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孤独のダイエット

更新が遅れました! すみません!

「いち、に、いちにさんし、おーえす」

「グフッ……! いち、ハァハァ、に、さん、よん、おー……うぇ……!」

「いち、に、いちにさんし、おーえす」

「おェ……おーえす……!」


私の前をゆくレオのタッタッという軽快な足音が耳に心地よい。

それに引き換え、全身の関節部分が今にもバラバラになりそうな私は、歩くよりも遅いスピードでよろめきながら、バタバタと汚い足音を立ててこの拷問に耐えていた。


身体についた肉というのはこれほどまでに足取りを重くするものなのか……酸欠に加熱する頭の奥で私は真剣に驚いていた。

少なくとも、私がネリンガ村とハノーヴァー邸を往復していたときはこれほどまでに身体が重くはなかった。

しかし、今はどうだろう。走り込みを開始して十分で、私の足は地面を擦るほどの高さにしか持ち上がらなくなり、息が切れ、汗というよりは肉汁と言えそうな粘性の高い謎の液体が全身をびちゃびちゃに濡らし始めた。

まだ半分しか来ていないというのに、私の上半身はフラフラを通り越してグラグラと揺れ始め、膝が生まれたての子鹿のように笑い始めた。

肉汁に塗れながら苦悶の表情を浮かべる私を、レオは時々振り向きながら励ましの言葉をかけてくれる。しかし私にはそのどれにも答える気力は既にしてなかった。


「おいアリシア様、しっかり腿を上げて走れ! そんなんだと躓いて転んで怪我するぞ!」

「あばッ……! わ、わかり……げほっ、わかっ、ハァッ、うえッ……! わ、わかり、ましたわ……!」

「頑張れ頑張れ! その子豚みたいな体型を妹に笑われたいか! 王子を見返したいんだろ! これが第一歩だ! さぁもう一息頑張れ!」

「う……! がんばる……がんばりましゅぅ……!」


私の顔はいまや肉汁と脂に塗れ、二目と見られない顔になっていただろう。

それでもレオの必死の激励に僅かばかりの力を与えられ、私はガクガクと揺れながら村の周りの田舎道を走り続ける。


しばらく、半ばヤケクソの勢いで走り続け、村の外れまでやってきた。

こんもりとした林の木陰に差し掛かったあたりでレオはゆっくりと歩調を弱め、そして私を振り向いた。


「よし、ここでちょうど半分ぐらいだろう。ここ、小川があるから水を飲んで休んでくれ」


そう言われて、私はレオに示された林の木陰にフラフラと吸い寄せられた。

服が汚れるのも構わず、どしっと重い尻を地面につけた私は、首にかけた布で滅茶苦茶に顔の肉汁を拭った。


一息ついたら、次は水だ。もう全身は振り絞った肉汁のせいで極度の脱水状態にあるのだ。水、水水水……。

私は生ける屍のように地面に四つん這いになり、カクカクとした動きで清らかな小川に近づいた。

両手をついたままぐっと水面に顔を近づけ、顔半分を水につけながら直接水を補給する。

しばらく胃がタプタプになるぐらい過剰に水を飲み、水面から顔を上げると、なんだか怯えたような表情でレオが私を見ていた。


「……俺の前ではいいけど、人前ではやらないほうがいいと思うぜ、今の水分補給」


知ったことか。

公爵令嬢が両手で丁寧に水をすくってお上品に水分補給すると思ったら大間違いだ。

私はまるで生き血を貪った直後の吸血鬼のような所作で口元を拭った。


「仕方ないでしょう……私だって生きてるんですから……」

「そりゃそうだけどよ……仮にも貴族の令嬢だろ、アンタ」

「んぐ……貴族令嬢だろうが神だろうがつつけば血も出ますし走れば汗もかきます……水なんていくら飲んでもタダですし好きなだけ飲ませてもらいますわよ……」

「あはは、違いねぇや」


レオがからからと笑い、それから、何故なのか安心したような顔で私を見た。




「アリシア様――アンタ、最近ちょっと変わったよな」




えっ、と私の方も驚いてレオの顔を見返した。

レオは私の傍らに胡座をかいて座り、首だけを伸ばして私の顔をじーっと眺めた。


「――えっ、なんです?」

「なんつーか、失礼な言い方なんだけどよ……最初に出会った時、アリシア様ってあんまりそういう冗談とか言わない人なんだと思ってたけどさ。最近は何だかよく笑ったり冗談言ったり、前より見てて面白いよ」


