養蜂家を招聘する
はい、と返事をすると、ロランが部屋に入ってきた。
「アリシア、ヒルデブラント領から養蜂技師をお呼びしたよ。挨拶してくれるかい?」
ああ、そうだった。
二月ほど前、私が提案したハノーヴァー領での養蜂の話。
その際、ロランを通じて養蜂の専門家を招聘していたのだけれど、その養蜂家がやっと到着したらしい。
今行きますわ、と一言添えて、私は書庫を出た。
一階に降り、玄関を出ると、一人の赤ら顔の男性がにこにこと笑っていた。
ロランが私を促して
「アリシア。彼がヒルデブラント養蜂園の代表を務めるダグラスだ」
「ダグラス様、お初お目にかかります。アリシア・ハーパーと申します」
「ヒルデブラントのダグラスと申します。以後お見知りおきを」
男はそう言って、麦わら帽の下の顔を皺だらけにして微笑んだ。
赤銅色に灼けた肌と、溢れる歯の白さが少し可笑しかった。
「ヒルデブラント領からわざわざお越しいただき有難うございます。遠路はるばる大変だったでしょう?」
「いえいえ、この程度の移動はなんでもありませんよ。それより、このハノーヴァーはとてもいいところですね」
早速と言える感じでダグラスは話し始めた。
「ハノーヴァーは山が豊かですな。更にヒルデブラントよりもうんと北にありますから、花の咲き始めが遅い。これなら上質の蜂蜜を時期をずらして市場に流通させることができそうです。この地で養蜂を、と言ったアリシア様の目論見は正しかろうと思いますな」
さすがプロと言える言葉でダグラスは言った。
ヒルデブラント辺境伯領はここより遥か南東に位置する、この国の一大養蜂地帯だ。
この国の蜂蜜酒はほとんどヒルデブラント領の蜂蜜で生産されており、それがヒルデブラント領の重要な特産品である。
「ダグラス、蜂は連れてきてくれたかい?」
「ええ。とりあえず三十箱ほどを馬車に積んであります。ここから村までは数里の道のりでしたな。早速運んでしまおうかと思いますが、よろしいですか?」
「ああ、先方には手紙で伝えているから問題ないはずだ。――どうだいアリシア、彼に同行するかい?」
ロランの何気なく付け足された一言に、私はロランを振り返った。
「いいのですか?」
「君ならきっとそう言い出すと思ってね。もう馬車も別に用意させてるよ」
ロランはそう言っていたずら小僧の笑みで笑った。
全く、まだ出会って三ヶ月程度しか経っていないのに、この人は私という人間をよく理解してくれているものだ。
もちろんついていきますわ、と即答してしまった私も、よくよく子供っぽいものだと苦笑しながら、私はいそいそと外出の支度を始めた。
「面白そう」
「続きが気になる」
「頑張れ農協聖女」
そう思っていただけましたら下から★★★★★で評価願います。
現在、ポイントがめちゃくちゃ滞っているので何卒よろしくお願いいたします。





