20.ダンジョン探索―落ち込んだりもしたけれど、概ね元気ではあった
「前方から素早い動きで三体接近中! ワーウルフだ! メルティラさんは先頭でカバーを! アイリスさんとルシアさんはメルティラさんの後ろで援護を頼む!」
「ルシアさんはワーウルフが目視圏内に入ったら射撃して構わない!!」
ダンジョンの中に緊迫したロノムの声が響き渡る。
「承知しました!」
「りょーかいです!」
「分かりました! 善処します……!」
そしてロノムの言葉を皮切りに、メルティラ、アイリス、ルシアの三人は戦闘態勢に入った。
その後すぐさま犬のような人型の魔物が遠吠えのような声を上げ、三体同時に襲い掛かってくる。
しかし、一体はルシアの射撃によって脚を撃ち抜かれその場にうずくまり、残りの二体についてもメルティラの盾によりその攻撃が受け止められた。
「しっ!!」
ロノムがルシアによって脚を撃ち抜かれた一体に駆け寄りハンドアックスを振りかぶる。
しかしその攻撃は間一髪のところで体勢を立て直したワーウルフに躱され、距離を取られた。
「ロノム隊長! どうしますか!?」
「威嚇だけでもいい! 俺と戦っている方を狙ってくれ!」
「分かりました!」
ルシアはロノムと短いやり取りをした後、ロノムと戦っている方のワーウルフに狙いを定める。
同士討ちに注意しながら数発の弾丸を放つと、そのうちの一つがワーウルフの肩口に命中し血を噴出させた。
「はぁ!!」
その隙を付いてワーウルフはロノムのハンドアックスによって仕留められる。
まずは一体。
「ルシアさん! 次はメルティラさんが相手をしている二体を頼む!」
「了解です!」
ワーウルフ二体の連続攻撃によりメルティラはかなりの苦戦を強いられていた。
アイリスの防衛魔法と回復魔法が無ければ一人では持たなかったかもしれない。
「行きます!!」
ルシアがメルティラを相手取るワーウルフ二体に狙いを定め発砲するが、ワーウルフもルシアの武器を理解したようで、素早い動きで翻弄し中々的を絞らせてくれない。
「たっ!」
だがそこに、ワーウルフ一体を仕留めたロノムが追いついてきた。
ワーウルフ二体がそれぞれメルティラ、ロノムの二人を相手取る。
「ルシアさん! 俺の方が先だ! こっちを仕留めてからメルティラさんの方を四人で片付けるぞ!!」
「は、はい!!」
その言葉にルシアはロノムと相対しているワーウルフに狙いを絞った。
「かわいい子には旅させよ、王子様でも例外なく。心配性の王様は、王国の騎士団を二つに分けて、王子様に半分つけた。防衛せよ! ライトシールド!!」
一方アイリスは自分の判断でロノムに対して防御魔法を使う。
ロノムの身体のうち何点かの急所が青白い光に包まれ、一撃死だけは避けるような防御魔法がかけられた。
「行くぞ! 犬ころ!!」
ロノムは防御魔法に勇気付けられるように、対峙しているワーウルフに対してハンドアックスを振りかぶり一撃を加えようとする。
一方のワーウルフも素早い動きでロノムの斬撃を躱し、その間隙を縫うように鋭い爪でロノムに対して攻撃をしてきた。
しかし、ロノムが攻撃を躱しきれず左手のガントレットと自らの肉を犠牲にしてその爪を受けようとした時、ワーウルフの頭から血が噴き出しその場に倒れ込む。
思わずパーティメンバーの方を見ると、ルシアの射撃による一撃だと言うことが見てとれた。
「やっぱり強いな……あの武器は……」
ぼそりとそう呟きながら、二体のワーウルフを片付けたロノム達はメルティラと相対する最後のワーウルフの仕上げに取り掛かった。
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「ふーーー。なんとかなりましたねぇ」
戦闘が終わりアイリスが座り込みながら一息つく。
ロノム達は新メンバーのルシアを加え、初めてのダンジョン探索に挑んでいた。
J-4ダンジョン、通称「ドッグハウス」。ワーウルフやコボルトが巣食うダンジョンである。
「三人とも見事だよ。ワーウルフはかなり手強い相手だけど、危なげなく対処することができた」
ロノムは射撃士のルシアを加えて、パーティ全体の能力が底上げされたのを実感していた。
攻撃手が増えた事によって敵の殲滅時間が短縮されたため余裕が生まれ、今までは自重して引き返していたような場面でも進行できるようになっている。
「そうですね。ワーウルフは正直私としてはかなり苦手な相手ですが、皆様のお陰で倒すことができました」
「いやー素早かったですねえあいつら。メルちゃんが正確に捌いてくれなければどうなっているか分かりませんでした」
「本当に……。メルティラさんもアイリスさんも同じBランクとは思えないくらい凄いです」
ワーウルフ達を撃退した小休憩の中、女子組三人は水を飲みおしゃべりしながら親睦を深めている。
一方のロノムは探索の魔法を展開しながら、先程までの戦闘でルシアの性格を見極めていた。
ロノムの見立てではあるが、恐らくルシアは自発的に判断して動くタイプではない。
少なくともアイリスやメルティラのように優秀な判断力でもって行動できるわけではないだろう。
ただ、指示があれば確実にそれに従える。
「多分、うちで一番扱いやすい子だな」
ロノムは三人に聞こえないようにポツりと呟く。
ルシアは言ってみれば兵卒タイプであり、自己判断で勝手なことをしない。自分の命を故意に危険に晒すようなこともしないだろう。
リーダーからしてみれば胃に優しいタイプだ。
「しかしアイリスさんもメルティラさんもBランク、加えてルシアさんもBランクか……それと比べてパーティリーダーの俺は……」
Bランクが三人いるパーティだと言うのに、肝心のリーダーが冒険者として及第点ギリギリのDランクと言うのは何とも不甲斐ない。
ロノムは壁の方を向きながら少しの時間突っ伏した。
「およ? どうかなさいましたかロッさん」
そんなロノムにアイリスが声をかける。
「いや、大丈夫。何でもない……。息も整ったし、そろそろ行こうか……」
そう言うとロノムは立ち上がり、先頭を歩き始める。
自分の不甲斐なさに落ち込んだりもしたけれど、概ね元気ではあった。