩みは早かった。
その美しい銀髪を颯爽となびかせ、大股で歩く姿には、同性の私でもはっとさせられる色気と、ある種の風格がある。
この存在感と共に歩くと、くすんだ路地でもカビ臭い通りでも一瞬で浄化されてしまうかのようだ。
「へ……へっくしっ! ……ぶああ、寒い……!」
――それに引き換え、私たちの後ろをちょこちょこと妙な歩幅で歩くレオの情けなさと言ったらない。
いつものふてぶてしい態度はどこへやら、己を抱き締めるかのように両肩をさすりながら歩くレオを、街の人間は奇妙な視線で見ている。
中には、ほらほら妙なのが来たよ! と人を誘ってわざわざ表まで見に来る若い娘たちまでいる始末。
まるで女神のように完成された美貌を持つ異国の美女と、その後ろを歩くほぼ全裸の男――衛兵たちも咎めようかどうか迷っている風なのだが、脇目も振らずに歩き続けるライラの足取りがその隙を奪ってしまう。
十分も歩くと――周囲の空気が変わり始めた。
さっきまでは曲がりなりにも賑やかだった空気が淀み、黴臭さに何か饐えた空気が混じり始める。
さっきまでは塵っ葉ひとつ落ちていなかった石畳の間に、紙くずや腐った果物の切れ端が見られるようになった。
建物の高さが格段に低くなり、歪んだり、崩れたりしている掘っ立て小屋が路地にせり出して来るようになると、それに反比例するかのように行き交う人々の目から光が消えていっている気がした。
すっ、と、私はくすんだ青空にある太陽を振り返った。
太陽は私のほぼ真後ろにあるから、私たちは北へ向かっているらしい。
王都の北――路地も上下水もあまり整備されていない、広大な貧民街があるはずの地区だ。
貴族はもちろん、平民ですらそこには滅多に近寄らず、半ば王都の中でも別世界の様相を呈している世界であった。
けれど、ライラはそんな掃き溜めに等しい世界に、ブレることも迷うこともなく分け入っていく。
勝手知ったる様子のその足取りは揺るぎなく、この世界こそ自分の家であるとわかっている人間の歩調だ。
後ろ姿だけでも十二分にその美麗さを思わせるライラの姿と、刻一刻と薄汚れていく街の対比が強烈で、私は何度も目を瞬いた。
「さ、着いたわよ」
随分久しぶりに聞こえるライラの声に、私はライラの後ろ姿から視線を外した。
見ると、うず高く積み上がったゴミと、路地を埋め尽くしている掘っ立て小屋が綺麗に片付けられている一角があり、そこに煤けてはいるものの、なかなか立派な構えの建物が見えてきた。
ほとんどかすれてしまった看板に、ノーマン診療所、の文字を見つけた私は、その佇まいをしげしげと見回した。
まるでゴミ捨て場同然の街であるのに、その建物の周辺だけが綺麗に掃除されているのが異様だった。
そしてその建物の前に並んでいた、粗末な身なりでやせ衰えた人々が、ライラがやってきたのを察知して一斉に振り返った。
「ライラ先生……! 帰ってきたのか!」
「おかえりライラちゃん! 今日もノーマン先生のお使いかい?」
「ライラ先生。すまねぇ、今日もお世話になるぜ」
スラムの人々――おそらくこの医院の患者なのであろう人々が一斉にライラを取り囲んだ。
ライラは「ただいま、悪かったわね、留守しちゃって」とスマートに微笑むと、人々は実に幸せそうに笑い声を上げた。
「ん? ライラ先生、この人たちはお客さんかい?」
ライラを取り囲んだ患者たちの一人が、ライラの後に続いてやってきた私たちを見た。
最初に私を、次にロランを見た患者たちは、最後に、その後ろで寒さに震えているほぼ全裸のレオを見て珍妙な表情を浮かべた。
「あん? なんか文句あんのかよ?」
レオがかなり険悪な視線と言葉で言うと、怯えたように患者たちは目を逸らした。
「この人たちはお客さん。今そこの商業地区で出会ったの。さ、あなたたち。狭い医院だけど遠慮なく入って」
そう言って、ライラはさっさと医院の中に入っていってしまった。
この医院には、曲がりなりにも貴族の客や患者など滅多に来ることはないのだろう。
奇異と羨望の入り混じったような居心地の悪い視線を後頭部に浴びながら、私たちは医院の中に入った。
ぷん、と、消毒液や薬品の匂いが漂う医院は薄暗くて、思わず目がくらむほどだった。
「ノーマン先生、ロレッタ、今帰ったわ!」
ライラが薄暗い廊下の奥に大声をかけると、すぐにパタパタと走ってきた人物がいた。
美しい金髪の髪の、私と同年代、もしくはそれより少し若いと思われる少女だった。
「ライラ先生! 今また黒斑病の患者さんが運ばれてきて……!」
「ええ、わかってる。私が帰る途中で発見して、この医院に運び込むように言ったの」
「そうですか……。あと、おじいちゃんがすぐに処置室に来てほしいって……!」
ロレッタ、と呼ばれた少女は必死さが滲む声でライラに言った。
「ロレッタ、患者の処置は私とノーマン先生でやるわ。まずはこの方たちを奥へ通して。さっきの患者さんの第一発見者よ」
ロレッタ、と呼ばれた少女が、そこで初めて私たちの存在に気がついたというように視線を寄越した。
途端に、ほぼ全裸で突っ立つレオを見たロレッタは小さく悲鳴を上げ、顔を真っ赤にして顔を背けてしまった。
「おっ、おい! 別に俺は変態じゃなくてだな……!」
「ロレッタ、彼はさっき運ばれてきた患者さんの担架に使う服を提供してくれた人よ。くれぐれも失礼のないように。あと、担架の服を返してあげて。いいわね?」
はい、と蚊の鳴くような声で返答したロレッタを見届けて、ライラはバタバタと医院の奥に引っ込んでいってしまった。
「こ……こちらです」
再びか細い声で言って、少女はなるべくこちらを見ないように気をつけながら、私たちをいざなって歩き始めた。
「面白そう」
「続きが気になる」
「頑張れ農協聖女」
そう思っていただけましたら下から★★★★★で評価願います。
何卒よろしくお願い致します。
【VS】
新連載始めました。
こちらもよろしくお願いいたします。
『自分の食い扶持ぐらい自分で稼いでくださいませ、王子様 ~追放された先で山暮らしをエンジョイしていたら、そこに浮気相手に国を乗っ取られた元婚約者のヘッポコ王子が転がり落ちてきた話~』
https://ncode.syosetu.com/n5150hg/
『私が育てました! ~魔女ですが拾って育てた双子のチート美兄弟に溺愛されてます。聖女? 異端審問? ウチの息子たちには指一本触れさせません!~』
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