寺院跡地へ
ザインはボンレスがスキル【加工肉】で作ったハムを即席のフライパンで焼く。混成魔法によって創り出した金属の板をザインが編み出した"熱の創成"で加熱している。魔法とは何とも偉大である。そしてそれを割ったパンで挟み込む。勿論、挟むパンの片面をトーストすることも抜かりはない。これに新鮮な野菜とハーブ。さらに香辛料とタマゴとチーズもあれば完璧だが、現状況でそれを実現することは世界を救う次の次くらいには難しいことだった。ザインは迷わずかぶり付く。サックサクだ。そしてジューシーな肉汁が…
「うまいっ!」
「ゴクリ…ザイン様。私にも一口頂いてもよいでしょうか?」
「ザイン!アタシもネ!」
「………クンクン(チラリ)」
ザインが自作のホットサンドに舌鼓を打つ。ザイン達は最上階から1階のロビーまで移動。周囲の住民達に混ざって朝食をとっていた。ザインの焼いた肉の美味そうな匂いに過半数が無抵抗に涎を垂らしていた。それを見かねたザインは創成魔法で追加のフライパンを創ると家族達に配った。
「ほれ!コレなら焚火でも使えるだろう。スマンが肉は各自で準備してくれよ?」
周囲がわあっとはしゃぎ声を上げる。ザインから手ずから渡されたピカピカのフライパンを渡されて感動する住民達。受け取った者や周囲の者はザインに何度も頭を下げ、礼を述べる。そればかりか自分達が持っている食糧やアイテムをザインに手渡そうとする。モンスターの干し肉、酒精の強すぎる濁った酒?石ころ?なんか知らないがガラクタのようなものまで押し付けられる。
「おいおい。騒ぎ過ぎじゃあないの?」
「ソンナコトハナイ」
「はあ。旦那には悪いが、俺の嫁さん分も頼めませんかね? 家族には鍛冶に明るい奴も魔法がそこまで達者のもいないんですよ。そもそも材料も剣や斧を潰すのにも設備も無いしなぁ。鍋だって全然足りてないんですぜ」
「おう。ならジャンジャン作ってやらあ!」
ザインは地面に腕を突っ込むと、
「"深鍋の複数創成"っ!"平鍋の複数創成"っ!"包丁の複数創成"っ!"皿の複数創成"っ!"スプーンの複数創成"っ!"フォークの複数創成"っ!」
地面からズラリと並ぶ、鍋とフライパンと包丁が50セット。皿とスプーンとフォークが100セット。その光景を眺めるナットー達から乾いた笑い声があがる。
「ふう。まあこんなもんだろう。よし!お前ら好きに使ってくれ」
歓声と共に住民が沸き立つ。特に女衆の反応はひときわ大きい。
「ザイン様ばんざあああい!!」
「すげええ!?ザイン様ってば大魔法使いじゃん!」
「うわああ!新品の鍋と食器が貰えるなんてぇ!」
「…このナイフ。俺達のナマクラよりいいんじゃあないか?」
「……そうだな。ザイン様に俺達の分も頼んでみるか?」
「器はわかるが…コレなんだろ?」
「あ!その先が丸いのは鍋をかき混ぜたり薬草の調合で使うヤツだよ!オババが木を削ったやつを持ってたし…」
「じゃあコレは? 先が割れて尖ってるの」
「…? あ。携帯用の武器じゃない? こう相手の眼を抉るようにさ…」
「おお! これなら女達が懐に忍ばせておいても大丈夫だな!」
「「「流石はザイン様!!」」」
「………それ全部メシを作ったり食ったりする為に使う道具だからな?」
ザインが周囲の住民達に食器の使い方をレクチャーする。
「…それにしてもザイン様の魔法は相変わらず規格外ですね。アレ? 混成魔法をナットーさんから教わったのって一昨日でしたよね?」
「はあ!?…まったく旦那には叶わねえなあ。にしても魔法ってのは鉄まで簡単に生み出せるのかよ」
「イヤ流石にこの量は無理だ。土の中の砂鉄を使ったよ」
「おお!流石はザイン殿。この赤い土を理解なされておったようだのぅ」
「…土? ゴ老体、鉄ガコノ土ノ中ニ埋マッテイルノカ?」
