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山賊の王  作者: 佐の輔
第一章 新しい仲間
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聖職者センテ


「でだ。何なのコイツら?」


 ザインは地面に横たわる15体の巨体を眺めながら周囲に問う。


「チキンですね」

「うむ。ブルーチキンだのう」

「チキン?! この恐竜共がかぁ?」


 停めた馬車から降りたキナとナットーがザインの質問に答える。ブルーなので一番弱い等級だが直立2メートル近くあるまるで始祖鳥、イヤ羽毛恐竜といった出で立ちのブルーチキンがザイン達に仕留められて横たわっている。


「コレは滅多に食えない御馳走が大量ですぜ。センテ様にもいい土産になるだろうぜ、あそこにゃあ食い盛りのガキばっかりだしなあ~」

「美味いの?」

「ええ、そりゃあ勿論。特に毒抜きしなくてもすぐ焼いて煮て食えるのがいいんですよ」


 ゴブリンのジョニーが手早く一体を解体する。サンタナも手伝いものの数分であらかた終わったようだ。


「申し訳ありません、ザイン様。この飾り羽がとても綺麗なので少し分けて頂いてもよろしいですか?」

「いいよ。皮でも何でも欲しいものがあればやるよ。捌いてくれたのはジョニーとサンタナだしな。その代わり、また後で別のヤツを頼めるか?」

「はい!ありがとうございます!」

 

 サンタナが満面の笑みで飾り羽を胸に抱く。それをキナが微笑ましそうに見ている。


「ジョニー、ちょっと肉の切れ端をくれないかな?」

「勿論、いいですぜ」


 ジョニーが肉を薄く削ぎ、それをザインが創成し、熱したフライパンで焼く。そして全員でチキンの肉を味見した。


「美味いな。ちょっと固いが地鶏みたいだ」

「……美味しぃ(モグモグ)」

 

 ザインの背に張り付きながら夢中で咀嚼するユキムシが微笑ましい。

 ひと通り食べて満足すると、バラしたチキンと他の14体をザインは腰のストレージに収納する。


「寺院とやらに少しわけてやるが、残りは家族達に食わしてやろう」

「そりゃあありがてえ!滅多にこんないい肉は食えないから喜びますぜ」

「おし。じゃあ先を急ぐぞ。チュチュ!また空から頼む。さあ、皆馬車に乗ってくれよ」


 ザインはユキムシを担ぎなおすと走り出し、チュチュはそれを若干羨ましそうに見ながら空へと舞い上がった。



 ===========================



 少し馬車を走らせると小さな山と麓にやや崩れてはいるが、白亜の美しい建物が見えて来た。 


「アレが…寺院か? キナ!爺さんはなんて?」

「多分! あの山の麓にある建物で間違いないかと!」


 ほぼ目と鼻の先の距離まで近づくと徐々にスピードを落として立ち止まる。周囲を確認してザインが声を出すと、停車した馬車から全員降り、チュチュが馬車の屋根に降りる。ユキムシも若干名残惜しそうにザインの肩から降りる。ザイン達以外に人気はない。


 土と岩で作られた高台にドーム状の屋根をした建物が乗っている。高台には階段があり、それを昇って建物まで辿り着くのであろう。その周囲には似たような建築物の残骸が残っており、本来であればかなり大きな規模の寺院であることが伺えた。


「まあ、あの中か…?」

「多分。馬車に警戒してみんな隠れちまったのかもなあ…戦えるのはアイツくらいだろうしなあ」


 ジョニーがポリポリと頬を掻く。仕方ないとザインが歩を進めたその時だった。


「何用だ」


 そこに物陰から水色の長髪を流した背の高い男が現れた。険しい顔のヒューマンだった。ボンレスのようなこの辺の混血ではない。修行僧のような出で立ちに長い棍を構えている。


「チュカン様!」

「…サンタナさん! 何故ここに? まさか遺跡で何かあったのか!」


 男は一行の中にサンタナを見つけるとその構えを崩した。どうやら敵意はもう無いようであった。ジョニーが顔を歪めて前に出る。


「センテ様にお客人を連れてきたんだよぉ。悪いがセンテ様のとこまで連れてってくれるか?」

「…ジョニー殿。して、お客人とは…ヒュ、ヒューマン?」


 チュカンはこの辺では珍しい純血のヒューマンの容姿をしたザインを見て警戒する。


「落ち着けよ。そりゃあ自分以外に同族を見たお前の気持ちもわからんではないがな。この人はザイン様だ。新しく俺達家族の長になった男だ。そしてこちらの御老体がナットーさんだ。センテ様とは旧知の仲だそうだぞ」

