王の巣と忍者な妖精
何故か先週末に投稿してなかったでござるの巻。
タイトルが少しカオスの巻。
ザインと装束に身を包んだ少女ユキムシが未だに騒ぎ声を上げる住民を背にして5、600メートルほど歩いたところにそれはあった。
「………ここやぁ」
「…こりゃあまたデカイ建物だな?」
ザインが見上げたのはまるで小さなホテル。いや集合住宅とも呼べそうな廃墟であった。珍しいのはその高さだ。この【パアルス遺跡】に現存する建物でも恐らく最も高い4階建て。まあ、遠くに見える崩れてしまった物見の塔が未だ無事であったならば話は別だが。
「わてもここまで高い遺跡建造物を見るんわはじめてじゃあ。中は中央が1階から3階まで吹き抜けになっててなあ、左右に部屋が10ずつ並んどる珍しい造りなんじゃあ。ひとつひとつが結構広くてひと家族余裕で住めそうなんやぁ。最上階には広いフロアがあってなぁ? 恐らく集会場か権力者の住居スペースと違うんか、と思うねんや」
「なるほど、世界崩壊前は結構生活水準が高かったのかもしれんなぁ。…マンションに近いつくりかもしれないが。こりゃあ、爺さんに見せれば喜びそうだなあ」
「…………」
入り口から中を興味深そうにキョロキョロと見渡すザインをユキムシがむっつりと睨む。
「…どうかした?」
「……いや、この建物はお前様にくれてやるぅことになったんや。まあ一番高い建物やしなぁ、女達もここに住まわして好きに侍らせたらいいんやぁ」
ソッポを向くユキムシ。それを見てザインは頬を掻く。
「そりゃあありがたいんだがなぁ~? …ちょいと危なっかしいぜ、ココは」
「…強度は確認済みやあ――」
ガラララッ… ズササァ…
タイミングを見計らっていたように天井から欠片と砂が落ちる。
「………場所を変えよか?」
「…イヤ、この建物自体は割と気に入った。ちょっと離れてくれる? そそ、よし。――"改造"!!」
ザインは建物に両手をついて気合いをいれる。
「なっ!なんじゃあ?!」
「…フゥ。まあ、ざっとこんなもんよ!」
風化しかけてもはや土くれのような建物がまるで大理石できたビルのような姿へと一瞬で変わる。これには後方の住民も声を上げたようだ。
「間取りは変えてないし、家具も無い。まあその辺は爺さんと相談していくことにしよう。ん? なに呆けてんだ、このくらいで? 早く入ろうぜ」
「………あ。ああ、わこうたんじゃあ…?」
ザイン達は階段を上り、最上階のフロアへとたどり着く。このフロアの天井はザインが修繕する前は無かった。しかし、ザインはそこにガラスを再現した透明な天井をあえて創った。デザイン性の欠片も無いが、月明かりがフロアを優しく照らしており、ザインはことのほか満足であった。
「……凄い!」
「思ったよりもいい感じになったな? 手入れすればもっと良くなりそうだぞ。まず何もないのは流石に寂しいな~。先ずはテーブルとイスだな!テーブルは大人数でも食事ができるくらいデッカイので、…となると角にトイレを創るべき。イヤイヤ先に水道…下水もいるな…ブツブツ」
ひとり妄想にふけるザインに置いていかれたユキムシは音も無くザインへの背と忍び寄る。そしてその首筋に…
「や~め~と~けっての!」
「………」
ユキムシの両手は後ろ向きに伸ばされたザインの手によってつかみ取られた。
「そんな殺気も感じない、お試しじゃあ俺は殺せないよ? やるなら本気でな!まあ初日から信用しろってのは無理がある。特にここの連中と毛並みの違うアンタじゃあ、なぁ?」
「…ザイン。お前様は凄い。凄過ぎるんじゃあ…!他の連中はまるで救世主と思うたやろう。しかし、わては何としても皆を守うてやりたいんじゃ。計り知れないアンタを馬鹿のように信じる訳には…」
ザインは飛び上がり、クルリと回転してユキムシの正面から顔を覗く。
「だが、俺は君に大変に興味がある。だから君を選んだ。忍者、ユキムシ」
「ッ!? やはり忍者を知るゆう事はお前様も抜け忍かぁ!? それともわてを始末しに寄越された刺客かぁ!」
ユキムシは飛び上がって距離を取る。
「イヤイヤ、抜け忍ってマジなの? …それについても話を聞きたいところだが、まず誤解を解こう。俺は他人のステータスを鑑定できる。それで君が忍者ってわかった訳。まあそのカッコで隠す気ねーなぁとは思ってたがな」
「鑑定じゃあ…!? もう何でもありやなぁお前様」
「家族の中で一番力のある者はお前だ。だから俺の手元に欲しい!ただそれだけだ」
「……わかった。汚れ仕事にゃあ慣れとるんやぁ」
ユキムシはザインを勘ぐったのか諦めたような表情と態度を吐き出す。
「ん? イヤ有能とは思ったが、その…キナに言われたからじゃあないが、んーなんだ。女性…としても興味はあったぞ」
「へはぁ?!」
赤面したユキムシが頭巾を引っ張って顔を隠す。
「イヤ俺だって恥ずかしいんだぞ? だから、なあ…せめて顔だけでも見せてくれないかな」