「うむ。正確には多く含まれておるのだ。それが大気にいる風の精に当てられて赤くなるとされておる」
「酸化ってヤツだな。でもやっぱり質は良くないよ。鍋の熱伝導率もイマイチだなあ。とりあえず強い武器を造ったりするのは難しいかな」
ザインの言葉を聞いてあからさまに男達がガッカリする。そんなやり取りを交わしていると、早速女衆が作ったスープを運んできた。ザインは迷うことなく口に運ぶ。
「んん? これは…まさか胡椒か!?」
「コショウ? ああ、コレですか。獣人は皆コイツには目がないんですよ。貴重なんですが…どうぞザイン様」
女のひとりがザインに何か植物の種子のようなものを渡す。
「鑑定」
【ヒフキドクツルの種】
突然変異植物の種子。独特な風味を持ち、香辛料として扱われる。
成体は発火性のある毒を花弁から吹く。種子以外は毒性を持っている。
「…ヒフキドクツル? 胡椒かと思ったんだが」
「植物のモンスターの種なんです。生きてるのは火の毒を吐くので主に枯れて死んだものから採集するんですよ。でもこのピリピリが肉を食べやすくして長持ちさせるんです…」
「なるほど。毒性があるから他のモンスターに食われ辛いってわけか。にしても植物ってことは栽培も可能か? うーん。生産できたら取引に使えそうだな。てか単純に俺が欲しい」
「ええ。旦那ぁ、モンスターを畑に植える気ですかい? ソイツは酔狂な。こんな枯れた土地じゃあ難しいですぜ」
「まあ、その辺は考えがある…というかさっき貰った石ころも。なんかやたら重いし、この質感…鑑定」
【未知の金属鉱石】
何かしらの金属が含まれた金属。数があれば金属を取り出せる。
貴重な金属が含まれている可能性もある。
「お! こりゃあ鉱石だぞ。おい坊主!俺にくれたこの石はどこで拾ったんだ?」
「そ、それはドヒーのあんちゃんが土産だってくれたんだよ」
「ドヒー?」
「ああ、そりゃあ廃鉱山らしい場所でソイツが拾った石ですね。珍しい色だからってね。ドヒーの奴はまだ戻ってきてねーんですよ。チュチュの奴と一緒に遠征斥候に出てたんですがね」
「マジか!? 鉱山があるのか!」
「ええ…此処からさほど離れてねえ場所に。ただドヒーの奴は毒が噴き出してるかもって中には入らんかったんですわ」
「…そうか。でも調べる必要はありそうだな!金属があれば色々と出来ることが増える。てか必要だわ。ドヒーって奴が戻ってきたら改めて相談しよう」
「わかりやした」
植物栽培…畑と鉱山。ここを今後の拠点とするにはどちらも無視できない重要な案件であった。
「よし。まあやる事は山盛りだが、ひとつひとつ片付けていくしかないな。先ずは爺さん達の知人探しだ。じゃあ馬車に乗り込め!」
ザインの創成した馬車に皆、興味津々であったが、馬車に乗れるのは多くても6、7人が限界だったし、場合によっては寺院から人を連れてくる必要もある。ザイン達に同行するメンバーは…
ジョニー。それにチュチュだ。チュチュは場所に乗らずに空を飛んで並走する。ウルフはそもそも馬車には乗れないし、脚の速さに自信がないということでザイン不在の間、ドナテロ達と一緒に残って家族を守ることになった。それとユキムシは相変わらず気配を消してザインの背中にピッタリとくっついて隠れている。主にそこが定位置だった天使のマユは非常にやりづらそうではあったが、仕方ないのでザインはあえてスルーしていた。
それともうひとり、今回は同行者がいた。
「ええと、君はさっき俺にスープを作ってくれた…」
「ジョニーの娘でサンタナです」
「どうも(全然ジョニーと似てねえな。やっぱ亜人種は容姿に男女差が大きいのか?)」
「……旦那。考えてることが顔にでてますぜ?」
