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43.ダンジョン探索(3)―私にも分からん……こんなことは初めてだ……

「行きますよ!」


 ロノム達が眷属の相手をしている間、メルティラは自分の背丈の倍以上はあるヴィーヴル本体をうまく抑え込んでいた。

 


 ヴィーヴルも両の手でかぶりを振りながら空中に魔法陣を展開し、あるいは火炎、あるいは氷、そしてあるいは光の矢といった多彩な魔法でメルティラを迎え撃つが、アイリスの助けを受けながらメルティラはその大盾で全て捌き切っていた。



 防衛士の仕事は複数の敵、もしくは大物を引き付けてパーティの他の攻撃手を優位に立たせることである。


 その点において、メルティラは非常に優秀な防衛士であった。



「させませぬ!」


 途中、眷属を援護しようとヴィーヴルがロノムとルシアに向かって火炎の魔法を放とうとする。


 しかしメルティラは攻撃の隙を与えないように牽制をし、また、仮に魔法が放たれたとしても自身を盾にしながらヴィーヴルをうまく引き付けていた。



魔女(まじょ)()()けられたお姫様(ひめさま)(こま)った王様(おうさま)賢者(けんじゃ)(たず)ね、おまじないを(おそ)わった。(ふせ)げ! プロテクション!!」


 一方のアイリスも、メルティラの後ろに隠れながらロノム達に対して防衛魔法を展開する。



 メルティラの安定感があればこそ、アイリスの支援も生きてきる。


 ヴィーヴルという非常に強力な魔物ながらもメルティラ一人に任せてロノム達の援護に回れるというものであった。



 「これでどうです!?」


 メルティラの片手剣がヴィーヴルの隙を付き、硬い鱗に覆われていない上半身の腹部辺りを貫く。


 金切声のような悲鳴を上げ両の腕や竜のような下半身の尾を使って物理的にメルティラを攻撃してくるが、しかしそれも全て躱し切った。




「よくやったルシアさん! これから大物に当たるぞ!」


「了解です! ロノム隊長!」




 そうこうしているうちに眷属四体を全て倒したロノムとルシアが、ヴィーヴルに対して向かってくる。


 ここまででメルティラの仕事はもう八割以上終わったようなものであった。


 とどめはロノムとルシアの攻撃手二人に任せればいい。



「ロノム様! ヴィーヴルの背に魔力の源たる結晶のようなものが見えます! そちらが恐らく弱点です!」


「了解した! ルシアさん、裏に回るぞ!」



 ロノムはそう言って、ルシアと共に巨体のヴィーヴルの裏に回り込む。


 見上げれば確かに女性のような上半身の背中、人間でいえば肩甲骨下の心臓辺りから真紅の結晶が剝き出しになっていた。



「狙えるか? ルシアさん!」


「やってみます!」


 そう言うとルシアは銃を構え真紅の結晶に狙いを定め発砲する。



 その弾丸は見事命中したように見えたが、しかし、結晶を護る魔法的な障壁によって阻まれた。



「だ……だめです! バリアが張られているみたいです!」


「そうそううまくはいかないよなぁ……! 次の手を考えるぞ!!」


 ヴィーヴルの下半身、竜の尾による薙ぎ払いを躱しながらロノムとルシアは次の一手を思考した。



「ロッさん! 結晶を護っているのが魔法的なものであれば、ロッさんの武器に解呪魔法を付与して壊すことはできます!」


「本当か!?」


 アイリスの方を向きロノムは叫ぶ。



「ただし、あくまで刃物に対する魔法の付与なので、ロッさんが直接斬りに行かなければなりません!」


「上等だ! やってやるぜ!」


 そして竜の尾による攻撃を掻い潜りながら、自分の背丈よりも倍は高い位置にあるヴィーヴルの結晶に狙いを定めた。



 一方ヴィーヴルもロノム達の狙いを知ってか知らずか、後方に対する火炎の魔法陣を展開する。



「あなたの相手は私ですよ!」


 しかしその攻撃は一瞬で魔法とロノムの射線に入ったメルティラの盾によって防がれ霧散した。



「はあぁぁ!!」


 その隙をロノムは見逃さず、ヴィーヴルの尾、飛膜の付け根、そして鱗を利用して一気にその背を駆け上がった。



魔女(まじょ)(のろ)いを()(かぎ)は、お姫様(ひめさま)(くち)づけだ。でもお姫様(ひめさま)はきっと()ない。お姫様(ひめさま)魔女(まじょ)だから。(まと)え、解呪(かいじゅ)秘法(ひほう)よ! ディスペル・ブレード!!」


