ロング・タイム・ノー・シー
【VS】
タイトルにあります通り、この度この『がんばれ農協聖女』が書籍化する事となりました!
出版社や時期についてはおいおいご報告致します!
この結果も、ひとえにアリシアに、ロランに、この作品に向かって
「がんばれ! がんばれ!」と言い続けてきてくれた読者の皆様のお陰であります!
今後もこの作品をよろしくお願い致します!
「やぁスコット、久しぶりだね。遠路はるばるご苦労」
「あぁロラン様とアリシア様。ロング・タイム・ノー・シー……いえ、お久しぶりです」
マルカノー商会のスコットは異国語混じりの挨拶とともに右手を差し出してきた。私がおっかなびっくりその手を取ると、スコットは白い歯を覗かせて実に爽やかに微笑んだ。
私はその笑顔にどうしても上手く微笑み返せなかった。何しろ、ロランの思いつきにより、私は既にスコットとその親元であるマルカノー商会の商品となった人間である。
今この瞬間にも彼に値踏みされ、いつカネになりそうなアイディアをせびられるかと思うと気が気ではなかった。
そんな不安が表情に出ていたらしく、スコットは「そんなに緊張してもらうことはありませんよ」と、これまたスマートに言い、例によって許可も求めずさっさとソファに腰を降ろしてしまった。
「さて、あれから二月も経つかな。どうだい、あの青い薬の首尾は?」
ロランが水を向けると、スコットがニヤリと笑った。
「ええそれはそれは、とんでもなく好調ですよ」
とんでもなく、というぞんざいな言い回しに力を込めて、スコットは笑みを深くした。
「クレイドル王国内だけでなく、我らがヴェルカ王国でもこの青い薬は飛ぶように売れています。そして確実に効果が上がっている。病害に苦しめられていた農民たちはもう狂喜乱舞ですよ。もちろん、上の覚えが目出度くなった私の方もね」
スコットの言葉に、私はほっと安堵のため息をついた。ネリンガ村の試験だけでは不安だったけれど、どうやらその効果は気候風土を選ばないらしい。
よかった、と思わず呟いた私を見て、スコットは組んでいた手を揉みながら意味深な笑みを浮かべた。
「それでアリシア様、実は事後承諾という形になってしまうのですがね……」
「は――はい?」
「私共の商会の方で、あの青い薬に勝手に商品名をつけさせていただいております。青い粉だの青い薬だの硫酸銅石灰混合液だのという名前はやはり商品的にキャッチー……いえ、印象的ではないのでね」
スコットは少し面白そうに言った。
「我らマルカノー商会はあの青い薬を『聖女アリシアの秘薬』という商品名で売らせて頂いております」
うぇ――!? と私はまたもや慌てた。
聖女アリシア!? 私の名前を使ってるというのか! しかも聖女!?
私が酸欠の魚のようにパクパクと口を開け閉めしていると、ロランが代わりにカラカラと笑った。
「聖女アリシアの秘薬! いいね、僕は気に入ったぞ。君なら気の利いた名前をつけてくれると思っていたんだ」
「あはは、お褒めいただいて光栄です」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
流石にこればっかりは流されるわけには行かない。私は大慌てに慌ててスコットに詰め寄った。
「か、勝手なことをなさらないでください! 私の名前を使ったんですか!? 私は聖女じゃないんですよ! 勝手に聖女なんて言葉を使ったら教会がなんというか……!」
「残念ながら、これは我々がつけた名前ではないのでなんともしようがありません。いわば我々がその仮称を追認して使っているような形でして」
さして申し訳ないとも思っていなさそうな声と、事務的に下げられた眉とでスコットは言った。
「聖女の秘薬、というのはいわば我々の顧客である農民が勝手に呼び始めた名前なのですよ。既にこれがどこのなんという人が世に出したのか、驚くべきことに農民は口コミのネットワークで既に隣国まで広げている。これは間違いなくクレイドル王国の北、ハノーヴァーに現れた聖女様の恩寵であり、聖女様はこの薬と同じ、澄んだ青い瞳をしておられるとね……我が商会は否定するのも面倒なので仮にそう呼んでいるだけですよ」
流れるように言い訳されて、私はほとほとスコットという男のスマートさに呆れてしまった。
要するに、嫌でも私には納得してもらうぞ、という話を持ってきただけで、私の意志など最初から関係ないと、こう言いたいらしい。
それでも……ぶう、と私はまるで子供のように頬を膨らませた。
正直な話、前回も思ったのだけれど、ロランとスコットは若干私をからかって遊んでいるフシがないだろうか。
私が顔を青くしたり赤くしたりするのを見ているのが楽しいというだけの理由で、わざわざこんなことをしているのではないか。
私の不満の表情を見たロランは更に笑った。
「おいおいスコット、あんまりからかうからアリシアがご立腹だぞ。……まぁ、君が最初にそんな話をしたということは、何か彼女のご機嫌を取れるだけのものを持ってきたんだろう?」
えっ? と私がスコットを見ると、スコットは「当然です」と大きく頷いた。
「アリシア様は当商会の大事な商品でいらっしゃいますからね。聖女様に新しい靴を履かせるのは我が商会の務めです」
そう言ってスコットは持参した鞄を膝の上に載せ、テーブルの上に一冊の本と、小さな紙包みを載せた。
「当商会が本日、アリシア様にお持ちした靴はこれです。除虫菊――という植物の種です」
「面白そう」
「続きが気になる」
「頑張れ農協聖女」
そう思っていただけましたら下から★★★★★で評価願います。
何卒よろしくお願い致します。
【VS】
活動報告の方でもお知らせいたしましたが、当作品の書籍化に当たり、
噂の「書籍化作業」というのが始まって来ております。
つきましては今後、少し更新の速度が遅くなることが予想されます。
とりあえず水・金曜日には一話だけでも更新しようと考えておりますので、何卒ご了承ください。