「悪いな。してまたどうしてついてくるんだ? まあ俺が護衛するが道中モンスターとかち合う可能性もあるぞ? 決して安全とは言えない」
「あの、その……」
「………」
モジモジするジョニーの娘サンタナと何故かムスっとした表情をしたジョニー。そこにジョニーの嫁のひとり、つまりサンタナの母親である女が近づいて口を開く。
「すいませんねぇ、ザイン様。センテ様の寺院には娘の思い人がいるんですよ。でも滅多に会えるものじゃあないからこのコ…我慢が効かなかったんでしょう」
「へえ、そうなんだ?」
母親から理由を告げられた彼女は顔を赤くして俯き。周りの女達から慰められている。
ヒョイとザインに顔を覗かれたジョニーが嫌そうな顔をして目線を逸らした。
「ちなみにその男の名前は?」
「はい。センテ様のお弟子さんでチュカン様という修行者様です」
「ふ~んモンクか。…面白そうだな」
「ちょっとちょっと★ まさかとは思うんスけど~。またクマさんの時みたにガチンコの素手で腕試ししてみたい。とか思ってないっすスよねぇ~?(ジト目)」
「………やだなあ。そんな事考えてるわけ、ないだろ?」
「素で【攻撃力】10もあるんスから滅多な事は考えないでよお~?」
「わぁ~ったよ! てかこれから【信仰】を取り戻す手伝いをしてくれるかもしれない相手にケンカ売るわけないだろ」
とにかく寺院行きのメンバーは決まった。
ザイン。キナ。センテの旧友であるナットー。そしてエダマノとボンレス。案内役のジョニー。そして斥候役としてチュチュ。ザインの絶対の護衛にして隠密、ユキムシ。そして恋心を募らせるジョニーの娘サンタナ。以上9名。キナとジョニーが御者台。ザインとチュチュは馬車と並走し、ユキムシはザインの背中に常時張り付く。他のメンバーは馬車の中と決まった。
「…それにしてもザインの旦那に走らせる訳には」
「いや多分、余裕だぞ。てか思いっきり走りたい気分だったんだよな!…ユキ、大丈夫か?」
「…問題ないんやぁ」
「よし。んじゃ出発!」
ザイン達は家族に見送られながら、【パアルス遺跡】を出発して走り出した。
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出発してから約1時間後…
「ははぁっ!コイツはすげえや!? この速さならもうすぐ着いちまいやすぜ!…しかし、なんだな。空を飛んでるチュチュはともかく。旦那は本当に人間なんですかい?」
「(ドドドドドドドドッ!)え!? なんだって!よく聞こえなかったぞ(ズダダダダダダッ…!)」
「……イヤ、イヤもういいですぜ」
ジョニーはかなりの速度で飛ばす馬車のスピードに余裕でついてくる…というかむしろ前を常に走り続けているザインに戦慄していた。そこへ上空を飛んでいたチュチュが高度を下げて近づく。
「ザインやぱり凄いネ!ますます惚れたヨ!」
「イヤ、俺はスキルで【敏捷性】上げてるだけだからなあ…正直むしろゆっくり過ぎて疲れるくらいなんだが。あ、チュチュ。悪いが今は俺に索敵能力は皆無なんでな。お前が頼りだ!頼むぞっ!」
「まかせル!」
チュチュがザインにウインクすると羽ばたいてまた高度を上げていく。
「…ユキ、お前もだからな? てか、辛くないか? いつでも馬車に移ってもいいんだぞ」
「……お前様は少し、優しぃ過ぎるんじゃあ(ギュゥ…)」
ザインの肩にしがみついていたユキムシが愛しそうにザインの頬を擦る。
「ザイン! 右からモンスター来るネ! 数は15ッ!」
「マジか!? どうするっ!旦那ぁ」
「よっしゃ!土産にちょうどいいだろ。ひと狩り行こうぜ! 馬車はこんままで!チュチュ!援護してくれ!」
「わかタ!」
「ユキ!行くぞっ!」
「…わこうた(カァ~。…あんまユキユキ言わんといってって言ったのに!恥ずぃわぁ~)」




