表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/138

妹と婚約者に裏切られていた

「見て見て! お姉様、新しいドレス! お姉様のより綺麗でしょ!」




ノエルは天真爛漫な子供そのものの笑顔で言った。

私はどうにかしてノエルに笑顔を向けた。


ノエルは子供の頃から、嫌味なくこういう言い方ができる。

お姉様のよりいいでしょ? 

お姉様のより多いでしょ? 

お姉様のよりも綺麗でしょ――?

それは多分、本人の中では嫌味ではない。

ただただ、客観的な事実を確認しているだけなのだろう。

だが歳を経るごとに、その中に確実な私への、確実な侮蔑の感情が滲み始めていたことも――。

おそらく、本人は私が気づいていないと思っているのだろう。


「お姉様、ユリアン王子ってどんな方なの? とてもカッコイイ方なのは知ってるけど、私、彼のこと何も知らないから! ねぇ、好きなものとかあるの?」


私は全ての質問を曖昧な言葉で濁した。

妹ながら、私はその旺盛な恋心に圧倒されていた。

ユリアン王子がどんな人間だろうと、ノエルならすぐに打ち解けられるよ。

私はぎこちない笑顔のまま、ずっとそんな意味のことを繰り返していたと思う。


「聖女様、馬車の用意ができました」


聖女の従者が恭しくそう言い、ノエルは返事をした。

私と両親は彼女の見送りに出た。


お幸せにね、母はノエルの両手を握ってそう言った。

国王陛下には失礼のないように、と父は言った。

ノエルが聖女になることに対してではなく。

ノエルが第一王子の婚約者になることに対して。

両親の本心はもはや隠すこともなく向けられていた。


最後に、私の番になった。

私は、ノエルの手を握り、そしてその目を真っ直ぐに見た。


「今年は春先まで低温が続くでしょう。その後はきっと冷夏になるわ。6月の麦の出穂までこれが続いたら今年は飢饉になるかもしれない。麦の生育状況から目を離してはダメよ」


ノエルは戸惑ったように私を見た。

私は真剣な表情と声とで言った。


「麦に病気がついたなら、詳しい人に対処法を聞いて。冷夏になったら他の作物も生育が芳しくならないかも知れない。ユリアン王子に救荒作物への切り替えを進言して。どんな些細な兆候も決して放置してはダメよ」


両親のうんざりしたような視線が背中に痛かった。

最初から最後まで、ノエルのお小言を聞き流す表情は変わらなかった。

だが、私がノエルに、双子の姉として言う事ができるのはこれだけだ。


「いい、ノエル? このことだけはきっと忘れないで。あなたは王太子妃であること以上に聖女なのよ。それをきっと忘れないで――」


そこまで言った時、ノエルは私の顔を見て、嗤った。

その目には、私が生まれて初めて見る、はっきりとした嘲りの表情が浮かんでいた。


その表情に私が気圧されていると、突然、ノエルが私の首元に抱きついてきた。

突然の行動に驚いていると、ノエルが私の耳元に囁いた。




「馬鹿なアリシア。そんなんだから誰からも煙たがられるのよ」




その声の冷たさに、私の胃の腑が急激に冷えた。




「いい、アリシア? 野暮なあなたはわかってないようだから最後に教えてあげる。あなたに聖女の地位を譲るように働きかけたのは私じゃないわ。ユリアン王子なのよ」




耳を疑った。

私は目だけを動かしてノエルを見た。




「半年前の舞踏会、覚えてるでしょ? あの時よ。あんな面白みのない女よりも、華やかで優しい君の方がよほど聖女として相応しい――少し水を向けただけで王子はポンポンあなたの不満を口にした。あとは楽なものだったわよ。ならば私がって手を挙げるだけでよかった。王子は救われたみたいに私に笑いかけてくれた――」




くすくす、とノエルは悪魔そのものの声で言った。

ひとしきり笑った後、ノエルは低い声で言った。




「二度と私の人生に顔を出さないで、アリシア。私、アンタがずっと鬱陶しかった。野暮ったくて可愛げのないアンタと双子ってだけで同じに見られるのが、私にはたまらなく嫌だった。土臭くて泥臭いアンタにはユリアン王子なんか勿体ないわ。私が貰ったげるわね」




嘘だ。

私は頭を振ってそれを否定したかった。

ユリアン王子はそんな人じゃない。

私は彼にまで裏切られていない。

そう、大声で叫びたかった。


でも――できなかった。

それは、私があることに考えが至ったからだ。


私は、ユリアン王子の笑顔を見たことがない。

いや――彼に微笑みかけられたことすらなかった。


今まで曲がりなりにも婚約者同士だったユリアン王子。

彼のあの顔の下に潜んでいたのがどういう感情だったのか。

私を見るあの目にどんな嘲りや不満が含まれていたのか――。


それを考えると、世界がぐらぐら揺れるような気がした。


「ああ、愛するアリシアお姉様。必ずや聖女の努めを果たしてみせますわ」


両親に聞こえるようにそう言って――。

ノエルは私から身体を離した。


その時の私は、どんな顔を浮かべていたのだろう。

私があの時感じた気持ちは、驚愕、絶望、そんな言葉で表象し切れただろうか?


私は裏切られていた。

家族にも、婚約者にも。

そして――血を分けた妹にも。


時空にぽっかりと空いた穴に、世界でたった一人、私だけが落ち込んでいた。

それからの光景は、全てが私を無視して展開しているかのようだった。


「それじゃあみんな、行ってきます!」


ノエルは快活にそう言って馬車に乗り込んでいった。




両親だけが、手を振りながらずっと見送っていた。




「面白そう」

「続きが気になる」

「頑張れ農協聖女」


そう思っていただけましたら下から★★★★★で評価願います。

何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
163794872.jpg?cmsp_timestamp=20211210120005

『がんばれ農強聖女』第三巻、2022年11/19(土)、
TOブックス様より全国発売です!
よろしくお願い致します!
― 新着の感想 ―
[一言] このおポンチ王子と姫は酷い目に遭ってもらってほしいのですが、民たちが気の毒でなりませんね。
[良い点] うらぎり [一言] おおっ 厚みが増えてる
[一言] 農協聖女の響きが面白すぎて、あの短編の連載版だと気が付かなかったーーー! 短編はリアリティのあるシビアな設定が魅力でした。 そして、追加で明かされた王子の言動により、さらなる失望が積み重な…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