「あっ、あっ、アホっ!!このスカタン?! そんなことできるわけないやんかぁ!!?!」
ザインは粘り強く交渉したが、何故か頑なに顔や生身を見られることを拒むユキムシ。だがザインは少し悪い笑みを浮かべると、
「わかった!もう頼まないよっ」
「……(ホッ)」
「………だから勝手に見させて貰う!(このスキル使いたくねーんだよなぁ~レベル上がっちゃうから…)」
ザインは【強奪】スキルを使用して抵抗するユキムシの頭巾をその手に奪った。
「あっ……!!」
そこにいたのは真っ白な肌。宝石のような青緑色の大きな瞳。銀色の髪と淡く光る触覚を
額から生やした少女であった。
「いややぁァあああああああ!!?! お願い見いへんでぇ!」
「………なんで? どっかおかしいとこでもあるのか?」
「だって、だってわては蟲人!モスマンとの混血なんやぁ!」
「…だから? そのモスマンって種族がどんなもんか知らんが…普通に可愛いかよ」
ユキムシは恐る恐るザインの顔を見る。そこは非難の色など微塵も無い顔をした男が真っ直ぐに自分を見つめているだけだった。ザインは顔を庇ってしゃがみ込んでしまったユキムシの手を取って優しくその場に立たせた。そして護身用の剣も上着も捨ててユキムシを離す。
「言ったろ? 俺は使徒。こことは違う世界から来たって。…恥ずかしいが、俺はこれでもひとりでいるのは嫌いでな? 仲間…が欲しかったんだ、ずっと。だから君ら家族は理想的だった。いや羨ましかったんだろうな。自分でもよくわかんねーけど、なんだか長い間ひとりぼっちだったよーな気がしてさ。だから何より信頼が欲しい。俺は化け物みてーに見えるだろーがそんな大したもんじゃあない。だから、お前が欲しい。代わりに俺をやる。対等な対価を寄越せというなら考える。家族を守るというなら俺が守る!お前ごと丸ごとなっ。ハハ、嘘じゃあないぜ。でもこの先…俺ひとりじゃあ流石にしんどい。だから一緒に手伝ってくれないか? …俺と家族になってはくれねえかな、ユキムシ…」
ザインは頭を下げる。
それを見たユキムシは震える声で、
「わこうた…この姿を見ても後悔するんやぁないぞ…」
全ての装束を脱ぎ去った。
まるで妖精。そう思ったザインだが無理もない。何故ならば彼女には美しい翅が生えていた。半透明の4枚の翅が月明かりで幻想的に輝き。モスマン種族の特徴である鱗粉を纏った肢体がとても艶めかしい。
「…滅茶苦茶キレイなんだが? どうしてこの姿を隠す必要が…」
「この混血の薄翅を見ても本当に悪感情の欠片も無い。不思議な男やのぉ…ザイン…いや、ザイン様。この姿をお見せしたからにはお前様こそ、わての唯一の主人。地獄の果てまでもお供するんやぁ。この姿は自分の一生仕えるべき存在にのみ姿を晒せる。それがわて、モスマンの血を引く種族の女の掟なんやあ」
音もたてずに近づくユキムシにザインは抱かれる。その体は僅かに震えている。察したザインが翅を傷付けないように抱きしめ返す。
「………あの。俺、はじめてなんですけど。大丈夫? 痛くしない?」
「フフッ…本当におかしな主人に仕うてしまったんじゃあ。まあ、わても里で房中術は…一応習うてるから多分大丈夫じゃ、…良い夜に、してやぁ…」
「うん…努力はします」
「……目を閉じるの早過ぎへん?」
そう言って軽く唇を合わせると、優しく押し倒した。
ユキムシが。
(そして夜が明けた…)
「昨晩はお楽しみでしたね?」
「…見てたのか?」
「イヤイヤそこまでの野暮は流石にしないっスよ★」
「…1勝5敗ってとこだな。やはりスキルを使うべきかな…」
「…童貞だったんすから、頑張った方なんじゃあないッスかぁ~? 後半ほとんど逆にアンアン言ってたぢゃん★」
「…お前、やっぱりどっかから見てただろ。ホントやめろよ? しかもアンアンなんて言わねーし!ウッ。とかモウムリ・モウヤメテ(半泣き)くらいしか言ってないだろ」
「…そんなリアルなことウチに言われてもさぁ」
ザインが現在ザイン以外には不可視である天使のマユと朝から下世話な話をしていると、装束を纏ったユキムシが天井からシュタリと降りて来た。そしてチラリとザインを見る。微かに頬が赤い。
「…おはようございます。お前様…」
「………お、おう。おはよう、ユキムシ」
「あ~朝からイチャイチャはやめて欲しいっスね~★(…サユ姉にチクってやろうかな~)」
マユは窓から去っていく。
「さあ、皆が1階で待っとる。はよう支度してやあ~」
「わかったよ。…今日からヨロシクな!ユキムシ!いや、ユキ?」
「………頼むから皆の前では普通の顔しときたいから…やめるんやぞ?」
ザインが手直しした白亜の建物はザインの住居として住民達に知れ渡った。そこは今後、重要な会議をする場としても使われたが、住民の殆どはザインの囲った女とその家族が暮らす場所として認知され、王者が女を侍らす愛の巣。"王の巣"として口にされることとなった。




