表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
山賊の王  作者: 佐の輔
第一章 新しい仲間
32/35

センテの治療 【ザイン視点】


「おお!本当にナットー…貴方なのですね!?」

「そうだとも友よ…!」


 朽ちた礼拝堂で涙を流しながら抱き合う老エルフと青年エルフ。

 どう見ても、生き別れた老人と孫が感動の対面を果たしたようにしか見えんな。ただ爺さんとは会うのが半世紀振りだと言うし、それ以前からの付き合いを加味するとだ。恐らくあのイケメンエルフは爺さんと同じ歳かそれ以上ということになる。…爺さんは、確か70だったよな?

 …………あまり余計な事は考えない方がいいな。というか若過ぎるだろ?! どう見たって20代…下手したら17か8くらいにしか見えんぞ。隣のチュカンの方が、こう言っちゃあなんだが年上に見えるぞ?

 ふむ。ちうかこのチュカンってヒューマンか? この世界に来てから初めて見る俺と恐らくは同族。純血のヒューマンと恐らくだが不死性もとい老化に強そうな純血のエルフ…ねえ? いったいどんな組み合わせだ? まあ、色々と込み入った理由もあるんだろう。今後、聞けるときに聞いたらいいさ。


「しかし、友よ。一体何があったというのです? 貴方は聖地【マッメ】で生涯を森を取り戻す研究に賭すと…」

「うむ…聞いてはくれまいか」


 そこから爺さんは顔を渋いものにして語り出した。センテと別れた後、自身も各地を巡り森を取り戻す…平たく解釈すれば信仰する森の精霊、即ち女神の力を蘇らせる方法を探したがどうにも手掛かりを発見できずにいたこと。生まれ故郷である【マッメ】に戻り、その近くの隠れ里で孫達を見守りながら、家族と共に余生を過ごそうとしたこと。しかし、ほんの数日前に里は手強い盗賊団に襲われ、そこから孫達と共に生き延びたことを…そして最愛の息子を失ったこと。


「ううっ…アマナト…!」

「不憫な…貴方のひとり息子であるアマナトを… しかし、貴方とそのアマナトの血を引くお孫さん達が生き延びてくれたのは、女神の慈悲というものです。希望はまだ(つい)えてはいません」

「…おお!そうであったわ友よっ!? いいや!我ら"失われた森"に連なる同胞よ!喜ぶが良い!我らの悲願が果たされる時が来るぞ!それまで儂は妻と息子のもとへは…儂はまだ死ねぬのだ!?」

「落ち着きなさいナットー…どうしたと言うのですか?」

「あそこにおわすのは使徒様なのだ!女神は罪深き我らを見捨てはせなんだぁ!? わ、儂らは…女神の慈悲を…ああああぁアあ~!」


 突然泣き始めてしまった爺さんにオロオロするセンテ。…こりゃあ仕方ない、暫くはこのまんまだわなあ。爺さんも爺さんで色々苦労して溜め込んでたんだろうなあ~?


「なあ、坊さん…いや、チュカンって呼ばせてくれるか?」

「どうぞお好きにお呼び下さい。貴方様は拙僧らの恩人以上の方のようだ」

「そんなに(かしこ)まんなよ? 爺さんが…アレだろう? 俺はちょっと炊事場の方の様子を見てくるからさ。爺さん達が落ち着いたら降りて来てくれるか? もし先に飯の準備ができたら呼びに来るから」

「それは…かたじけない」

 

 俺は礼拝堂の外へ出ると扉を閉める。爺さんの鳴き声が小さくなると下の方から楽し気な声が聞こえる。


「おっ? 美味そうじゃあないか」

「あ!ザイン様。僕の提案でパン粥とスープにしてみました。まあ、あんな良いパンを使うのは気が引けたのですが…それとコレです!」

「ん? 何コレ?」

 

