犯人をどう捕まえるか
「それで――ロラン様、今後はどうするおつもりです?」
館への帰り道、私は水を向けてみることにした。
ああ、とロランは空の向こうの入道雲を見ながら言った。
「とりあえず、僕はこのことは穏便に済ませたいんだ」
やはりそう来るか、と私も安堵した。
どう考えても、ロランは悪いことをした人間に容赦なく罰を下すような人間ではない。
「馬鈴薯への誤解が解けるならそれに越したことはない。無論、レオとナミラには謝罪はさせるつもりだけどね。それに、この村からあまり犯罪者を出したくないんだ」
「それはそうですわね。最初からあまり村人の態度を硬化させたくはありませんから」
私もそれには同意した。
ただでさえ評判の悪い馬鈴薯であるし、その馬鈴薯畑を荒らした側の人間にシンパシーを感じている農民がいたら厄介だ。
領主の息子とその婚約者は自分たちの味方ではないと判断されるどころか、奴らは毒リンゴを広めようとする悪魔の手先だと言われた日には事が滅茶苦茶になってしまう。
一見すればこの問題も、迷信や偏見に基づく馬鹿馬鹿しい話だが、かといって一笑に伏せないのが厄介なところなのだ。
私が見習いとして先代の聖女様に付き従ったとある村では、馬鈴薯の栽培を禁止する掟を勝手に定めていたり、罰則付きで農民に馬鈴薯栽培を強いる領主の振興策に反抗し、一揆寸前に陥っていた村まであった。
土台、どこの農村でも、狭い田畑をやりくりしながら、常にかつかつの暮らしを強いられているという事情もある。
見た目もグロテスクで、価値もわからない馬鈴薯などに割く農地がない、という切実な事情も、馬鈴薯の普及に歯止めをかけているのだ。
あくまで穏便に、馬鈴薯に対しての先入観を解き、この村で栽培していくようにしなければ意味がないのだ。
「ロラン様、ちょっと考えていたのですけれど」
「ん? なんだい?」
「もしよければ、なんですが……この村で馬鈴薯の講習会を開いていただくわけにはいかないでしょうか」
講習会? とロランは首をひねった。
「そう。この村はまだ馬鈴薯が根付いていないどころか、おそらくどんな作物なのかも知らない人が多いと思うんです。そこで、私が植え方や育て方、食べ方をレクチャーすれば、村人の誤解も解けると思うんです」
現状では、村人の馬鈴薯に対するイメージは、作物どころか悪魔のリンゴであって、広めようとしても育て方すらわかっていないのだ。
それであれば、逆に育て方を教えて、これがれっきとした作物であり、美味しい調理法まで教えてやれば、村人の理解も進むかもしれなかった。
ロランが大きく頷いた。
「なるほど、それはいい考えだ。早速村長のルーカスに相談して、各地区の代表者を集めるとしよう」
ロランが大きく頷いた。
「それと並行して、芋荒らしの捕縛も、ですわね。どんな人間なのか楽しみですわ」
私が言うと、えっ? とロランが私を見た。
「アリシア……犯人が捕まったらどうするつもりなんだ」
「お説教しますわ」
私は間髪入れずに答えた。
「いくら馬鈴薯に悪い噂があるとは言え、食べ物を粗末にする人は許せませんからね」
そう、食べ物を粗末にしない。
それは先代の聖女様の見習いをしていた五年間、絶対に守らされた一言だった。
聖女様は色んなことに厳しい人だったけど、食べ物の好き嫌いや食べ残しにはとりわけ厳しかった。
特に食べ物で遊んだり、粗末に捨てたりする場面に出くわすと、その晩のお説教はとんでもなく長時間になる。
おかげで、花も恥じらう十八歳の私は年頃であるにも関わらず、好き嫌いがまったくなく、多少のゲテモノ・痛みものなら臆することなく食べ、病まずに消化することができるような鋼の胃袋を持つに至ったのだった。
「食べ物を粗末にしたら相手が王様だろうがお尻百叩き。それがアリシア・ハーパー最大の掟ですわ」
シュッシュッ、と私が平手を素振りしながら笑うと、ロランが少し気まずそうに目線を逸らした。
「ん? どうしましたロラン様?」
「な、なぁアリシア……君はニンジン好きかい?」
「ああもちろん! 大好きですわ! 特に太いのが!」
「そ、そうか……」
ロランは何事なのかモゴモゴと口を動かした。
その反応はどこかで見たことがある……そう、それはまさに苦手な食べものを「残してもいい?」と親の所に訊ねに来る子供そのものの反応だった。
えっ、と私はロランを見た。
「まさかロラン様……ニンジンお嫌いですか?」
「うッ……!? う、うん、まぁ、好き好んでは食べない、かな……」
「あら、それはいけませんわ。後で食べられるようにしてさしあげます。食べ方を工夫すればきっと大丈夫になりますわよ」
「あ、いい! いらない! ニンジンは嫌いなんだ! 僕には本当にそう言うのいいから!」
「ダメですわロラン様。ハノーヴァーの令息はニンジンも食べられないと王都で噂になったらどうします? 家名に傷がつきますわよ」
「そ、そのぐらいで家名に傷なんかつかないだろ……!?」
「わかりませんわ。人の噂は七十五日、二月半もあったらどこまで広がるものなのか……」
そんな風に私たちが馬鹿話に興じていたときだった。
ふと、これから前を行き過ぎようとした家から一人の男が出てきて、私たちを見た。
はっ、と何かに気づいたような男の表情に、あ、と私たちも歩みを止めた。
「ああ、君はさっきの……ヨーゼフ、だったかな?」
「面白そう」
「続きが気になる」
「頑張れ農協聖女」
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