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復興計画

「僕らが復興を担当する村はリオール村、グラスゴー村、エリー村、セントラリア村の四つだ。この村は七年前の大飢饉で、ほとんど廃村同然になっている。現在、生き残った人間とその耕作地は、中央にあるセントラリア村に統合されている」




辺境伯夫妻からの要請があった次の日、私たちは先代の書庫で作戦会議を開いていた。

隣り合う村の詳細な地図を示しながら、ロランは矢継ぎ早に説明した。


「父上が言った通り、この村は昔はそれなりに人口がある村だった。だが七年前に飢饉が発生すると、人口が減り始めて歯止めがかからなくなった。僕らも穀物の放出や救済軍を派遣したけれど、ほとんど焼け石に水だった。村は壊滅状態に陥り、それを生き残った数軒の農家が残るだけになってしまった」


となると、一旦手放された耕作放棄地はこの七年のうちにほとんど原野に還り、再び耕せるようになるまでは相当に時間がかかるだろう。

再度入植者を募るとは言え、根本的に人口が減った村を立て直し、再び村にしてゆくのは簡単なことではない。


「更に村は山沿いにあり、ハノーヴァー領でも屈指の豪雪地帯だ。耕作可能な土地は限られていて、日照時間も短い。村にはひっきりなしに山背が吹き込んでくる。農業以外に特段の産業もない。まぁ、正直に言えばあまりにも恵まれない土地だ」


ロランの正直な口調は、これから私たちが直面する苦難を想像させて有り余った。

私はいろいろなことを考えながら、村の地図を眺めた。


確かに、四ヶ村は西側の峻厳な山々にへばりつくようにして開墾され、四つの村をそれぞれ分断するように、中央には川が流れている。

経験的に、こういう川と山に挟まれた土地は石や礫が多く、土も痩せている場合が多い。

それに、山背による低温や日照不足の少なさなど、農業をするにはあまりにも困難が多い。


村の見取り図を見ていると、胸がせつなくなる思いがした。

おそらく、この四ヶ村に住んでいた住民の数は数百にも達していたことだろう。

その全てが飢餓の前に死に絶え、埋葬されることもない骸がそこらじゅうに転がる地獄。

父母、そして近隣の住人だった人たちが、僅かな食料を奪い合う地獄。

一度は本物の地獄と化したこれらの村を復興させることが出来るだろうか……。

私は不安でならなかった。


「アリシア、どう思う? どうすればこの村を復興させることができるだろうか」


しばらく無言でいると、ロランが遠慮がちに訊いてきた。

私は少し考えた後、言った。


「――どうも、この土地は根本的に麦の栽培には適していないような気がしますわ」


私は正直な感想を口にした。


「税は麦で支払うために、麦を栽培するのは仕方ないでしょう。ですが、この土地は穀物を育てるにはあまりにも困難な土地に見えますわね」

「それは僕も同感だ」


ロランは大きく頷いた。


「今度、再度入植者を募る場合、農業に慣れていない人たちが応募してくることも考えられます。麦は育成に手間が多いしノウハウも要る。もっともっと栽培が簡単な作物を考えるべきです。それがひとつ」


私は矢継ぎ早に言った。


「それに、一番重要なのは作物ではない。農民たちの連帯です」


連帯、とロランが鸚鵡返しに言い、私は頷いた。


「そう、連帯。ここがかつて村であった時はあったもの。労働力の貸し借りや相互扶助――いわゆる近所付き合いです。でも、ここに入ってくる入植者たちにはそれがない」


そう、どこの農村でも、基本的に存在するもの。

それはあまりにも弱い農民たちが手と手を取り合い、困難に挑もうとする精神。

それは天に抗い、どうにか制御し、利用して生きてきた農民たちの生活の知恵。

その最大の知恵である連帯が、人の消失と共に消えてしまったのは痛いことだ。


「その他にも、土地の分配方法や税率の設定、村の組織化……考えるべきことは山積みですわ」

「確かに、村は壊滅してしまっているからな。農業だけ振興すれば全てが解決するわけじゃない。困ったな……」


ロランの言葉に、私もその通りだと頷いた。

村の復興となれば、根本的にズタズタになった人間の生活を復興させるということで、食料と収入さえあれば何でも上手くいくわけではない。


それに、腐っても私とロランは貴族の子弟だ。

貴族と農民、その間には単に身分差というだけではない、圧倒的な差がある。

それが証拠に、七年前の飢饉の最中でも、私たち貴族は農民と違って一度も飢えることはなかったのだ。

そんな貴族たちが突然やってきて、事情もわからないのに色々と指図をすれば、ネリンギ村のようにお互いに信頼関係が築けている村ならいざ知らず、ただでさえ連帯を欠いている村に更に亀裂を入れる結果にもなりかねない。

何にせよ、私たちと村人たちとの間に信頼関係が築かれなければ、私にいくら農業の知識があったところで意味がないのだ。


信頼、か。その信頼を築くにはどうしたらいいだろう。

色々考えて、私はふと、あることを思いついた。


一瞬、私はその思いつきをロランに話してみようか迷ってしまった。

確かに、この方法ならその壊滅した四ヶ村の村人たちと信頼関係を築くことも出来るだろう。


だが、私はともかく、そんなことにロランをつき合わせてしまっていいのだろうか。

嫌な顔はされないだろうか、とんでもないことだと一笑に伏されたりはしないだろうか。

私はそう考えてから――やがて決意を固めた。


「ねぇロラン様、少し相談があるのですけれど」


私が言うと、ロランが物思いを打ち切って私を見た。


「ん、どうした、アリシア?」

「あの、今度の村のことなのですけれど……」


いや――きっとこの人なら、私の言うことを否定したりはしないだろう。

この人は、この人なら、きっと私の言うことを信じてくれる。




そんな確信と期待とともに、私は思いついたことを話し始めた。




「面白そう」

「続きが気になる」

「頑張れ農協聖女」


そう思っていただけましたら下から★★★★★で評価願います。

何卒よろしくお願い致します。

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『がんばれ農強聖女』第三巻、2022年11/19(土)、
TOブックス様より全国発売です!
よろしくお願い致します!
― 新着の感想 ―
[一言] セントラリアというと,坑内火災でゴーストタウンになったのが思い浮かびますね。
[良い点] 詳しく聞けば聞くほど壊滅的な状況ですね。麦の代わりになる作物と農民たちの連帯を築く方法、問題は山積みです。信頼関係というキーワードに、(ひょっとしてタイトル回収かな!?)と勘繰ってしまいま…
[一言] 来るかタイトルコール!?
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