レオは私の目をまっすぐ見て続ける。


「俺たちが初めて出会ってからしばらく、アリシア様って表情乏しかったもんな。誰かに死ねって言われたらハイそうしますってポイと身投げしそうだったもの」

「……流石にそれは言いすぎですわ。私だってそこまで聞き分けよくいられません」

「感覚的な話だよ、感覚的な話。とにかく何ていうかなぁ――透明人間みたいだったもんなぁ、アリシア様」


随分ガサツで悪しざまな言い方だったけれど、その指摘は多分、当たっていると思う。

なぜなら私は妹に聖女と婚約者を奪われたときだって怒るとか泣くとか出来なかったほどに自分の感情に鈍感な女だったのだ。


いや、鈍感だったというより、鈍感になっていたのか――レオの指摘は私にそんな感想を抱かせた。

聖女はその名を戴いた瞬間からひとりの人間ではなく、人々の安寧と平和のために生きる存在となるのだ。

だから私は余程のことがない限り、笑ったり泣いたりすることを意識的に禁じてきたと思う。

なぜなら先代の聖女様がそうだったから――。


「しかしな、アンタ自分で気づいているのかどうかは知らないけど、日に日にいい表情になってきてるよ。なんていうか――楽しそうだ。ロラン様のお陰だぜ」


うぇ? と私はレオを見た。


「ロラン様の――?」

「そうとも。気づいてるだろ? ロラン様は常日頃、アンタからなにか表情を引き出すように配慮してる。あの人はアンタの笑った顔や怒った顔が見たいんだ。あの人は本当に優しいお人だよ」


え、そうなの――? と私はポカンとしてしまった。

レオは「気づいてるだろ?」と言ったが、私は恥ずかしいことに――全くそうだとは気づいていなかった。

確かにロランと一緒にいると心が安らぐのは間違いないけれど、それは実はロランが飾らない性格だからではなく、彼の必死の配慮のお陰――なのかも知れない。

もしそうなら、私がロランに一方的にやすらぎを見出す傍ら、私はロランに一方的に負担を強いていることになるのかもしれない。


思わぬ指摘に、私はシュンと下を向いた。


「そうなんですかね……私、彼に負担掛けてるのかしら……」


私が言うと、レオが即座に否定した。


「それはアンタが負担って呼ぶべきもんじゃない。婚約者として当然の努力――男の甲斐性ってやつだよ」


だから気にすんな、というように、レオは浅黒い顔でにかっと笑った。

さすがはレオ、こういうときでも配慮を忘れないいい男だ。男の甲斐性――こういうことをこのいかつい顔からさらっと口に出すところも、如何にも彼らしい。


「さぁ、休んだならまた走るぞ」


そう言ってサッと立ち上がったレオに、私は「へ?」と間抜けに訊き返した。


「え? あの、まだ五分と経ってないんですけど……」

「はぁ? 水飲んで息が整えばそれでいいだろ。ほらほら走れ! 脂肪を燃焼させるには継続的な運動が必要だ!」

「そ、そんな殺生な――!」


尻を叩かれるように立ち上がらせられ、私は再びひぃひぃと情けない声を上げて走り始めた。




「面白そう」

「続きが気になる」

「痩せろや農協聖女」


そう思っていただけましたら下から★★★★★で評価願います。

何卒よろしくお願い致します。



【VS】

短編書きました。

こちらもよろしくお願い致します↓


『じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」と喋らいでギルドをぼんだされだ青森出身の魔導士、クズスキル【翻訳】の新米回復術士と共にツートな無詠唱魔術で最強冒険者ば目指す~』

https://ncode.syosetu.com/n8891ha/

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『がんばれ農強聖女』第三巻、2022年11/19(土)、
TOブックス様より全国発売です!
よろしくお願い致します!
― 新着の感想 ―
[良い点] 「肉汁」だの「脂」だの「子豚」だの、なんだか今回はえらく美味しそうなアリシアだと思ったのですが。 感情表現に端的に現れた「生気」とでもいったものをアリシアが取り戻したのなら、思った以上に良…
[良い点] つまり、ロラン様が一緒に走れば 彼がかつて一度も見た事ない顔を、死ぬほど拝めるという寸法ですね
[気になる点] どんだけテブになったんだ?
2021/06/23 18:20 退会済み
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