 ボンレスがニコニコと俺に手渡したのは灰色のソフトボールくらいな大きさの塊だった。


「寺院の裏にある洞窟で栽培されているキノコだそうです」

「キノコ? へえ」

「基本は丸焼きにして食べるそうですが…生のままでもいけるそうです。僕も試しに食べてみたんですが…ビックリしましたよ。どうぞ」


 ボンレスは半分に切ったそのキノコをくれた。ほう中身はオレンジなのか…しかも意外と瑞々しい。


「どれ… …んっ?! んまいっ!」


 そのキノコはトロリ、というかネットリ? ん~どっかで食べたことのある味…滋養が高そうな…てか普通にタマゴじゃん!ちょっと固めの温泉卵っ!? 不思議と塩味が効いていることも気になるが…まあ美味いからいいや。


「てかコレってまんまタマゴみたいじゃない?」

「ザイン様もご存知でしたか? いやあ僕もチキンの卵なんて人生で2回くらいしか食べたことがない御馳走ですからね~」

「これさあ、タマゴの代わりに使えたりしない?」

「ええ。僕もそう思いまして。その中身だけをくり抜いてフライパンで焼いてみたんですが…固まるどころかドロドロになっちゃって…」


 俺はボンレスが差し出す平鍋から匙で中身を掬うと口に運ぶ。


「…うん。まあ、コレはコレで美味いけどな? ん~まあ所詮はキノコ?だから。代用は無理か…」

「今捌いたチキンもオスばかりでしたしね。ジョニーさん達に聞いたら卵を持つメスは滅多に遭わないって言ってました。それに何故か女性陣の受けがイマイチで…」

「そりゃあ残念。まあでも普通に美味いから後で分けて貰えないか聞いとくか」


 ボンレスと話しながら摘まみ食いしてる内に料理は完成間近となったようだ。

 ほう。チキンの肉のスープと丸焼きにしたキノコ。それにその出汁で作ったパン粥…いいじゃあないか!子供達も並べられる御馳走を目の前に涎を垂らして飛び跳ねている。


「ザイン様~!!」


 そこへ必死の形相をしたチュカンが高台から飛び降りてきたのだ。全員冷や水を浴びたような表情になって手を止めた。サンタナが思わず悲鳴に似た声を上げてしまう。


「チュカン様?!」

「どうした? まさか爺さんに何か…」

「い、いいえっ!? セ、センテ様が!ザイン様どうかお早くっ!?」

「チュチュ!」

「わかタ!」

 俺は涎を垂らしていたチュチュに掴まると高台の礼拝堂へと一瞬で運んで貰う。


「おお!ザイン殿!?」


 そこには血を吐いて倒れたセンテを抱きしめるナットーがいた。


「爺さん!いったい何があったんだ?」

「おお…センテよ。お主はずっとこんな体で…!このままではお主まで…彷徨う死者となってしまうぞ?」

「……良いのですよ。友よ… うグッ!?」

「センテ!?」

「こりゃあ…!」


 センテの服の裾から何か黒いモノが這いずっている…イヤ、まるで動き回るタトゥーのように体の表面を覆っているんだ!


「鑑定!」


 俺はスキルで能力値を操作してセンテのステータスを鑑定できるようにした。


【センテ】

∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴

センテ:男:97  状態異常:重エーテル症

 

プリースト/レベル20 属性:-・・・±・・◇+(有徳)


【攻撃力】00  【防御力】00  HP 1/1(危篤状態)

【生命力】10  【敏捷性】05

【魔 力】10  【精神力】15  MP:19/10/5/0

【技術力】05  【洞察力】10    (20/10/5/0)

