7.ダンジョン探索(3)―その様子を見て初めて安堵の声を上げた
「リジェネレイト!」
アイリスがメルティラに対して治癒の魔法をかけ続けている。
大型オーガの突進に対してメルティラは二人を守るために体を張って食い止めたが、その時に大きく負傷してしまった。
「アイリスさん! メルティラさんは大丈夫か!?」
大型オーガを引き付けその攻撃を躱しながら、ロノムがアイリスに向かって叫ぶ。
「申し訳ありません……! 私は……大丈夫です……!」
立ち上がろうとするメルティラをアイリスは小さな体で押し止める。
「ロッさん! 3分です!! 3分いけますか!? メルちゃんも3分安静!!」
「了解だ! その3分間、命を賭して食い止める!!」
ロノムはオーガに対して向き直り、愛用のハンドアックスを構えた。
と、同時に知能を持たないはずのオーガが何やら呟くと、右手から生成された火球がロノムに向かって飛んでくる。
「な!? オーガが魔法を使うのかよ! 聞いたことないぞ!!?」
間一髪火球を躱しながらロノムが文句を言ったが、オーガには聞き入れて貰えない。
追撃の火球が次々とロノムに向かって飛んできた。
雨霰のように降り注ぐ火球であったが、火球自体の速度は見切れない程ではない。全てを避けきったロノムは反撃に出る。
「たっ!」
魔法詠唱の隙をつきオーガの太腿にハンドアックスの一撃を入れる。
が、致命傷どころか動きを止めるまでにも至らない。
逆にオーガの左手による一撃を貰ってしまい、ロノムは大きく吹っ飛ばされた。
「俺だってつい最近までは防衛士やってたんだよ……! 攻撃を受けるなんてのは慣れてるわ……!!」
致命傷は躱し再び体勢を立て直す。
しかしアイリスがメルティラの治癒に全力を尽くしている以上、今はロノムが相手の攻撃を受け続けなければならない。
下手に攻撃に向かうよりも今は回避に集中してメルティラの復帰を待ち、メルティラが復帰してから攻撃に転じる方が得策だろう。
火球の嵐と強烈な打撃を掻い潜りながら、ロノムは時間を稼ぐ。
このまま相手の魔力が尽きてしまえば儲けもの、魔力がなければ火球を放てず、ロノム一人でもオーガを倒せるかもしれない。
「うお! 熱っちぃ!」
しかしそんな皮算用はうまくいかなかった。
火球の一つがロノムの右足を直撃し、体勢を崩す。
その隙をオーガが見逃さない。
大きく振りかぶった右ストレートがロノムを襲う。
だめだ……! 避けきれない……!!
オーガの一撃は強烈だ。
何の装備もなく無防備な状態でその攻撃を頭部に受ければ、頭蓋骨は粉砕しそのまま即死するだろう。
ロノムは眼前に近づくオーガの右手を呆然と眺めながら、刹那の内に死を覚悟した。
が、その拳はロノムへと届かない。
「ロノム様! お待たせいたしました!!」
鈍い打撃音と共にロノムの前に人影が立ち塞がる。
戦列に復帰したメルティラが大盾を構え、オーガの攻撃を力強く受け止めていた。
「アイリスさん! なんでもいい!! なんか攻撃力が上がるやつ……!!!」
絶体絶命の状況から一転、大きなチャンスが生まれた。
メルティラの復帰を確認しすぐさま体勢を整えオーガの長い右手を駆け上がりながら、ロノムが叫ぶ。
「よしきたー! すっごい一撃期待してるぴよーーー!! 響け!! ライトニング・ブレイド!!!」
テンション爆上がり気味のアイリスが魔法を発動すると、小さな落雷と共にロノムのハンドアックスが帯電する。
「こいつで……終わりだ!」
大きく飛び上がったロノムは空中でハンドアックスを振りかぶる。
自身の体重とハンドアックスの重みを加えた気合の一閃は重力を味方につけながらオーガの頭部を粉砕し、勢いそのままに胸部付近まで斬り裂いた。
同時に鋭い電撃がオーガの身体全体を駆け巡るとその肉を焦がし、巨体のオーガは断末魔を上げながら倒れこむ。
………………
ロノムが着地し僅かな静寂が支配した後、上半身から吹き出し続けていたオーガの体液は蒸発し、その体は砂へと変貌していった。
武器を構えたまましばらく動けなかったロノムとアイリスとメルティラであったが、その様子を見て初めて安堵の声を上げた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
少しでも面白いと感じて頂けましたら、評価・ブックマークをして頂けると大変嬉しいです。