「ほう、お若いのにだいぶ精進なされておるようだな…」


 ナットーが印を結んで頭を下げるとチュカンは慌てて印を結んだ後、棍を地面に置き、膝を付いて頭を深く下げる。


「…拙僧としたことが大変無礼な事をしました。どうかお許し下さい」

「構わないとも。あやつも良い弟子を持ったものだのう」

「恐れ多いことでございます。ではセンテ様の元へとあない致します」


 チュカンは立ち上がると一礼してザインを見やる。


「ザインとやら、先ほどは礼を失っしてすまなかった。この乱れた世で信頼得る者は少ないゆえに敵意を当ててしまった」

「気にすんな。少なくとも俺は爺さんといつの間にかアンタの傍にいるサンタナの味方だ」


 そうザインが言うと振り向いたチュカンとサンタナの眼が合った。互いに視線を逸らし顔に朱が差した。


「……ザイン様」

「おっと、キナ。悪気があってからかったわけじゃあないよ? そうだ。坊さんに相談があるんだがなぁ、ここまでくる途中でチキンが獲れたんだ。アンタらが預かってる子供にも食わしてやりたいんだが、どうするね?」

「おお!それは誠か!有難い。では炊事場に先にあないしよう」


 そう言ってチュカンは高台の裾にある炊事場までザイン達を連れて行った。


「よし、んじゃひとまず3頭と…あとさっき解体した肉も出すか。ああ、あと在庫過上気味のパンもな…」


 ザインは腰のストレージから仕留めたブルーチキン3頭と解体されたチキンの肉やらを出す。そして前もって創っていた調理器具や器を出していく。


「えーと。こんなもんかな? 坊さん、子供らは何人いるんだ」

「なんと!こんなに…っ!? あ、ああ全員で8人だ…裏にある洞窟のキノコ畑に匿っている」

「ほうキノコね…なら足りるかな。悪いがジョニーとサンタナはチキンの解体を頼む。キナとエダマノ、それとボンレスも手伝いを頼む。チュチュは周囲の警戒。ユキムシは…まあいいや、そのままで」


 それぞれがザインの言葉に頷き、チュカンは印を結んでザインに何度も頭を下げた。ザインはそれを手を振って止めさせると、ナットーを連れて階段を昇った。


「センテ様はこの礼拝堂におられます」

「礼拝堂ね…どうやら【信仰】は生きているらしいな。ところで爺さんは何年振りにそのセンテとやらに会うんだ?」

「そうですのう。ざっと50年近くになりますかのぅ」

「…ええ~。半世紀振りかよ。相手が爺さんだってわかりゃあいいけどね」


 チュカンが寺院の扉を開け放ったその瞬間だった。


「おやめなさいっ!」


 若い透き通った男の声が聞こえたと思った矢先に建物の奥から何かがザイン達目掛けて飛んでくる。ユキムシがそれをザインの背から伸ばした腕で弾き飛ばす。それは単なる石ころだったが、ザインを害されたユキムシは氷の様な目で投擲した相手を見るとクナイを容赦なく飛ばそうとする。


「止せ!ユキ。俺は気にしない。許してやれよ、な?」

「………むぅ」

「お前ら!何故だ。洞窟に隠れている約束だろう!」

「せ、センテ様をお守りするんだ!」

「「「う、うん!」」」

「すみません、チュカン…この子達を諭しきれなかった私の不徳のなすところです」


 ザイン達に頭を下げたのはエルフの青年?だった。金髪碧眼で細長い耳に美しく整った容姿の完璧なエルフ然とした青年がどこか寂し気な微笑を浮かべながら少年少女達を庇う。少年少女達はキナの弟であるエダマノと同じかより幼い。皆獣人や亜人種との混血児だった。ある者は震えながら青年を守ろうと前に手を広げている。


「馬鹿者!? この方達は悪しき者では無い!我らに沢山の食べ物を恵んでくれた恩人だ。それどころかセンテ様の友もおるのだぞ。お前達は下手をすればそんな方達に怪我をさせてしまうところだったのだぞ!」


 チュカンが一喝すると石を投げてしまった男の子からひとり、ふたりと泣き出してしまった。後悔というよりも緊張の糸が切れ、押し寄せた安堵に耐えきれなかったのだろう。チュカンは顔を覆う。


「……しまった」

「チュカン。叱れば良いというものでもありませんよ? ―"心の緩和(リリーフ)"」


 青年の身体が僅かに薄光に包まれたかと思うと周囲の子供が泣き止んだ。不思議そうな表情で青年の笑顔を見つめている。


「…へえ。精神系の魔法か? 凄いな」

「ええ。センテ様の【神聖魔法】です」

「ん? センテ…様の弟子ってことか?」


 そこへ後方に居た老エルフが青年へと歩み寄っていく。その眼には涙が滲んでいる。


「……全くもって変わらぬ姿よなぁ~懐かしくすら思えるわい。久しいな、センテよ…!」

「………ナットー? 貴方なのですか…!?」



 なんと、目の前の年若い青年こそがナットーの尋ね人センテその人であり、ナットーと等しい時間を生きる老人だと知ったザインは大きく口を開いてしまうであった。



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