償い 【ザイン視点】
…。 "殺さないで" ねえ? 不思議と心に響く言葉だ。
俺はこの世界に転生する前に、恐らくかなりの人間を殺めている。だから山賊共を殺すのになんの躊躇いも無い。特にこういう輩に対しては容赦が無い。
自分でもそれは分かっていた。だが、何の為に?罪の無い者を守る為か?殺された人間の敵討ちか?自分を守る為か?正義感か?悪に対する義憤か?優越感か?嗜虐心か?慈悲か?ストレス解消か?愉快か?不快か?実は理由なんて無いのか?
俺は足元に転がる山賊を眺める。
コイツ等は何で転がっているんだ? 何で俺に殺されて当然なんだ?
…答えなど無い。あるはずが無い。…そんなものがあるなら、…俺は
「お願いしますっ!どうかそのひとだけは助けてあげて下さい…」
俺はゆっくりと彼女の方に顔を向ける。
「どうしてだ?」
俺はどんな表情をしていたんだろうな?彼女が息を呑む表情となる。イヤ、俺の足元に転がる山賊共に気づいたからかもしれない。
「その人は他の山賊達とは違って、私達に酷い事をしたりしませんでした。それに…3日前に私と祖父の縄を切って逃がしてくれましたっ!それに、弟に聞いたんです…私達が逃げている間、痛めつけられそうになった弟を庇って仲間からよってたかって殴られたって…」
俺は改めて目の前の青年を見る。顔は青あざだらけで晴れている。服の下もかなり酷いことになっていそうだな。
「…い、いいんだっ!もう、僕を庇わないでくれないか…」
青年の声を初めて耳にする。
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ボンレス:男:20
山賊/レベル01 属性:-・・・±・△・+(善意)
【攻撃力】00 【防御力】00 HP 10/16
【生命力】08 【敏捷性】05
【魔 力】07 【精神力】07 MP:05/2/0/0
【技術力】05 【洞察力】07 (14/7/0/0)
【注意力】05 【魅 力】07
スキル:(強奪)【加工肉】
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「ぼ、僕はスキルがあるからって理由だけで1年前に拾われたんだ。僕は"人っ子一人殺せない根性無し"だっていっつも殴られたけどね…。そうだ、僕は単なる根性無しなんだ。…君達を逃がしたのも、君の弟を庇ったのも、全部、償いなんだよ…」
青年は遣る瀬無い表情で山賊達を見つめる。
「フナムシの奴が君の弟くらいの歳の女の子を…いたぶり殺すのを、僕は…止められずに、ただ…眺めてることしか出来なかった。とんだ卑怯者さ。自分の命惜しさに、あの子を…見殺しにしたんだから」
そう言って青年は俺を見てから目を伏せる。
「だから…僕は今日、罰を受けるんだ。…きっと神様が本当にいたとしたら、チャンスを…罪を清算するチャンスを僕に与えてくれたんだ。そうなんだろう?」
「…まあ、俺が神様の使いって言うんなら、近からず遠からずってとこだ」
青年は顔を上げて俺を見つめる。
「なら…償いを…罰を、受け入れるよ…頼むっ…」
「生きるのが辛いのか? …なら、仕方ねえなあ」
俺は溜息をひとつつき、彼の首に当てていた剣を横に抜き払った。
パサリ。地面に黒い紐の様なモノが落ちる。さっき鑑定した時にわかったからな。なんでこんな男がここにいるのかが。
「その【隷属の組紐】で奴らに攻撃できないようになってんだろう? …よく耐えたな」
青年が信じられない表情を浮かべている。
「知ってたさ。お前が好きで山賊団なんかに入ったわけじゃあないのはな。目が濁ってねえからなあ~綺麗なモンだ。そいつらとは一目瞭然だったよ。…それにお前はその女の子を必死に逃がそうとしたんだろう? まあ、運悪く屑野郎に見つかっちまったみたいだがな。…安心しろよ?少なくともその子はな、お前を恨んでなんかいねーよ。…それでも、まあ償いを続けたいってんなら俺が用意してやる。お前に必要な場所をな…」
「うっ! うわあああああアアアぁぁ~~~~~!!」
青年は泣き崩れた。…この涙の価値を知る者がどれだけいるのだろうか。
俺は剣を収めると青年の肩をポンと叩いてから離れる。振り向くと彼女は静かに声を殺して泣いていた。…嫌だなあ、女の泣き顔を見るのはさあ。
青年と彼女の嗚咽が治まるのを暫し待ってから俺は口を開く。
「さて、悪いが手を貸してくれないか?」
そう言って、俺は完全に脱力した山賊を抱え上げる。
適当な穴を掘ってから死体を集める。まあ回収できる限りのミズムシのパーツと洞穴にあった他の犠牲者だろう遺体だがな。灯り取り用の油を撒くと、乾いた枝を組んで火を点ける。燃えていく亡骸を見ていると、俺は自然と手を合わせていた。
「…死ねば、みな仏か」
「…ホトケ?」
俺の傍で座っていた彼女が不思議そうに首を傾げる。
「ああ、う~んとなあ。人間死んだらお終いっていうか、どんな善い行いをした奴も、逆にとんでもなく悪い奴も死んじまえば同じものっていう考え。と言えばいいのかなあ?」
「…そうなんですか」
難しいよな?こーいう哲学は。…というかちょっと煙たいな。目に沁みる…痛え。
暗くなってきたので俺達も焚火を囲む。
俺の【ストレージ】からパンと水の入ったボトルを取り出して彼女と彼女の弟、爺さんに青年に手渡す。
彼女達は最初は得体の痴れないものを見るような目をしながら様子を伺っていたが、俺がパンに噛り付くのを見て、一斉に貪り始めた。
「おっ、美味しいぃぃ~!?」
「こんな白いパンなど初めて食べるぞっ?!」
「ゴホッゴホッ?!」
青年は驚きの余りむせ込み、彼女の弟は無言でパンを丸呑みにしている。
「まだまだあるから安心しな。好きなだけ喰いな、遠慮するなよ?ホラ」
俺は新しく取り出したパンを前に突き出す。
結局20斤近くのパンが溶ける様に消えた。爺さんですら余裕で3斤食っていた。どんだけ腹減ってたんだろうな?
「…腹も膨れたところで改めて自己紹介といこうか? 俺はザイン。ガッカリさせるようで悪いが、独り旅をしてるだけの、ただの山賊さ」
「「「「…………」」」」
アレ? 何か反応薄くない?
「じゃ、じゃあ私から…」
そう言って彼女がおずおずと立ち上がった。
焚火で照らしだされたピンク色の髪が美しく揺れている。
【属性:善意】
プラスの属性。人を傷付けることを良しとせず、善良な人格を持った者を指す。
【隷属の組紐】
呪符で編まれた黒い紐。首や腕に巻きつける事で限定的な従僕として支配できる。