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2.どこまでも使えねえ奴だなてめぇは!

「ロノムよぉ! どこまでも使えねえ奴だなてめぇは!」


 石造りのテーブルが置かれているだけの薄暗い部屋の中で、五人の男性と一人の女性が言い争いをしている。



 いや、言い争い……と言えば聞こえはいいが、実質は一人の男を寄ってたかって糾弾しているだけであった。


 ある者は直接罵倒し、ある者は冷たい目でその様子を眺め、またある者はその男性を責めないまでも、事態を静観しているだけである。




「い、いや、俺だって必死にやってますよボルマン隊長! 慣れない防衛士だって最近はできるようになってきましたし、多分、今度の試験ではDランクを取得できます!」


 罵倒の中心にいるロノムと呼ばれた体格のいい赤髪の男が、自分より年下の長髪の男性に反論のようなものをする。



 ロノムからしてみれば、今まで剣や槍と言った近接武器を主に扱う白兵士としてやってきていたところで、突如畑違いである盾技中心の防衛士の役割を演じなければならなくなったのだ。


 慣れないところを自分なりに頑張ってきていたつもりだったところにこの罵倒は泣きそうになる。




「はっ! 今更Dランクだってか? 笑わせやがる……! 俺達のランク知ってますかぁ? ここにいるお前以外の全員、みーんなBまで上り詰めているんだよ!! 得意の白兵士すらDに落ちたてめぇが、泣きそうな声で『必死にやってますぅ』なんて言ったって誰も同情せんわドクズが!!」



 大声で罵倒しているのがこのパーティの隊長でありコンポジットボウ使い、射撃士Bランクのボルマンであった。


 茶髪を長々と伸ばした面長で馬顔の男であり、本人は自分のことを貴族並みに端正な顔立ちと思い込んでいる。




「隊長、コイツに何言ったって無駄でしょう。温情で防衛士として置いてやってたのに、その間成長も何もしてないッスから」


 ロノムよりも更にガタイの大きい黒髪を短く刈り上げている男が、低い声でボルマン隊長に同調する。


 彼の名はホリドノン。白兵士Bランクであり、この男がボルマンパーティに加入したことによって、ロノムは白兵士から防衛士に回されることとなった。



 ロノムは何も言うことができない。


 確かに慣れない防衛士であっても必死に勉強してDランク相当まで実力を付けたと思っているが、まだ試験を受けていないためランクは与えられていない。



 もっとも、Dランク程度ではボルマンやホリドノンには認めて貰えていないだろう。




「あのー、でも、ロノムさんは冒険者としてランクでは計れない強さがあると思います。僕はまだパーティに入って日が浅いんですけど、ロノムさんの判断とか知識に助けられたことって結構多かったなと思って、その……」


 唯一ロノムを擁護したのは金髪碧眼の少年だけだった。



「てめぇは黙ってろ! ティーリ!!」


「は、はい! ごめんなさいです……」


 ボルマン隊長に怒鳴られ、ティーリと呼ばれた少年は押し黙った。


 前任の支援術師がクビになったため最近このパーティに入ってきたティーリは年若いながら魔法の才能があり、支援術師として既にBランクまで昇りつめている。




「いずれにしろ、Dランク程度で満足しているようなやる気のない無能は我等のパーティに……いや、このアライアンスにすら不要だ。向上心のない奴が同じパーティにいること自体不愉快極まりない」


 今まで冷徹にロノムのことを見下していた、銀髪で顔色の悪い痩せた男がそう言い放つ。


 彼の名はエクスエルと言い、白兵士と並び攻撃の花形である破壊術師だ。




 エクスエルの後ろに隠れるように座っている、黒髪で眼鏡をかけた背の低い女性は味方をするでもなく罵声を浴びせるでもなく事態を傍観していた。


 彼女の名はネシュレム。治癒術師であり、パーティの戦線維持の要である。





*****************************





 ロノムは何も反論できない。否、反論したところで無駄だろう。



 どれくらい時間が経っただろうか。


 ロノムの精神が完全に参ってしまったところで、六人がいる部屋に一人の大男が入ってきた。



「どうだ? ボルマン」


「はっ! ドディウス団長! ただいま話し合いをしているところ、やはりロノム君は、我がパーティにおいて実力不足を感じていたようです!」


「そうか……」


 そんな話はしていない! とロノムは叫びたかったが、そんな気力もない。



 ドディウス団長と呼ばれた男……身なりのいい服を着た、スキンヘッドに眼帯姿の男である。



 現在伸び盛りのアライアンスである「レッド・ドラグーン」のトップにして現役の冒険者。


 防衛士として確かな実力があり、現在はBランクに名を連ねているものの全盛期は最高位であるAランクにまで昇りつめた強者だった。



「ロノム。ボルマン隊は我がアライアンス、レッド・ドラグーンのエースパーティだ。レッド・ドラグーン総勢四十人の頂点にして、最も期待されているパーティだよ。他のパーティメンバーのランクはBまで到達している。君は……冒険者ランクいくつだ?」


 ドディウスがロノムに顔を近づけながらそう問いかける。



「白兵士が……Dです。現在の役割である防衛士は……まだランクがありません……」


「何故、防衛士のランクを取得しなかったのかね?」


 ねっとりとした口調でドディウスはロノムに質問を続けた。



「それは……まだ防衛士として勉強中の身であり、次の試験でランクを取得しようと思ったからです……」



 冒険者ギルドは技能向上やマッチングのために冒険者ランクの考査試験を定期的に実施している。


 試験の受験は強制ではないがアライアンスや周囲に対する肩書ともなり、また、自分の実力を測る物差しともなるため、冒険者達は皆、得意な系統のうち何かしらのランク試験を受験していた。



「怖かったんじゃないのかね? 白兵士としてD程度の腕前しかないにも関わらず、防衛士としても失格の烙印を押される自分が……」


 ロノムと同じ目線に立つように中腰となりながら、ドディウスは続ける。



「AからFまでの冒険者ランク……ルーキーでもなければ最低限Dランクは維持すべきだ。にも拘らず、今自分がやっている防衛士でEやFのランクがついてしまった場合はどうなるか……」



 レッド・ドラグーン団長のドディウスはゆっくりと立ち上がると、ロノムを見下しながらこう言った。


「レッド・ドラグーンに君は不要だ。今日付けで除名処分を下すので、どこへなりとも消えるがいい」

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