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32.第一章最終戦(1)―不肖このアイリス、お祭りと聞いてちょっと浮かれすぎておりました

「ネシュちゃん、ヨーグルトドリンクを買ってきましたよ。どーぞ」


「ありがとう……。これ……好き……」



 人ごみの奥からにょきっと出てきたアイリスが、飲み物の一つをネシュレムに渡した。祭りの屋台で売っている乳製品の飲み物である。


 アイリスとネシュレムは祭りの中心である古い宗教施設の近くに来ており、そこに立ち並ぶ屋台の食事と飲み物に二人で舌鼓を打っていた。



「それにしても凄い人ごみですなあ。ロッさんも後で合流すると言っておりましたが、ちゃんと待ち合わせ場所まで来られるかどうか。メルちゃんとルシアちゃんも楽しめているでしょうかね」



 メルティラとルシアは二人で祭りの催し物の踊りを見に行っている。


 ロノムはアライアンスの雑務が残っており、後程合流する予定であった。





*****************************



 今日はアンサスランを挙げた祝祭の日である。


 自由都市アンサスランの起こりは元々「アンス」「アスール」「アン」と言う、今では伝説となった三人の冒険者がこの地を拠点とし旧文明の遺跡を攻略していたことから始まる。


 後にその拠点が発展し冒険者集団のキャンプとなり街と呼べるものまで育った後は、三人を称えアンサスランと言う都市名になった。


 この日は伝説となった冒険者三人に由来する日であり、また、志半ばで命を終えた冒険者に対する慰霊の日でもある。


 アンサスランは他の都市と比べると街としての歴史が浅く伝統や祭りと言ったものの数はまだまだ少ないが、その中では今日の祝祭は最大規模の祭りであった。



*****************************





「そー言えば、エクっさんは今日は来られないのですか?」


「エクスは……あんまりお祭りとか……人ごみとかは……好きじゃないから……。今日も……誘ってみたけど……『友人と楽しんで来い』って……」


「はーーーつれませんねぇーーー。折角のデートのお誘いだと言うのに……。これだから求道者は」


「エ……エクスとは……! その……兄と妹とか……そんな関係だから……」



 顔を赤くしながらネシュレムがヨーグルトドリンクを抱え俯く。


 近すぎてきっかけが掴みにくいパターンだなーなどと思いながらアイリスはヨーグルトドリンクを一気に飲み干した。



 何かアドバイスでもしようかと考えていたところで、アイリスは見知らぬ人物から声をかけられる。



「あのー、ネシュレムさんともう一人のお姉さん、ちょっといいでしょうか?」


 その声にアイリスとネシュレムが振り返ると、黒髪の年若い冒険者風の男がいた。



「そのー、エクスエルさんとロノムさんがお二人の事を呼んでいるみたいです。ついてきてくれませんか?」


「この方は?」


「ええと……レッド・ドラグーンの……別のパーティの子……だけど……。エクスとロノムが……? なんだろう……」


「まーたお二人で決闘してるとかですかねえ。行ってみましょうかー」





*****************************





 二人が連れてこられたのは宗教施設の裏手にある、人の気配がない林の中であった。


 何かおかしいと警戒しながらアイリスが前を歩くレッド・ドラグーンの年若い冒険者を睨んでいると、隣で何か鈍い音がすると同時にネシュレムが倒れ込む。



「……!」



 横を向くと小汚い山賊風の男が棍棒のような鈍器を持ち、アイリスの事を睨みつけていた。



「騒ぐなよ? 下手な真似をすりゃあこの黒髪の女の命が無いぜ?」


 山賊風の男による悪役然とした言葉と同時に、似たような格好の男達が林の茂みの奥から何人も出てきて、アイリスを取り囲んだ。



「なるほど迂闊でしたねえ。不肖このアイリス、お祭りと聞いてちょっと浮かれすぎておりました」


 男達はアイリスと気を失っているネシュレムを手早く荒縄で拘束する。アイリスも黙ってそれを受け入れた。



「まだ殺すなよ。こいつらはシルバー・ゲイルの連中をおびき寄せるエサにもなるし盾にもなるからな。準備を整えてから奴等を殺す算段をつける」


 山賊風の男達に担ぎ込まれるアイリスとネシュレム。アイリスがふと黒髪の年若い冒険者の方を見ると、怯えた表情でこちらの方を見ている。



「こいつはどうする?」


「もう用済みだ、殺しちまった方が楽かもな」



 そう言うと男達は年若い冒険者に対して武器を構えたが、冒険者は悲鳴を上げながら逃げ出した。


「追うな、大事の前の小事だ。作戦を遂行するぞ」



 山賊風の男達はアイリスとネシュレムを抱えたまま宵闇の中を茂みに潜みながら移動を始める。


 移動している途中、アイリスが小規模な魔法を唱えていたことに、男達は気付かなかった。





*****************************





 宵も深まり祝祭も盛り上がりを見せる中、メルティラとルシアは待ち合わせ場所でアイリスを待っていた。


「だめだ、見つからなかった。アイリスさんどこに行ったんだろう」


 二人の前にロノムが戻ってきて、感知の魔法を解除する。



「祭りの会場から外れて迷子にでもなってしまったのでしょうか? いえ、アイリス様は私と違って迷子になるような方では無いようにお見受けいたしますが……」


「ネシュレムさんも一緒なので大丈夫だとは思いますけど、心配ですね……」


 メルティラとルシアも不安そうにしていた。



「うーん、今度は感知範囲を広げて探してみよう。俺はもう一度探しに行ってくるよ」


 ロノムがそう言いメルティラとルシアに背を向けたところで、銀髪痩身の男と前のアライアンスで顔を見かけた程度の男がこちらに向かって走ってきた。



「ロノム……ここにいたか!! 単刀直入に言うぞ、ネシュレムとアイリスが攫われた……!!」


「……!? エクスさん、それはどう言う事!?」


 ロノム達三人の前に息を切らしながらエクスエルと黒髪の年若い冒険者が駆け込んでくる。



「ボクが……ボクがいけないんです……!! ドディウス団長に命令されて……ネシュレムさんともう一人の方を連れ出したら……あんなことに……!!」


「俄かには信じがたいが、二人の誘拐にはドディウス団長が一枚噛んでいるとの事だ……! クソ……! 何が起こっているのかさっぱり分からん!!」


 エクスエルの言葉は信じ難い事であったが、何を言っているかは理解できた。



「それで、アイリス様とネシュレム様が攫われた場所はどこなのですか!?」


「ごめんなさい……! 場所は分かりません……!」



「いや、近くにいないのは理解できた。今から感知魔法を俺ができる最大級まで展開する!」


 そう言うとロノムは詠唱を始め複雑な魔法陣を展開し、アイリスに限定した感知の魔法を最大限まで広げる。



「……見つけた! アイリスさんが魔法を使った痕跡だ……!! エクスさん、俺について来てくれ!」


「おう!」



「メルティラさんとルシアさんは冒険者ギルドとゲンさんに報告して欲しい! 決して単独行動はせず、二人以上で行動をしてくれ! 報告が終わったらシルバー・ゲイル本部で待機を! 何が起こっているか分からない以上、自分の身を護る事が最優先だ!」


「承知いたしました!」


「了解です!」



 二人の返事を聞いて、ロノムとエクスエルは人ごみをかき分けて駆け出した。



 ロノム達がいなくなった後も、祭りの華やかな旋律は辺りに響き渡っていた。

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