【注意力】05  【魅 力】15


スキル:【信仰魔法】【神学】


重エーテル症:重篤な状態まで進行したエーテル症。死に至る。

∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵


 【プリースト】

 魔法クラスのひとつ。一定以上の信仰心が必要なクラス。

 【信仰魔法】

 信仰の魔法スキル。信仰心を聖なる力に変えて奇跡を起こす。

 信仰する女神によって効果が変わる。

 【神学】

 女神や世界への知識スキル。このスキルを持つ者は信仰心が上昇。


 97歳っ?! イヤそんな事よりもだ。

「重エーテル症…?」

「やはりか…!お主はまだ自身の危険を顧みずに"救済"を繰り返しておったのだな?」

「……ええ。もはやここまで持ったのは女神の慈悲に他なりません…限界が来たようです。ですが…ナットー。最期に貴方に逢えて良かった…」

「ならんぞ!? センテ…儂を置いて逝くな!もうすぐ…もうすぐなのだぞ? 女神の復活は近い。"死者の門"を開くことができるやもしれんのだぞ!」


 センテの吐いた血が黒い。この感じ…まさかオニキスか?


「爺さん、エーテル症ってのは?」

「ザイン殿…ザイン殿とも語ったように人間をアンデットにする大きな原因はエーテルなのです。我が友センテは、そんな哀れな死者達を救う為に尽力したのです。しかし、その経過で自身の肉体も汚染されていったのでしょうなあ。モンスターの肉体と結び付いたエーテルは結晶化し、オニキスとなって安定しますが、このセンテように肉体を常に不定形に巡って蝕む病を…エーテル症。そう呼ぶのですよ」


 そこへ駆けつけた他の面々がこの光景を目の当たりにして悲鳴を上げる。


「センテ様ぁ!?」

「センテ様が死んじゃう!」

「やだ!やあだあぁ~!」


 子供達が泣き叫び、センテの周りを囲む。


「……いけません。私はもはや不浄なる黒き毒の塊なのですよ。近づいてはなりません…!」

「失礼します!"治癒力の創成クリエイト・ヒーリング"」

「ううっ!」


 チュカンが創成魔法でセンテを治療をしようと試みるがむしろセンテは苦悶の表情を浮かべる。


「なっ!? 治癒が効かない…!」

「駄目なのだ、センテの弟子よ。肉体を蝕むエーテルが魔力に反応して余計苦しめるだけなのだ…」

「…ぐぅ。……チュカン。私が死んだら亡骸はカタコンベ…いえ、地中深くに埋めて下さい。私の放つ瘴気は恐らくモンスターを呼び寄せますから…下手に燃やすわけには…うっ。…頼みましたよ? 私の愛する子であり最後の弟子、チュカン…」

「そんな…!? と、父さん…」


 チュカンは絶望して膝を付く。父さん? なるほどコイツにとって、イヤ泣いている子供らにとってはセンテは父親そのものなんだろうな。


「俺が治療する。魔法は使用しないでな」


 俺の言葉に全員が振り向く。魔法がダメなら外科的に取り除くしかない。まあ成功するかどうか…


「ただ、彼の肉体は限界だ。身体からエーテルを全部掻き出しても、助かるかはわからない。爺さんとチュカンは手伝ってくれるか?」

「勿論、微力ながらお供いたしますぞ!」

「拙僧めも!」

「良し。悪いが他は外へと出てくれ。な~に晩飯までには何とかするさ」

「イヤ~結構しんどくないっスかあ? このイケメンさんには悪いんスけど★」

「やってみなきゃあわからんだろ? それに今後のことを考えると彼を失うには惜しい」

「…? ザイン殿。一体どなたと話されているのですか?」


 あ。そうか、コイツも見えないよな天使のマユの事は…


「……生き恥を晒すようですが望みがあるならばどうかお願いします。ですが使徒様…私にはどうやら迎えが来たようです…フフ。今迄女神の声を2、3度耳にできたような気がするのですが、最期に私の信仰が報われたようですね…天使様がまさかそんな様相であったとは…!」

「拙い!幻覚が見え始めているようだ…」


 はて? センテは子供達ではなく、マユに向かって手を伸ばしているように見えるのだが?


「あ。この人、ウチのこと見えてるっス!?」

「ま!?」



 どうやら助ける理由が増えたらしい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