村の荒廃
八月の中頃、私たちはいよいよ四つの村へ視察に向かうことにした。
北西部の村までは馬車で半日。
石の多い道を馬車に揺られ、村に到着する頃にはすっかりと尻が痛くなっていた。
村は、想像以上に寂れていた。
窓から見える景色は、そこら中にかつては畑だっただろう荒野が広がり、もはや草木に埋もれて見えないカカシだけが過ぎた時間の長さを物語っていた。
そこら中に打ち捨てられたあばら家は、七年という歳月を物語るかのように崩れ、惨たらしく風化するままになっていた。
「ひどいものだな……」
向かいの席に座ったロランが、呻くように言い、眉間に皺を寄せた。
その目には深い悲しみと、これから直面するだろう困難に対する思いが複雑に湛えられていた。
荒涼とした村の風景を見ていると、私も暗澹とした気分になってきた。
これでは家屋の修復から始めねばならないだろうし、畑や水路など、一度断絶してしまった生活基盤を立て直すのは容易なことではないだろう。
「想像以上ですわね、これはまた……」
私が率直に言うと、ロランは曖昧に頷いた。
「僕もこの村には毎年来ているんだけれど、復興は遅々としてはかどらない。人がいなくなった場所に再び人を根付かせることがこんなに難しいなんて……」
ロランはその言葉とともに、眉間の皺を深くした。
領地思いのロランのこと、この光景を見ていれば私以上に焦燥が募るに違いなかった。
この村を本当に復興させることが出来るだろうか……私は不安になってきた。
――と、そのとき。
私の目に、あるものが飛び込んできた。
草むらに埋もれた、白くて丸いなにか。
そしてその中心に空いた、二つの黒い穴。
私は反射的に立ち上がり、馬車の御者に大声を発した。
「馬車を止めてください!」
その大声に驚いたように、御者は慌てて手綱を引いた。
ブルルッ、と不機嫌そうに鳴いた二頭の馬が歩みを止めた。
「ど、どうしたんだいアリシア?」
ロランが目を丸くした。
私は馬車を飛び降りると、その白い物体に歩み寄った。
「これは……」
私は、おっかなびっくりその球体の側にしゃがみ込んだ。
意を決して、それを拾い上げてみる。
途端に、落ち窪んだ真っ暗い眼窩が私を睨み返し、私は声なき悲鳴を上げた。
「アリシア、それは……!」
私に続いて馬車を降りてきたロランが、それを見て立ちすくんだ。
骸骨。
おそらく、飢餓で死に果てた、この村の人間のものだろう。
ごくっ、と、私は毒のように苦い唾を飲み込んだ。
「七年経っても、まだ弔われていない遺体があるのですね……」
私は、震える声でそう言った。
その骸骨は、もはや何も映していない両眼の穴を私に向けていた。
何故――。
何故これほどまでに貧しい暮らしを強いられなければならなかったのか――。
俺の悲しさ、苦しさ、辛さ、それは一体誰がもたらしたものなのだ――。
その骸骨が、そう私に語りかけてくるようだった。
その骸骨を見ていると、私の胸が締め付けられた。
どれほど苦しく、どれほど無念だったことだろう。
気が狂う程の飢えに苛まれ、この草むらに苔生した遺体。
飢饉という圧倒的な災害に見舞われ、抗いきれずに野辺に朽ちた人間。
その苦痛を想うと、私の中に激しい怒りと憤りが渦巻いた。
ぐっ、と、私は下唇を噛んだ。
まだ震えている手で骸骨を地面に置き、手を組んで女神様に祈る。
「――この遺体は後で丁重に葬ろう。アリシア、今はまず村へ向かうんだ」
同じく、悲しさと憤りを露わにしたロランが、抑えた声でそう言った。
私は小さく頷き、馬車へと戻った。
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