4.『シルバー・ゲイル』の初仕事ですね!!
「まさか、本当にアライアンスの設立許可が下りてしまうとはね……」
アライアンスの設立申請を出した日から数日、街の中心部からは少し外れた建物にある石造りの一室で、ロノムは手荷物を持ったまま呆然とつったっていた。
「ひとまず、第一歩は踏み出せたと言うことですね」
嫋やかな所作で所持品を整理しながら、メルティラがロノムに言う。
「なんだかスパーン! と設立できてしまいましたが、そーんなに難しいんですか? アライアンス作るのって」
窓辺の段差に腰かけて足をぷらぷらさせながら、アイリスがそう聞いた。
「冒険者ギルドは大体の街にあるけど、知っての通りここ『自由都市アンサスラン』のギルドは特殊でね。冒険者個人でのギルド登録は受け付けていなくて、アライアンス……つまり、冒険者の集まりとしての登録になるんだ」
手荷物を床に置きながらロノムが答える。
「冒険者の数が増えすぎてしまったので、そう言う形式になったのですよね」
「そう。この街の住人は半分が冒険者だからね。アンサスランの周辺にはダンジョンが沢山あるから、冒険者が集まるのも必然ではあるけどさ」
もともと自由都市アンサスランの興りは少数の冒険者による野営陣から始まった。
それが冒険者達の努力もあり、今ではこの国有数の都市へと成長している。
「冒険者個々人でのギルド登録を認めないと言う建前を形骸化させないために少人数での設立は認められにくいんだけど、Bランク冒険者が二人と言うことでOKが出たんだと思う。特にメルティラさんは貴重な防衛士だしね」
「なるほど。ランクが高いとそのような恩恵もあるのですね」
メルティラが梱包された鎧の外包みを剥がしながら言った。
「もっとも、アイリスさんは治癒術師Bランクに加えて支援術師Dランク、そしてメルティラさんは防衛士Bランクなのに対して、リーダーである俺は白兵士Dランクなんだけどさ……」
少しバツの悪い表情をしながらロノムはアイリスとメルティラに振り返り、頭を下げた。
「不出来なリーダーで申し訳ないが、まずはゲンさんへの借金返済を目標として、お二人の力を貸してください」
アライアンス設立のためにギルドに上納する資金はゲンさんが工面してくれており、今三人がいるアライアンス本部の部屋もゲンさんが貸してくれているものだ。
ゲンさんは「冒険者をやってた時に倉庫として使ってた部屋で悪いけどよ、今は空いてっからアライアンスの本部として好きに使ってくれや!」と気前のいいことを言ってくれたが、流石に無賃で借りる気はないし、立替えて貰った上納資金もできるだけ早く返したい。
「養父は資金の返済などいつでもいいと言っておりましたが」
メルティラが唇に人差し指を当てながら答えた。
「いや、一端の冒険者としてそう言うわけにもいかないし、借金が早く返せるぐらい活躍しているとなればゲンさんも安心できると思う。と言う訳で、今朝ギルドに行って『ダンジョン探索』の許可を一件貰ってきたよ」
ロノムはギルドから受け取ってきた書状を二人に広げて見せる。
「おお……! と言うことは我々『シルバー・ゲイル』の初仕事ですね!!」
「士気昂揚といたしますね……! ロノム様、アイリス様、宜しくお願いいたします」
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そのダンジョンは自由都市アンサスランから半日歩いたところの山岳地帯にある。
ロノム達三人はダンジョン入口近くに簡易的な野営地を作り少し休憩したあと、本格的にダンジョン攻略に挑むことにした。
「ええと、まずは今回のダンジョンの概要から説明しようと思う」
そう言うと革鎧姿のロノムはギルドから受け取った地図や資料を開くと同時に、魔法の詠唱を始め自分の魔法式メモ帳を開いた。
「K-12ダンジョン、通称オーガズ・クレイドルと呼ばれるダンジョンだ。入口から下り方向に続いているダンジョンであり、現時点では別の冒険者達によって二層まで攻略されている」
ロノムはギルドの資料を指さしながら、治癒術師用のローブを着たアイリスと銀色の甲冑に身を包み大きな盾を携えたメルティラの二人に対して説明する。
「我々の目的は三層の一部の攻略と財宝の確保であり、ギルドからは内部のマッピングと魔物の調査をミッションとして課せられているのでそのつもりで。尤も、それは俺が趣味の範囲で毎回やってることなので二人は気負わなくて大丈夫」
次いでロノムは自分の魔法式メモ帳を二人に見せながら説明を加えた。
「オーガズ・クレイドルは名前の通りオーガと呼ばれる魔物が跋扈するダンジョンだ。トラップの多いダンジョンと違い、単純に冒険者としての戦闘力が試される所なので、連携や力量を測るという意味でも我々の初仕事にはもってこいだと思う」
「とりあえず以上だ、あとはダンジョンの中でその都度説明していこう」
「オッケーです! がんばります!!」
「把握いたしました。必ずや攻略を成功させましょう」
アイリスとメルティラの二人が元気よく返事をした。
「それじゃあ行こう。無茶はしないように、頑張ろう」
そう言うとロノムはギルドから受け取った青白く輝く書状をダンジョンの入口に掲げ、魔法鍵で封鎖されていた扉を開錠した。