 アイリスの詠唱完了と共にロノムのハンドアックスは紫と白が入り混じったような光に包まれる。


 同時にヴィーヴルの背に浮かぶ剝き出しになった結晶に向かって斬撃を放った。



「おおおお!!」


 ハンドアックスが障壁にぶつかると同時にヴィーヴルの魔法障壁もアイリスの付与した魔法の光もガラスが砕けるような音を立てて砕け散る。


 ロノムとしてはこのまま一息で結晶まで砕いてしまいたかったが、一歩及ばず届かない。


 魔法障壁とのぶつかり合いによって威力を失ったハンドアックスの一撃は、結晶を軽く叩いただけで破砕までは至らなかった。



 しかし、今回はそれで充分。



「行きます!」


 ルシアが狙いを定め発砲した弾丸は正確にヴィーヴルの結晶を捉え、その身体ごと撃ち抜いた。



 魔力の源たる結晶を砕かれ「ギ」とも「ガ」ともつかぬ断末魔を上げるヴィーヴル。


 その巨体は前のめりに倒れ、口から体液のようなものを吐きながら地に伏した。




「や……やりましたか……!?」


 息を上げながらメルティラが言う。



「ああ……討伐成功だ……」


 ロノムがヴィーヴルの下半身を見ながら答える。



 その尾は徐々に砂へと化しており、魔物の終焉を表していた。



「素晴らしい連携と腕前だ、シルバー・ゲイルよ。これ程のパーティはそうあるまい」


 後ろの方で監視役に徹していたフィスケルが前に出てきて手を叩く。



 皆が安堵の表情を浮かべ、ロノムは少し休んで探査の魔法を展開する。


 そして最終確認としてヴィーヴルが砂に還るのを見届け始めたその時だった。



『オオオォォォ』


 謎の雄たけびと共に、黒い影が天井の高い大部屋へと飛来する。


「!?」


 ロノム達が部屋の天井を見上げると、そこにはヴィーヴルと同じ大きさかそれよりもかなり巨体な漆黒のドラゴンが睨みつけるように舞っていた。


『忌まわしき人の子らよ。まだ飽き足らぬか……まだ我等から奪い足らぬか!』


 頭に直接響かせるような声でもって、ドラゴンは威圧するかのような声でロノム達に問いかける。



「どういうことだ!? お前は何者だ!? ……意思疎通ができるのか!?」


 フィスケルが空中の漆黒のドラゴンに向かって叫ぶ。



 フィスケルも長く冒険者を続けていた男であり、小さき魔物も大物と呼ばれる魔物も何体と見てきた。


 そしてギルドの常設役員となり冒険者ギルドの裏側や知られざるダンジョンの歴史も知り尽くした筈であったが、未だかつて、魔法の詠唱以外で言葉を紡いだ魔物は見た頃が無かった。



『いずれ貴様等に我等全ての力をもって復讐を為す! 我等の怒り、思い知るがよい!』


「ま、待て……! 何が言いたい!? お前は一体何者なのだ!?」


 しかしフィスケルのその言葉に返答はなく、漆黒のドラゴンは部屋の上方にある天窓の方へと向かい、そして姿を消してしまった。


 しばらく沈黙が続く。


 誰も次の言葉を出すことができなかった。



「魔物が……しゃべることがあるのでしょうか……?」


 重い緊張の空気を経て、ルシアが誰にともなく疑問を口に出す。



「分からない……。俺も長い事冒険者を続けてきたつもりだけど、こんなことは初めてだ……」


 ロノムも言葉を失い、今の状況を把握するのに精いっぱいであった。



「フィスケル様は、何かご存じなのですか?」


 メルティラがフィスケルの方を向き問いかけた。



「魔物には様々な種類がいる……。人型のもので言えば、先のヴィーヴル以外にもラミアやゴルゴーン、そしてケンタウロスや吸血鬼といったな……。勿論ドラゴンもだ。しかし、誰として意思の疎通が図れたことはなかった。よもや魔法の詠唱以外であのような言葉を紡げる魔物がいようとは……私にも分からん……こんなことは初めてだ……」


 フィスケルは漆黒のドラゴンが消えていった天窓を呆然と眺めながら、ロノム達に言葉をかける。



「兎にも角にも、ヴィーヴルの討伐完了は見届けた。この事は私の方でもギルドに報告しておく。君達の方でもいつも通り、ギルドにダンジョン探索の報告をしておいてくれ」


「了解しました」


 フィスケルの言葉にそう答えると、ロノムは砕けた結晶の欠片を拾い皆と共にダンジョンを後にした。

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